Beck これでいいのだ


渋谷公会堂 - 4/11/99


ライヴの前に立ち寄った渋谷の喫茶店。そこで思いっきりベックのミューテーションズがかけられていて結構ウケる。とにかくこれが生涯初の渋谷公会堂。そしてこれが世界のどこでも行なわれていない、アルバム、ミューテーションズプロモーションのためのスペシャルなジャパンツアー初日。小雨交じりの肌寒い天候だけれど、とにかくダフ屋の息のみがやたらと荒い。もちろん外で会場入りを待つお客さん達の息もちょっとは荒い。

開演時間の5時半を過ぎても客を入れきることができないコンサートスタッフの手際の悪さ。そしてそんなこんなしているうちに着席するやいなや突然のライヴの開始。 客電が落ちてもなんだかまだ開演の気分にはなれず、場内はどよどよというざわめきのみが支配する。

メンバーがぞろぞろと登場してようやくその時の始まりを実感して歓声を上げるオーディエンス。しかしこちとら、「マ、マジかよ。はえーよー。」ってなもんで、まだ準備万端には至らず。もう少しじらしてもらって、あの開演前の期待感を少しは楽しみたかったのになあ。

ベック登場。椅子に腰掛けアコースティックギターを構える様は、なんだか最近のエリック・クラプトンみたいだが、とりあえず1曲目の「Lazy Flies」にまったりと入る。会場はとりあえず総立ち。バンドメンバーは、ギター、ベース、キーボード、ドラムス、ストリングスx2、ホーンx2、そしてDJ Swampさんとベックの計9人かな? ステージ後方に簡単な垂れ幕(?)のようなものがあって、そこにミラーボールの光が当たったりしている。

「Cold Brains」「Bottle Of Blues」「We Live Again」「Sing It Again」と、アルバム「Mutations」からのまったりナンバーが続く。「サンキュー」「アリガトウ」という言葉を残しながら、必ず曲のタイトルを紹介してまったりと次のナンバーへと移っていくベック。ツアーしていないこともあってさすがにメンバー間の呼吸はぴったりとは言えない感じだが、そこがまた逆に微笑ましくて良かったりする。「Bottle Of Blues」でのギタリスト、スモーキーのスライドプレイも味わい深かったし、結構ヒマしているホーン隊はタンブリンを振りながらニコニコしていたりする。ベーシストのジャスティンはこれまた操り人形みたいな動きで楽しませてくれるし、ストリングスの2人の音はこれまた逆に強暴な響きを感じさせたりもする。

彼が座ってプレイしているときには気がつかなかったが、ギター交換の時に立つベックを見ると、なんと彼は黒いマント姿! いつ脱ぐのか、いつ脱ぐのか、とハラハラしながら見ていたが、結局本編では脱ぐことはなかった。しかしなんなんだあの安っぽいマントはぁ?! マントを着ながら桜の花を見に行きたがるベック。「How about cherry blossoms?」と聞いた後、ちょっと間を置いて、「サクーラー」・・・・。

6曲目に「Jackass」。この流れで聴くとこんなまったりナンバーもとてつもないダンスチューンに聞こえるからあら不思議。ギターのスモーキーがバカみたいにソロを弾きまくる弾きまくる。思わず微笑んでテンションの上がるベック。打って変わってタイトル通りにトロピカンなガットギターの響きが美しい「Tropicalia」。ベックもギターを取らずにボーカルに専念。

まったりまったり来て「Sissyneck」。フジロックではハードなギターロックなアレンジだったと記憶しているが、ここでの「Sissyneck」は見事なまでにアコースティックなアレンジ。でも後半にはドラムソロもフィーチャーされていてちょい大盛り上がり。

結局本編はインド風なイントロで始まった「Nobody's Fault But My Own」と、ベックによるギターのリアピッキングが耳に残る「Deadweight」であっさりと終わってしまったわけだが、ライヴ開始からここまでがおよそ50分強。やっぱりかなり短い。とにかく彼のダンスが見られていない。「ルーザー」をやれとは言わないから、ちょっとは踊ってくれ!・・・ってな思いを抱きながらアンコールを促す拍手を打ち鳴らしていた。 しかしこれはファンとしては正しい姿なのだろうか?

まずバンドが戻ってきてちょっとした後、今度はマントを脱いで、腕のところにヒラヒラカウボーイお下がりが付いたラクダシャツを着ているベックが再登場。なにげに実はキーボーディストのロジャー・マニング(ex-Jellyfish)がピンクのマントを着ていたりする。そしてベックはいきなりオーディエンスを熱狂の入り口へと持っていく。

まずは「Novacane」。下から見られる本物のセットリストには書かれていないから、ひょっとしていきなりの思いつきで演奏された曲なのかも。(客の静けさにベックが業を煮やした?) 左右に動き回って煽るベック。前から9列目という比較的いい席だったのだけれど、それでも遠く感じられていたベックが、このときばかりは思いっきり近くまでやってきてくれてその表情をはっきりと確認できる。そ、そして踊るベックがそこにぃ!

