- May 1999 (1) -


Echo Tom Petty & The Heartbreakers

Echo プロレス・ファンにとって、99年前半は辛い時間を 過ごさなねばならなかった。

偉大な3人のプロレスラーを失ったからだ。

‘ローリング・ドリーム、オーッ!’ ジャンボ鶴田、
‘平成の格闘王’ 前田日明、

そして、

‘東洋の巨人’ ジャイアント馬場

である。

自分が子供の頃、馬場さんは確かに世界最強であった。
しかし、最近の馬場さんのファイトスタイルは、 強さを見せるのではなく、楽しさを伝えるものであった。
どんな気持ちで戦っていたのかはわからない。
しかし、馬場さんは生涯現役のまま、この世から去って行った。
還暦を過ぎてからも、リングにたち続けていたのであった。
少なくとも一時期はメイン・イベンターだったのだ。
それが前座に降り、会場に来ているファンを楽しませていた。
子供から大人まで、みんな笑いにまみれていた。
馬場さんの試合には、居心地の良い、暖かい空間が作られていた。

そんな時期でもあり、このトム・ペティー&ザ・ハートブレイカーズの 新譜を聞いた時に、真っ先に思い出したのは 馬場さんの試合の『心地よさ』であった。
ハードな曲は、本当の強さを、
スローな曲は、真のやさしさを、 僕に伝えてくれる気がする。
一貫しているのは、どんな曲でも、トムのヴォーカルが 彼本来の優しさを切々と訴えかけてくれるのだ。

なんだ、馬場さんと一緒じゃないか。

トムの印象は、自分が初めて出会った高校生の頃と全く変わっていない。
それでいて、全く古さを感じない。
時代に流されない。

なんだっていいじゃないか。
その心地よさに酔っていればいい。

彼らも生涯現役だろう。
それでいいのだ。

死ぬまで、ギターを抱えて歌って欲しい。
馬場さんがそうした様に。

(text by れいく)

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これがいよいよ14作目(ベストアルバム含む)となるアメリカの大物,Tom Petty & the Heartbreakers の新作である.日本における彼らの評価は残念なことに極めて低いが,海の向こうではこれがスゴくて,グラミー賞を受賞したり,MTV Video Award を繰り返し受賞したり,1993年発表のベストアルバム "Greatest Hits"の発売枚数が累積800万枚を越えたり,ネット上で MP3形式で発表された本作の先行シングル曲 "Free Girl Now" のダウンロード数がわずか2日間で15万件を越えたり,とにかくその評価の差には悲しいくらいに大きいものがある.

また,音楽業界におけるバンドおよびメンバーに対する評価,信頼というのも計り知れぬものがある.Eagles,John Fogerty, The Rolling Stones, Alanis Morisette, The Wallflowers などのアルバムの他,最近では Reef の新作 "Rides" などでセッション・プレイヤーとしてメンバー達の名前を発見することが出来るなど,各メンバーは最近の音楽業界の裏方職人といっても良いほどの面々である.また本作のプロデューサー Rick Rubin も Red Hot Chili Peppers や Kula Shaker の"Peasants, Pigs, and Astronauts"の一部をプロデュースしてきた大御所である.このような面々があくまでも「音」を勝負に出てきた意欲作,実際に聴いた後はただただ聴き惚れるばかりであった.

その「音」であるが,これは別に派手なわけでも煌びやかなわけでもない.もちろんテクニック的には申し分ないが,それを見せびらかすようなことは絶対ない.最近の彼らのアルバムの傾向ではあるが,シンセサイザーやサンプラーなどに頼ることなく,あくまでも「生」の音を重視した,非常に温かみのある音である.

オープニング曲の "Room at the top" からしてスゴい.けっこうメローで静かめな曲調で「年とったか?」という懸念を感じている間もなく,むちゃくちゃリズミカルなギターの刻みが加わり,その迫力に圧倒される.他の曲も全体的にテンポはゆっくり目ではあるが,だからといってマッタリしている訳ではない.「静けさの中の激しさ」とでも言えるのか,凄みがあちらこちらに感じられる.例えば, "Lonesome sundown" でのイントロのピアノの音はまるで自分の隣でピアノが鳴り響いているかの如く耳に,そして心に響き渡る.さらに,この曲が中盤にかかり少しずつハモンド・オルガンが加わってくると,そのスゴさたるや,言葉に出来ない.ゆっくり目の曲ですらそうなのだから,"Free girl now" "About to give out" などのキャッチーかつアップテンポの曲でのカッコ良さは言うまでもないだろう.

本作を通じて改めて感じたのは,彼らのシンプルながらも卓越した作曲能力,アレンジ能力である."Accused of love" や "This one's for me" のようなシンプルな曲は一歩間違えれば極めて単調になりかねないのだが,それをここまで優れたものにしているプラスアルファは一体何なのだろうか.ただただ感心するしかない.

また,このアルバムのなかでキワモノ的存在の曲 "I don't wanna fight" があり,これがまた壮絶である.20年選手の彼らのなかで,唯一コーラスすらとろうとしなかったギター青年, Mike Campbell がいきなりリードボーカルをとっている.しかも,これが思いっきりアホっぽいロックン・ロールである.さんざん彼らのスゴさについて語ってきたが,そこまでの地位に上り詰めながらアホなことをしているところがまた最高である.

前述の通り,アメリカでは大々的にツアーが行われようとしているが,日本には1986年以降来ていない.ぜひ本作を機会に来日公演を観たいと思っているのは決して自分だけではないと思うのだが.

(text by しげやん)



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Last updated: 5/9/99