Aerosmith 夢の舞台はオヤジばっか

Madison Square Garden, New York City, NY - 8/ 6/97 Set List

with Jonny Lang


私がこの灼熱地獄のテキサスを抜け出して、なぜ北へ向かったか。一つは長年の夢であったゴルフのメジャー・トーナメントを見ること(丸山すごかったぜえ)。そしてもう一つが世界中のミュージシャンが一度は夢見るステージ、マジソン・スクエア・ガーデンでのショーを見ることであった。今夜その夢のステージに立つのが、エアロスミス。最高の舞台と最高のアーティストを最高のタイミングで見ることが出来るこの日、期待とかドキドキとかいったレベルを超えた、ひょっとして今人生で最高の至福のときを迎えようとしているのではないか、そんな気さえしていた。特に昼間から会場周辺には、恐らくエアロとともに人生を歩んでこられたのであろう長髪の中年の輩達が、Nine LivesのTシャツに皮のパンツでさっそうと歩っているのを見たりすると、嫌が上でもそんな気分に拍車がかかっていく。

この日は8時開演ということで、まあ前座が30分遅れぐらいで登場して、それからまあどう考えてもエアロの出番は10時過ぎだろうと思っていた。しかし、8時半過ぎに会場入りしてみると、ちょうど前座のJonny Langが最後の曲を終え、ステージを降りるところであった。時間通りの開演だったのであろう。ある意味で今のエアロのように健康的な進行状態ともいえる。

場内の明かりがつき、改めて辺りを見回してみる。ここをホームコートにしているNBAのNY Knicksの選手のゼッケンなどが見える。ちょうど横浜アリーナと武道館を足して二で割ったような感じで、私のいるアリーナ後方の席は、傾斜がつけられていてステージが見やすいようになっている。日本と違う点は、セキュリティの人達が明らかに学生バイトなんかではなくて、きちんとスーツできめた紳士風の人達が客の誘導に当たっていたことだ。

ステージ上に目を移す。アルバムNine Livesのイメージに合わせたのだろうか、コブラの模型が一面に4体、赤い猫の人形が両端に2体セットされている。スピーカーが中につるされジミヘンなんかのエアロお気に入りのナンバーがかかっていた。

客の出足は鈍いようで、前座が終わって数十分経ってもまだ客席は半分の入りといったところ。言うまでもなく客層は様々であるが、前回のツアーで見た日本でのそれに比べると、こっちの方が明らかに年齢層は高いといった感じがする。しかし例のごとく辺りはマリファナ臭くて、よくみると前の列の人達がマリファナを隣にまわしながら吸っている。俺のところに来ないことを祈るのみ。

やっと空席が見られなくなった夜の9時を10分ほど回った頃、やっと客電が落ちた。ものすごい歓声。俺は文字通り割れんばかりの歓声というのをこの時初めて聞いた。声があまりにも大きいため、歓声がひずんで割れているように聞こえるのだ。耳が痛い。こんな経験は初めてだ。

前回のツアーで見たような幕がドラムセットの周辺に落ち、そこにメンバーが入っていく様がシルエットで浮かび上がる。客席のエアロを求める声が最高潮に達した頃、ジョーイのドラムの音が聞こえて来た。一曲目は予想通りニューアルバムから「Nine Lives」。幕が落ちて5人のメンバーがその姿を現す。スティーヴンは上着と靴がオレンジで、黒のタンクトップを中に着込み、帽子もこれまたオレンジ色のものをかぶっている。ジョーは赤っぽい服の中に黒のTシャツ姿で、黒のレスポール。トムは黒のスーツ姿で白のベースをもち、メンバーの中で一番クールにみえる。残念ながらジョーイは良く見えない。そういえばブラッドはどこだあ、と思っていたら一段高くなったドラムセットの横でテレキャスターを弾いている姿を確認。これらエアロスミス不動のメンバーに加え、向かってステージ左隅にサポートのキーボーディストを発見(正直ライヴ半ばまで気がつかなかった)。コーラス、ピアノ、タンブリン、管楽器といったように、エアロの楽曲を完成させるための非常に重要な役目を負っていることに気づく。

場内は総立ちとまではいかない。やっぱり年配が多いのか、それともニューアルバムの評判が良くないのか。日本のエアロのコンサートでは考えられないことである。音もあまり良くない。武道館の方が絶対いいよ。半分ぐらい座ったままの状態で、「Love In An Elevator」に突入。ジョーの左斜めから扇風機の風が当たって、髪がなびくのが見える。

