- February 1999 -


Jet Generation Guitar Wolf

Jet Generation 日本国内よりもむしろ、ギターウルフは海外でのその評価が高いことで知られている。日本ではほとんど無名だった時代から、毎年のようにアメリカ、ヨーロッパをツアーし、まさにたたき上げの人気と実力を培ってきた。「ロックンロール!」と叫び続けて幾年月。来いと言われればどこへでも行く。いや、来いとお呼びがかかるだけの国境を越えたその実力、エナジー、気合い、根性・・・・・理解不能。

しかしアメリカツアーってのは本当に大変だ。昔はこれを日本では「アメリカ公演旅行」などと直訳していたらしいが、コンサートツアーは旅行などという呑気なものではとうていない。例えばギターウルフの昨年98年夏のアメリカヘッドラインツアーの旅程の一部。

7/10 ダラス(テキサス州)
7/11 ニューオーリンズ(ルイジアナ州)
7/13 メンフィス(テネシー州)
7/15 アトランタ(ジョージア州)
7/16 チャペル・ヒル(ノースカロライナ州)
7/17 ヴァージニア・ビーチ(ヴァージニア州)
7/18 フィラデルフィア(ペンシルベニア州)
7/19 ニューヨークシティー(ニューヨーク州)

南部のテキサス、ルイジアナから、北東部のフィラデルフィア、ニューヨークに至るまでのツアーの一部である。まずほとんど休みらしい休みがない日程の中で、この都市間の移動はすべて車を用いて行われる。ギターウルフは93,4年頃からすでにアメリカツアーを行っているが、自分たちの車を購入できたのはこのツアーが初めて。星条旗をあしらった派手な中古の8人乗りバンを写真か何かでご覧になった方もいるだろう。

とにかく1回辺りの移動距離が半端ではない。7月10日から7月11日のダラス、ニューオーリンズ間の移動距離だけでも実におよそ800キロ。ハイウェイをひた走ること8時間。翌日のニューオーリンズからメンフィスまで700キロ、7時間。メンフィスからアトランタまで600キロ、6時間。アトランタからノースカロライナまで800キロ、8時間。これら信じられないほどの長距離移動を毎日毎日同じメンツでの狭いバンにぎゅうぎゅうになりながら何ヶ月も繰り返す。これがアメリカツアー。もちろんこの激しい移動の直後に、機材の搬入、会場側との打ち合わせ、リハーサル、前座の演奏、そして自分たちの1〜2時間のライヴ、雑誌・新聞の取材、そしてまた気が遠くなるほどの時間をかけて次の街への移動。

アメリカで鳴り物入りでデビューなどという表看板のもと、実は在米日本人のための慰労コンサートに成り下がったドリカムならいざ知らず、ギターウルフや少年ナイフのような一介のロックンロールバンドに五つ星の高級ホテルなどに泊まる余裕は到底ない。セイジ曰く、「こないだまでは知り合いの家とか、安モーテルに泊まってたけど、最近やっとモーテル6に泊まれるようになった。なかなかいいよー。」(What's In? ES、98年9月号より)・・・・『モーテル6』・・・・。アメリカの安モーテルの代名詞。一晩の宿泊料2人でおよそ4000円ぐらい。アメリカを5,6年ツアーしているギターウルフでさえこの有様。しかし上のように移動距離が長いとそんな安モーテルに泊まる時間さえない。一昼夜ハイウェイを走り続け、睡眠は当然車の中で。 シャワーや洗顔もままならないままそのままライヴ。 そしてまた地獄の移動。そしてライヴでの汗が体に染みついたまま再びライヴ。 そしてまた移動・・・・・。そしてそれと平行して、「このツアーを成功させなければならない」という極度のプレッシャー。 だからこんな退屈で過酷なツアーの中でも毎回テンションの高いライヴをするには? ・・・・酒を飲んで暴れる、眠れないからドラッグでハイになる、女と寝てストレス解消・・・・とまあチョイスはこのぐらいなものだ。「セックス、ドラッグ、ロックンロール」・・・・・。

ローリング・ストーンズやU2、スマッシング・パンプキンズクラスのバンドでもない限り、アメリカツアーってこんなもんである。オアシス、ブラー、ヴァーヴクラスでも同様。こんな過酷で空しいツアーがいやで、オアシスのリアムは突然アメリカツアーをキャンセルしてイギリスに舞い戻った。ヴァーヴのギタリストもツアーを前にバンドを辞めた。ブラーはこんなツアーを延々やりながらアメリカではまだ実を結ばなかった。古くはストーンズ、レッド・ツェッペリン、最近ではスミス、クーラ・シェイカー、シャーラタンズなんかもそうだ。 だからちょっと腰抜けなバンドになるととにかく移動に時間がかかるアメリカ中部、南部はすっ飛ばし、ニューヨーク、ボストンといった北東部地方、及びロサンゼルス、サンフランシスコあたりの西海岸の大都市をちょこちょこっと回って終わり、なんていうバンドもある(・・・ストーン・ローゼズやポール・ウェラーなんかもこんなだったなあ・・・)。

しかしギターウルフは違う。何と言っても彼らのアメリカでの活動の拠点は南部メンフィスにある。ここを中心にしてツアーするものだから当然ツアーは過酷なものになる。しかしそれでも彼らはメンフィスに舞い戻る。まあレーベルの問題や人間関係など、我々にはよく分からないところもあるが、本当の理由は単純なものであろう・・・・・「エルヴィス、ラヴ」。 だからギターウルフはまったくもって尊敬に値するのだ。

そんな遠い空の向こうでのギターウルフを想像しながらこの「ジェットジェネレーション」を聴いてみる。「宇宙ロックを愛して宇宙ロックに死ぬのさ!」「環七、環七、環七、環七フィーヴァー!」という歌詞を抱きながらチューニングの狂ったギターひとつでアメリカの田舎をひた走るギターウルフ。「ルックス、気合い、アクション」のみで理屈抜きにかっこいいロックンロールバンドを目指す彼らには、ダイレクトに演奏者本人達に響かない 英語も、ましてやかっこよく見せたい相手にも響かない日本語もいらない。発語の快感、これのみを追求した究極の「ロックンロール!」という言葉。その「ロックンロール!」というシャウト一発で世界を回るギターウルフの、もはや笑いさえも通り越して残った強靱さ。究極のエンターテイメントを「ジェットジェネレーション」という形に残して、また今年も彼らは島根からメンフィスへと旅立っていく。


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Last updated: 2/1/99