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横浜アリーナ - 2/20/01
(reported by しげやん)
![]() 会場へ向かう車中でそのCD-Rがかけられたのは想像に難くないが、幸運なことに彼女は殆どの曲をAFN(旧FEN)で聴いて知っていたようだ。よって、更なる知識を深めるためボン・スコット(Bon Scott)死亡の悲劇やら、キリスト教超党派に一方的なバッシングを受け「あんたらのバンド名を知ってる。Anti-Christ, Devil's Childrenだ!」なんて訳分からんこと言われてた逸話(注1)などを話題にして準備に備えた。 第三京浜を降り新横浜の会場に近づくにつれ、自分の不穏ぶりに驚いた彼女はこう言った…「ねえ、何か落ち着きないでしょ?」と。それに対して自分は「鐘が鳴るかな…」「ロックしようとする人には敬礼しなきゃ…」「大砲が…」とブツブツ独り言のような返事をしたが、きっとその意味は通じてなかったことだろう。 しかし、会場に到着すると一転して彼女の方が驚く側となった。おびただしいダフ屋の数、そしてグッズ売り場からすでに感じられる異様なまでの雰囲気。「えっ、AC/DCってそんなに日本で人気あったの?」と言った直後、アンガス姿になったどう見ても40歳過ぎのオヤジに大ウケし、客席へ行ったところ始まる観客席のウェーヴやらアンガス・コールにぶったまげていた。頭上を見上げると巨大な鐘が準備されており、当然の如くバンド・ロゴが刻印されてあった。しかし、自分たちのいるところからは"A"しか見えない状態で、「まさかAの次に"BBA"って書いてないよね」と、我ながらくだらないギャグを言って、お互い平常心を保とうとした。 そして。客電は落ちた。そして、超異次元的空間ライヴが始まり、以降冷静な気持ちを保つことは不可能となった。 意外とさりげなくメンバーたちが登場し、オープニングは"You Shook Me (All Night Long)"。おーー〜っ、まさにあのギターとドラムの音だ!これだけのデカい会場だと音がダンゴになってヘタすると雑音にまでなりかねないが、彼らに限ってそんなことはない。何て音のキレがいいんだ!マルコム兄(Malcolm Young)のリズムギターはシャープで切れ味が絶妙だ。アンガス(Angus Young)のギターはあれだけの派手な動きが信じられない程繊細で、マルコムと同じ音を弾いているかと思うと微妙にズラしていて、これまた芸が細かい。クリフ(Cliff Williams)のベースはズンズン聴こえてくるし、フィル(Phil Rudd)の一芸数十年的なドラムはやたらと生々しい。テクノロジーの進歩に伴いドラマーもズルが出来るようになった(注2)今日この頃だが、こんな生々しい音をサンプリングで作れるもんだったら作ってみろ、おらおら。そして、ベレー帽をかぶった一見飲んだくれオッチャン風のブライアン(Brian Johnson)は例のしゃがれシャウトを振り絞る。さすがに20年前とは声質が変わっているが、同じだったら逆に不気味かもしれないが. 特に!ギター兄弟のザクザクジャキジャキ攻撃にはどんな言葉をもってもそのスゴさを形容することが出来ない。 アンガス!ビブラートが感動的だぞ!コードが気持ちいいぞ!どう見てもギブソンSGのリア・ピックアップしか使ってないはずなのに、音の大和撫子七変化状態はどうしたものか?音色が場面に即して刻々と変化し、観客の反応をよーく見ながら、その場面に応じてキュイーンとチョーキングを加えたり、弾く代わりに拳を天に挙げたり左手だけで音を鳴らしてステージを走ったり…神業だ。 そしてマルコムのギター!アンガスが音量を絞ったときにはクリアーながらもパワフルな音として聴こえ、アンガスがフルパワーになるとそれを生かすべく相乗効果となるのはどうしてだ。兄弟間の厚い絆ゆえなのか。長年そのボロボロ・ギターを愛用してるのはよく分かるが、調べてみたら前回の来日公演にも同じギターじゃねーか、この野郎。(注3) 予想していた通り、動き関係はアンガスとブライアンが担当する。で、アンガスはひたすら動く!動いて動いて走り走り、目を離したらどこにいるか分からない。ステージ中央の花道を通ったり、コケーコッコッコーとステージ端まで文字通りダックウォークしたり、あり余るエネルギーだ。だからといって他の面々は全く手を抜かない。フィルは黙々とすごいグルーヴを創る。マルコムとクリフは定位置を崩さず、アタマを振りながら足でリズムを取り、土台を築く。また、"Stiff Upper Lip"などではあの低い地響き的なバック・コーラスを加え、その底力的な存在感を改めてアピールする。 巨大なアンガス人形がステージに登場する。目が光ったりケムリを吹いたりツノが生えるのは、もうそれだけでアホらしくてそれだけで爆笑の対象となりうる。しかし、"Sin City"でアンガスが追い討ちを掛けてストリップ・ショウを始める頃には、ますます笑いが止まらなくなる。