- March 2000 (1) -


Casanova Snake thee michelle gun elephant

Casanova Snake
心身ともに疲労して帰宅する夜中の12時ごろ、はたまた辛い寝起きに洗面所でうずくまりたくなる朝の7時ごろ、あなたはどんな音楽を聴きたいと思うのだろうか? 

漠然とそんな我が身を眼に浮かべていた若かりし頃の自分は「ロックなんてとてもしんどくて聴けないだろうなあ。俺はそういう日常の中でロックから遠ざかっていくんだろうなあきっと。歳とってまでロックなんて青臭くてとてもとても・・・」などと思っていた。実際、今思えば暇で暇でしょうがなかった日常の中で、どうでもいい小さな憂鬱を抱えてはロックの歪みを鬱陶しく感じた時も少なくなかったし、「俺ってほんとにロックが好きなわけ? コンパやカラオケなんかでいつもつま弾きにされちゃうからってロックに逃避してるんじゃないの? ロックが小心な自分の都合のいい言い訳になってるんじゃないか?」などと感じながら逆にどんどんと自分だけの孤独な世界に篭っていた時もあった。いや、はっきり言って5年間の大学生活はそんなことの繰り返しだったし、語り合う友や新しい知識と経験を求めることなく、逃避と怠惰の言い訳としてのロックをいつも自分の頭の中で都合よく鳴らしていた。でもそんな身勝手なロックとの付き合いだけで渡っていけるほど世の中ってものは甘くないということを想像できずにいた訳ではなかったのだけれども、そういった時にも来たるべき現実から目を逸らすために機能していたのがまたしても自分の中の怠惰なロックだったわけである。だからこそ怠惰が許されなくなった時にはロックなんて聴かなくなるんだろうなあ、などというロックに対するいい加減な考え方のもとにロックと付き合っていたわけだし、つまるところ「ロックに対する知識を持つ俺」を正当化するだけのためにロックの存在価値はあり、結局当時の自分はロックというものを本当に欲していたわけではなかったのだと思う。そしてロックを心から欲する状態にある自分というものを、この時には想像することすらできなかったのだ。

そしてその時から6,7年が経過した現在、というか今この瞬間、残業でヘロヘロになった月曜の夜、心身共に疲れきっているはずの自分が、ミッシェルガンエレファントのヘヴィーな音を聴きながらこの文を書いている。ロックなんて聴かなくなっているはずの自分が、何よりも強い音、激しい歪み、速いビートを求めているのは不思議でもあり自然でもある。今の自分が求めているのは緩いAORではなく、腑抜けたR&Bでもなく、ましてや演歌でもなく、ガサツでイビツでくそやかましいロックンロールなのだ。怠惰の為のロックを聴いていたあの時期を抜け、無謀とも言えるアメリカ行きを決意して昼夜のバイト生活を始め、そこで手にした金を異国での生活と新しい知識吸収の為に吐き出し、小心で臆病だった自分が変わりゆくに連れ、逃避のために寄りかかっていたロックがよりポジティヴな存在かつ象徴として自分の中に宿っていった。ロックなしでは生きられない、とまでは思わないし、ロックが一番重要、だとも言い切れないが、ロックは自分の怠惰の象徴では無くなった、と感じてはいる。寝起きでヘロヘロになったまま駅の雑踏へ向かうその重い体にこの「カサノバ・スネイク」をヘッドフォン越しに注入してやれば、GT400のモーターサイクルに乗ってあっという間に目が覚める。朝食代わりのこの一発のせいで、仕事中に腹が減ることはほとんどない。つまりロックに逃避することはほとんどない。上の空に頭の中をロックは流れない。決して要領がいいとは言えないし、仕事が出来る人間だとは全然思わない。でもロックに逃げなくなった。必要な時に必要な分だけロックを欲するようになった。若かりし時の思惑は完全に外れ、歳を経るに連れ、生活がヘヴィになるに連れ、疲れが増すに連れ、より激しいロックンロールを必要としている自分。睡眠代わりにロックを聴いているのかもしれないし、「カサノバ・スネイク」はそういう意味で麻薬的なのかもしれない。でもそんな麻薬に寄りかかりはしないし、怠惰の言い訳にもしない。ほんと、逃避的なロックの聴き方をしてるんだったらこんなレビュー書かないよ。ならとっくにロックから足を洗っていると思うし、こんなホームページもやっていないと思うし。

はっきりいって昔よりもCDを購入する枚数は減った。自分に本当に必要だと思えるロックしか買わなくなった。自分の生活に本当の潤いをもたらしてくれるロック・・・・そんな盤のひとつがこの「カサノバ・スネイク」というアルバムであり、ミッシェルガンエレファントというロックンロールバンドだ。こういうタフな音に出会い、それが日々の生き方の糧となるなんてことは数年前の自分には想像できなかった。自分自身のポジティヴな変化を再度実感しながら、「カサノバ・スネイク」は明日の朝も自分のボンヤリした頭を再びシャキっとさせてくれることであろう。


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Last updated: 3/6/00