再びニューアルバムから「Falling In Love」。そしてブラッドがギブソンにギターを持ち替えて「Same Old Song And Dance」のイントロを怪しげに弾き始める。続いてES335を持ったジョーのソロ。やっと場内に活気が見え始めた。しかし次の「Hole In My Soul」でまた大方の客が椅子に座ってしまう。ニューアルバムからの曲ははっきり言って受けが良くない。

ジョーのスライドギターでのジャムに引き続いて「Monkey On My Back」。トムがステージ向かって左隅に位置を変え、スティーヴンは上着を脱いでそれを振り回す。そして再び1、2曲目のギター構成に戻りコンサート前半のハイライト「Living On The Edge」へと突入。名曲だ。

ブラッドが柔らかいストロークでアコギのカッティングをいれ、スティーヴンのハーモニカが気持ちいい「Pink」。また客の熱狂が冷めゆく中で、日本人と思しき女の子二人組が踊り狂っている姿が見えた。やっぱり日本人は気合いが違う。なんか嬉しい。続いてペダルスティールがジョーの目の前にセットされた。曲は当然「Rag Doll」。ブラッドもエクスプローラーにギターを持ち替え、ブルージーなカッティングを聴かせる。

次の曲に入る前にステージ後方のセットが一新され、東洋風のイメージに変わった。想像はついたがこれは「Taste Of India」用のもの。この曲、トムが面白いベースの弾き方をしていて、まるでお坊さんが木魚を叩くときに使うばちのようなものを持って間奏部分で弦を木魚のように叩いていた。それ以外はそのばちを右手に持ったままプレイし続ける。陰の努力ではあるけれど、彼は彼でなかなか大変だ。だがこの曲はプレイヤー側の熱意とは裏腹に、異常に盛り下がった。

しかし「Jenny's Got A Gun」でまた復活。前のメキシコ系おやじが俺の方をみて奇妙な踊りをやりだした。はっきり言って迷惑。次の「Last Child」では前座のJonny Langが登場してギターソロを弾いた。この演出は正直どうも気に入らない。どこの馬の骨ともわからない奴がエアロの隠れた名曲の大事なパートを奪ってしまったようで気分が悪いのである。彼には申し訳ないけれども。

そしてスティーヴンが「Joe Fuckin' Perry」と紹介する。いつものようにギターをいじくりまわしながらMCするジョー。ニューアルバムで彼のヴォーカルが聴けなかったこともあって、どの曲をやるのか非常に注目していた。だが期待は裏切られた。彼の話では「Hole In My Soul」のB面の曲ということだったが、私を含めて恐らく会場にいたどれほどの人がその曲を知っていたか。典型的なジョーならではのロックンロールナンバーで、スティーヴンがジョーのマイクでコーラスをとっていたけれども、この日一番受けが悪かった。私もがっかりした。ステージと客席の間に大きな溝ができてしまった感じ。ジョー、なんでだよう。

気を取り直して次のナンバー、ジョーのスライドで「Something's Gotta Give」。そしてこの日のサプライズ「Rats In The Cellar」。この会場に最もふさわしいナンバーだ。「New York City blues, east side, west side moves」というところでスティーヴンは、左、右へと指をさして、その意味を身体で示す。この曲の後半はジョーの独壇場。比較的淡々と弾いていたように見えたこの日のジョーであったが、この時ばかりはくるくる回転しながら切れのいいソロを次から次へと繰り出す。観客もその世界にどんどん引き込まれていっている様子。大歓声でその健闘をたたえる。しかし次のイントロでその歓声はさらに大きくなった。曲は「Dream On」。ジョーは前のナンバーとうってかわって、ES335でアルペジオで美しい流れを作りだし、スティーヴンのヴォーカルにバトンタッチする。客席からライターの火がともる。私の前のおっさんは100円ライターでなかなか火がつけられず、苦労している様子。蛇足ではあるけれども、なぜかこの曲でドラムセットが回転。この演出、意図が不明。一体あれは何だったのでしょう。

