++ May 1998 ++


5 Lenny Kravitz

最近古い60年代、70年代のR&Bやファンクを好んで聴いているのだけれども、当時白人ロックミュージシャンに多大な影響を与えたこれらの黒人音楽というのは現在はっきりいって死に絶えてしまったといってもいい。モータウンの衰退に伴い、R&Bはより無機質に、よりスウィートに、そしてより黒人向けに発信されるようになり、白人ロック音楽と共通項を見出せるR&Bミュージシャンというのは現在一人もいない。もっぱらロックとの融合が進んでいる黒人音楽は現在ラップであり、もはやR&Bは自分にとっても、多くの非黒人達にとってもかったるい、とても分かり得ない音楽であり、より黒人の嗜好を反映するような形で作られている。

白人、黒人という言葉を何度も使ったが、この辺りのことをよく分かっていないと、レニー・クラヴィッツのことを理解するのは難しい。前にも言ったように黒人音楽がより黒人コミュニティー向けに製造されている現在、レニーのような比較的伝統的なR&B及びファンクというものを歌う黒人ミュージシャンは皆無に等しい。実際彼の音楽は非黒人向けに流通されているし、コンサートでも彼のオーディエンスのなかに黒人の姿を見ることはまずない。黒人の中において彼の存在は異端であり、異端であるからしていい意味でも悪い意味でも目立つ存在であり、両人種から非常に攻撃を受けやすい立場にあるのである。

また白人、黒人という話しになるが、この人は黒人ということで大変な不利益を被っている。いわゆる60年代、70年代好きの回顧趣味者というレッテルによる白人ミュージシャンらからの徹底的な攻撃である。なぜ同じ回顧趣味者であるオアシスやブルートーンズが寛容に扱われているのか。それはひとえにレニーがアメリカ出身の黒人であるからに他ならない。なおかつアメリカ人が大好きなマッチョイズムむき出しときているのも大きい要因だ。これら表面的なアティテュードが多くの白人ミュージシャンの反感を買い、レニーをより異端なものへと押しやることになっているのである。

そんなこんなで、91年の「ママ・セッド」発表で当たって以来、アメリカでの人気は目に見えて下降の一途を辿っているレニーだが、日本ではそんな逆風もろともせず、アルバムを発表するたびに爆発的にファンを増やしてきた。そしてこのニューアルバム「5」ではそのほぼ絶滅状態にある古典的なR&B、ファンク路線を強力に推し進め、なおかつ80年代のテイストも随所に聴かせるようなそんな作りになっている。私、個人的にはどうしようもないぐらい好きだが、日本はともかくとして、果たしてこの盤が欧米で受け入れられるかは甚だ疑問ではある。このアルバムを聴いて、時代遅れのミュージシャンとして烙印を押す、そんな欧米のリスナーの聴覚は理解できないことはないのだけれど、現在の欧米の音楽的状況を考慮した上でも一抹の寂しさは拭いきれない。そんなわけで、大興奮を覚える一方で、またしても複雑な気持ちになってしまうような、そんなレニーのニューアルバム、「5」なのである。

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Last updated: 5/12/98