もちろんアンガスのことだ、観客をジラすなんてお手のモノで、結局アンガスのジラし技にハマった我々が見たのは日の丸の入った「あんがす」パンツだった。ギャハハ。 で、来ましたよ"Hells Bells"。天井にセットアップされていた鐘が降りてきたときには自分を含めて一同からどよめきが上がったが、その鐘にブライアンがミュージカルよろしく飛び乗ったときにはもっとビックリした。そして、あのイントロが始まった瞬間…間違いなく、中盤のハイライトだろう。 次の見せ場はやはり"The Jack"だろう。セクシュアルな行間の意味を含んだこの名曲におけるブライアンと観客との掛け合い、アンガスの官能的ビブラート攻撃は言うまでもない。しかし、それだけに留まらない。何と、電光スクリーンにはオッパイを出した白人オーディエンスがアップになって映っている!これって、アイドル水泳大会における「オッパイ係」みたいに仕組まれたものなのか?どうでもいいが。いや、よくないか。でも、オッパイと同じ位に映っていたアンガス・コスプレの日本人女性、やたらと可愛かった。 以降は理性なんてないに等しい。"Back In Black"からラストまでの大名曲5連発!!アンガスは鬼のようにビブラートし、片手だけで音を鳴らし、右手で客を煽る。スクリーンにアップされるたびに滝のような汗が飛び散っているのが見え、それを見るこちらも汗だくになる。ブライアンは花道でファンサービスを行い、マルコムとクリフは"Dirty Deeds"で悪魔チックなコーラスを入れる。"Whole Lotta Rosie"では78年のライブアルバム『ギター殺人事件』(最高の邦題だ)のヴァージョン同様、ノッケから拍手と掛け声が入り、当然自分も参戦する。そして、ステージ上に出現した巨大な女性オブジェがそれを煽る。 メンバー達は一旦ステージを降りるが、自分も含め、彼らのエネルギーについていけずゼーゼー言ってた気がする。そのためか「パンッ パンッ パンッ」という形式的なアンコールの拍手はなかった位で、むしろ皆呆然としていた。でも、言うまでもなく、あの曲…それを聴くまでは誰も帰るわけがない。 で、アンコール一発目に「あの曲」を演ってくれるのかと思いきや、初期の大名曲"T.N.T."だ!!しかもコーラスは例の2人ではない、うわーー〜〜〜っ、アンガスが"Oi! Oi!!"と煽ってる!アタマの中が真っ白になりながらも、ステージ後方に大砲がセッティングされているのは見逃さなかった。 そして。「あの曲」だ。 For those about to rock... we salute you. ブライアンが叫び、アンガスがあちらこちらへ行き、クリフとフィルがリズムを固め、マルコムが長髪を振り乱すなか、大砲が鳴った。 あまりにもテンションが高過ぎる演奏のためか、待ちわびた気持ちが満たされたゆえなのか、それとも「あの曲」がラストナンバーなのを皆が分かっていたからなのか、その理由はよく分からない。客電がついてからは誰もが放心状態でつっ立っていた。でもセットリストはもらったが。(「だいぶ前のやつしかないんだけど…」と言われたが。確かに選曲は違う。) 考えてみれば、一体どれだけ待ったんだろう。今から二昔前、ロックンロールなんちゅう邪悪な世界をようやく知りつつあった小学生の頃だった。ガキんちょが出会ったのは『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』というLPレコード。安っぽいモーテルをバックに目線の入った人々たちが映るうさん臭いジャケット。タイトル曲の歌詞なんて「汚い仕事、安く殺りまっせ」っちゅう怪しいもので、ボン・スコットの悪魔的なシャガレ声が小学生に拭い去ることの出来ない刻印を残し、以降ロックンロールから抜けられなくなったことがアタマの中をよぎった。 感傷的になりながら会場を出ようとし、グッズ売り場でボーっとしていたところ、次の声が繰り返されていた。 「すいません、ツノ下さい!」 最後の最後までAC/DC、笑わせてくれるよ。
(2,3曲の間違いはあるはずです)
(注1)1980年初頭、アメリカのTV番組でヤリ玉に挙げられていたのを見た。同番組で「逆回転させると悪魔のメッセージが聞ける」と、同じくいちゃもんの対象となったのはLed Zeppelin"Stairway To Heaven"だった。ウソのような本当のハナシだが、Marilyn Mansonのバッシングを考えると、結局アメリカは20年間何も変わっていない、ということなのか。 (注2)ドラムに感知センサーを装着することにより、小音量でドラムを叩いてもセンサーが設定されたドラムのサンプル音が出る仕組みが巷では出回っている。 (注3)プレイヤー誌1982年8月号より抜粋。
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Last updated: 2/ 23/ 01 |