続いてこれまた殊玉のバラード「Cryin'」。結局アルバム「Get A Grip」から演ったのは2曲だけで、ちょっと不満。でもその分古い曲が多くてよかったといえばよかったのだけれど。古いといえば次の「Sweet Emotion」もそのひとつであろう。例のごとくトーキング・モジュレーターでモゴモゴやるジョー。この曲でジョーは青のテレキャスター使ってたっけ。Led Zeppelinの「Dazed & Confused」をちらりと演奏して、圧倒的なエンディングを迎えた。

「Good Night, New York!」と確か言ったようにきこえたので、てっきり終わりかと思いきや、またすぐにスピーカーから音が出てきた。「Mama Kin」だ。ピアノのアクセントがとても気持ちいい。ブラッドのソロの後、マイク1本でコーラスをとるジョーとスティーヴン。非常に重たい演奏で、トムのベースが重圧なノリを出すのに大きく貢献していたように思う。これで本当に本編が終了、いったんメンバーはステージを降りる。

大歓声に呼び戻されたエアロスミス。ここでまた客のテンションを落すような曲をやる。ニューアルバムから「The Farm」。水をうったように静かになる。「And I feel like New York City」と唄うと少し歓声が上がった。この曲中には途中でいったんブレイクする部分があるが、観客は曲が終わったと思ったのか大歓声。明らかに早く次の曲へ行っておくれ、という様子が見え見えであった。

続いてスティーヴンが曲を紹介する。初期の代表曲「Train Kept A Rolling」だ。タメの効いた演奏にまた場内は興奮のるつぼと化して、サビの部分では「all night long!!」と叫んでこぶしを振り挙げる。すぐにウェインズ・ワールド2を思い出させた「Dude」ではジョーがファイアーバードを、ブラッドがエクスプローラーを持って楽しそうに演奏している。そういえば後日、その映画の主人公ウェイン役のマイク・マイヤーズの番組、サタデー・ナイト・ライヴにエアロスミスが出演していて、「Nine Lives」なんかを演奏してたっけ。

「Dude」の圧倒的なパワーからうって変わって、ドラムがゆったりとしたビートを刻み始めた。ジョーがファンクっぽいギターカッティングでそのビートをグルーヴさせていく。何とジェームス・ブラウンの「Mother Popcorn」である。「See, well you got to have a mother for me」と何回か唄った後、今度は「Eat The Rich」のイントロのラップ部分まで口ずさむスティーヴン。そのまま「Eat The Rich」に突入かと思いきや、ドラムを加速させて最後のナンバー「Walk This Way」へとなだれ込む。素晴らしいアレンジ。これもまた比較的タメを効かせた演奏で、ある種の余裕さえもうかがわせながらこの日のフィナーレを迎えた。

全23曲、ちょうど2時間のギグ。ここまで書いてくるとお分かりの通り、客はヒット曲で盛り上がり、新しい曲はまったくだめ。明らかにエアロスミスに懐メロコンサートを期待しているのである。しかしそうならないギリギリのところでエアロは踏みとどまっていた。私ももちろん昔の曲をたくさん聴きたいし、お約束の曲も当然やってほしい。だが違う今のエアロも聴きたい。正直ニューアルバムはあまり評価していなかったが、このライヴを観て考えが変わった。どれも本当にコンサート栄えする曲ばかりだ。前のアルバムが歳の割に妙に力の入った曲群だっただけに、こっちの方が自然で好感が持てる。多分日本のファンの方がその辺りかなり正当に評価しているのではないかとも思っている。マジソン・スクエア・ガーデンなんかよりも武道館で見るエアロスミスのコンサートの方が絶対正しい。


  1. Nine Lives
  2. Love In An Elevator
  3. Falling In Love
  4. Same Old Song And Dance
  5. Hole In My Soul
  6. Monkey On My Back
  7. Livin' On The Edge
  8. Pink
  9. Rag Doll
  10. Taste Of India
  11. Jenny's Got A Gun
  12. Last Child (w/ Jonny Lang)
  1. Falling Off (sung by Joe Perry)
  2. Something's Gotta Give
  3. Rats In The Cellar
  4. Dream On
  5. Cryin'
  6. Sweet Emotion - Dazed & Confused - Sweet Emotion
  7. Mama Kin

  8. The Farm
  9. Train Kept A Rollin'
  10. Dude (Looks Like A Lady)
  11. Mother Popcorn - Walk This Way


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Last updated: 8/ 25/ 97