転調を延々と繰り返した「Diamond Bollocks」を間に持ってきて、なんと「New Pollution」!! まさか演るとは思っていなかった! 「Come on Tokyo, party people!!」と、フジロックの時と同じように煽りまくるベック。そしてそしてそしてーーー!!! あのキーボードのラインが鳴り響いた瞬間、「やった!!!」とこぶしを上げたこのナンバー、「Debra」!!!! アルバムには未収録でありながら、フジロックの中では恐らく最高の名演だと断言してもいい素晴らしいボーカルテクニックを披露して、自分の鳥肌を全部立たせまくった思い出のこの曲。1月のニューヨークでのショーケースギグでは演奏されていなかったから、てっきりセットリストから外されるものと思っていたのでこれは嬉しすぎる!! この日もステージの前方に立ち尽くして必死の形相でファルセットボイスを振り絞るベック。もう素晴らしい! 素晴らしすぎる! この曲を聴いただけでもこの日来た甲斐があったというものだ。それだけこの曲でのベックの出来は素晴らしい。

そしてまた困ったことに次がまた予想不可能だった「Where It's At」! いやあこれもてっきりセットリストからは漏れているものとばかり思っていたので嬉しすぎるったらありゃしない。フジロックで披露した、床に這いつくばってのダンスは見せてくれなかったが、いやあこんな椅子席での「Where It's At」もなかなかおつなもんですのお。フジロックみたいにみんなジャンプして地面を揺らしまくることは無かったけど、まったりした空気が全体を支配する中で逆に自分が異空間にぽーんと放り込まれた感じがして、結構貴重な経験をした「Where It's At」だったなあ。

そしてこの「Where It's At」が終わると、向かって左側にいるターンテーブル担当DJ Swampの皿回しの妙技をとくと拝見することになる。これがうまいのかうまくないのか、その辺はちょっと判断しかねる自分であるが、スクラッチによって、「ルイルイ」、「アイ・オヴ・ザ・タイガー」、そして「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のイントロをプレイしたのには笑った。

最後の最後はまた予想不可能だった「Devil's Haircut」!!! (・・・余談だが、実はギターのスモーキーが前の「Where It's At」をプレイし終えてステージ裏に下がるとき、ギターの6弦のチューニングを少し落として、すなわち6弦をドロップDのチューニングにしてから戻ったので、ドロップDじゃないとプレイできない「Devil's Haircut」をひょっとして次に演奏するのではないかと、この時にちょっと思っていた。) メンバー間の動きもばっちり合っていてすごく気もちいい!! 「ミューテーションズ」からの曲も悪くはないのだが、やはりこの曲のように以前からツアーでしこたま演奏されてきた曲は、ノリというか完成度が格段に違う! ギターのスモーキーが「でーぼずへあかっ! いままーいん!!」と叫んでおしまい。きやー!出来すぎな終わりかただよー!

とにかくこの日のギグというか、このジャパンツアーは完全に特別に組まれたジャパンオンリーの選曲のようで、前情報では聞いていなかった昔の曲がバンバン演奏された。でもあくまでもメインは「ミューテーションズ」の曲群の演奏にあるわけで、それはそれでまた素晴らしかった。

椅子席がいやだなあ、とかまあ意見はあるだろうけど、なんか結構椅子席でやる必然性をみた感じがした、というか、これをライヴハウスでやられてもなあ、というか、行ったことはないけれど、ニューヨークのアポロシアターかなんかの椅子席でショーを見ている感じ、とでもいうのだろうか。 今回のベックは、その場のノリに任せた勢いだけのライヴハウスでの演奏よりも、緻密に綿密に、未完成ではありながらより完成され洗練されたショーを、椅子付きの会場で演奏することを選択したのであろう。 やろうと思えば同じキャパを収容可能な赤阪ブリッツでも恵比寿ガーデンホールでもどこでもスタンディングのライヴをやれたはずなのに、あえてそれをしなかったベックがこれから2週間のツアーで目指すもの、それはなんとなくわかったような気がする。 そしてそんなベックを俺はやはり断固支持したい。 アリーナからライヴハウスに戻っていくミッシェルガンエレファントのようなバンドもあれば、ライヴハウスから椅子付きホールに戻っていくベックがいたって面白いではないか。



・・・終演後、某Sやんの彼女でいらっしゃる某M子さんがゲットしたセットリストをコピーさせてもらいました。(ただしNovacaneが抜けている)


  1. Lazy Flies
  2. Cold Brains
  3. Bottle Of Blues
  4. We Live Again
  5. Sing It Again
  6. Jack-Ass
  7. Tropicalia
  8. Dead Melodies
  9. O Maria
  10. Sissyneck
  1. Asshole
  2. Nobody's Fault But My Own
  3. Deadweight

  4. Novacane
  5. Diamond Bollocks
  6. New Pollution
  7. Debra
  8. Where It's At
  9. Devil's Haircut



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Last updated: 4/ 12/ 99