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![]() この番組ではジャンル,メジャー,インディーズを問わず,ただただ funny であるかどうかを判断基準としている.ダジャレを終始連発する単純明解なものから,名曲の替え歌,下ネタ系,4文字言葉系,さらに誰にも分からないのでは?と思うような難解なものなど,枚挙にいとまがない.今はすっかりモノ真似アーティストおよびビデオ監督として認知されているアル・ヤンコビック(Weird Al Yankovic)も,元々はクイーンの名曲を替え歌しアコーディオンで弾き語った(!) "Another One Rides The Bus" などの自主制作曲がこの番組にて取り上げられたのがきっかけで一般的な認知を得るに至り,伝説的な「今夜はイート・イット」で大ブレイクしたという訳である. プライマス(Primus)の新作「Antipop」を聴き,その独自のユーモア,ふざけ具合を聞いていると,そんな Dr. Demento のことを思い出した. Primus は存在自体が funny だ.だいたい彼らの公式ウェブサイトおよびファンクラブのアドレスからして http://www.primussucks.com/, http://www.clubbastardo.com/だ(注).今回のアルバム名もふざけてるが,これまでの「Sailing The Seas Of Cheese」「Pork Soda」と比べたらまだカワイイ方だ.実質的なリーダーであるレス・クレイプール (Les Claypool) の奏でるベースはロック界で No.1 と断言しても過言ではないくらいにハイテクながら,その変態的なフレージングは脱力感を誘発する.そんなスゴいベースを演りながら,全くベースと関連性のない歌をヘナチョコ声で歌う.何故これらが両立出来るのかサッパリ見当すらつかないが,以前のインタビューによると「いや〜,ベースと歌は一緒に録音しないとダメなんだ.そうじゃないとノリが変わっちゃうんで〜」だとさ.オイオイ.そういえばリンプ・ビズキットのウェスは一番尊敬するアーティストとしてレスの名前を挙げていたが,妙に納得するものがある.ラリー・ラロンド(Larry Lalonde)のギターもつくづくマトモじゃない.彼も以前インタビューで「どうやって音を外すかを常に考えている」と語っていた.そうなるとブレイン(Brain)の奏でるグルーヴィーなドラムが一番マトモに思えるが,彼がマトモじゃなかったら収拾がつかないだろうからこれはこれでいいのだ. 彼らが演奏している光景もこれまた funny だ.ビデオ・クリップでの演奏シーンを見ると,見てる方が恥ずかしくなってくるようなヘナチョコな動きをし,猛烈にスゴいベースを奇妙なアクションで弾く.そんなことをやっていると少しくらいプレイがおざなりになりそうだが,そのようなことは全くなく,並行してつぶやきのような歌をフニャフニャと歌う.その後ろでドラムはバスドラを鬼のように鳴らしギターは調和を乱し...ただただ笑うしかない. そんな彼らが一般的に知られるようになったのは1991年発表のアルバム「Sailing The Seas Of Cheese」からだろう.そして,このアルバムを彼らの大傑作と呼ぶ人は多いし,自分も現時点までそう思っていた.しかし,どうやらその考えを訂正しなくてはいけない時が来たようだ. さて,早速聴いてみる.キング・クリムゾンを彷彿させるメロトロンのイントロに引き続いては "Electric Uncle Sam".これまでの彼らの曲のなかでも最もポップかもしれない.この曲を含む計3曲でレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンのギタリスト,トム・モレロがギター&プロデュースを担当している.やたらと攻撃的なスラッピング・ベースの音にギター,ドラムがタグマッチを挑んでくるのは今までのプライマス節だが,そこにトムのギターが加わると確かにスゴイことはスゴイ!イントロの簡単なコードおよび機関銃のような空ピッキングだけでトムだと一発で分かるのが笑える.しかし,その一方で,トムのギターが +α としか思えないくらいにプライマスの存在感が凄い! トム以外にはメタリカのジェームス・ヘットフィールドがギターを弾いたり,フレッド・ダーストやらトム・ウェイツやら何故か元ポリスのスチュワート・コープランドまでがプロデュースで参加していて話題性には事欠かないが...あくまでも主役は3人衆だ. テクニック的にはもう真似するだけ無駄,という領域にまで達している.実際,レスのベースは相も変わらずブットんでいて,特に "Natural Joe" "Lacquer Head" "Greet The Sacred Crow" "Dirty Drowning Man" のベースなんかこの世のものとは思えない.しかも,音がこの上なくえげつなくて図太くてババッチくて,ワイルドかつ繊細だ.これを弾きながら歌ってる,というのをシツコイ位に言ってしまうが,信じられないのだから仕方がない.ラリーのギターは猛烈に太く重い音を奏でており,重低音の本家本元ジェームス・ヘットフィールドが参加している "Eclectic Electric" よりも "Lacquer Head" "Antipop" などでメタリカ的な重〜〜〜いギター音を出している.ブレインのグルーヴィーなドラムは,時にはレスと訳分からないユニゾンをしたり,その一方でハチャメチャな2人を統合したりして,「無秩序の中の秩序」を構成している. このアルバムを聴くと一目瞭然だが,彼らの音楽には,70年代から90年代のあらゆるアーティスト達の影響がゴッタ煮スープの如く融合されている.レッド・ツェッペリン,キング・クリムゾン,ZZ トップ,ラッシュ,ピンク・フロイド(実際彼らはステージでよくラッシュやピンク・フロイドをカバーしている)に始まり,フランク・ザッパ,ポリス,メタリカ,それこそレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンやリンプ・ビズキットまで....その中で,あえて最も共通する部分が高いのは80年代キング・クリムゾンとラッシュかもしれない.実際 "Antipop" のイントロのドラムはモロにクリムゾンだし,バンドのアンサンブルという意味では多分絶対ラッシュが彼らの理想形としてあるのだろう. しかし,何をどう演っても,彼らの funny パワーは他の随従を許さないほど唯一無二のものがある.日頃,人種差別や不当投獄の矛盾を訴え,少数民族の権利や共産主義について熱弁を揮い,労働者のためにデモ活動にプラカードを持って立ち上がるロック界の活動家兼インテリ兼ギターおたくのトム・モレロに "Power Mad" で「オレ,パンティー履いてないんだ.履いたこともないんだ...」と語らせることが出来るのはプライマスしかいないだろう.ギャハハハハ! (注) suck: 俗語で「嫌気がさす,むかつく」などの意. bastard:「私生児」(軽蔑的なニュアンスで),俗語で「ひどい人,いやな人」の意. (text by しげやん)
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Last updated: 11/12/99 |