■ 日本武道館 - 5/29/00
以前yas-bさんは、Nine Inch Nailsのライヴレポートの中で、Primal ScreamとNine Inch Nailsとの比較に際し「Beck君が行き詰まっている様である今・・・」と書いていた。これを見て、最新アルバム「Midnite Vultures」へのメディアの論調がどれも似通った大絶賛に終わっている中で、ちょっとだけ首を傾げていたのは自分だけではなかったのだな、と思った。前のアルバムと比較してどこがどうだとかはうまく表現出来ないのだけれども「行き詰まっているBeck」というyas-bさんの言葉は自分の中で最も的を得ていた。yas-bさんのこの言葉を的確に解釈しているかは分からないけれども、アルバムを聴いてまず、「この先どうするんだろ?」という漠然とした不安要素が頭にポワポワっと浮かんだのである。
ショー自体は確かに圧倒的なものだった。アコースティックな色調の強かったアルバムMutations収録の「Cold Brains」で静かにキックオフし、「Hotwax」からメドレー形式で流れた「The New Pollution」に至るビジュアルとサウンド面のダイナミズムは、もう踊るとか騒ぐとかの域を超えて、見るものの想像を遥かに越えたエンターテイメントの序章といった感じだった。というかはっきり言ってこのベックの壮大なコンセプトに、自分も含めて、ほとんどの客がついていけていなかったようだ。椅子席という違和感もあろうが、フロアの空気はかなり静かに流れていったように感じられた。
しかしニューアルバムからの曲で体を馴染ませていったベックがステージ上を駆け回り、めくるめくステージライトに目が馴染み、女性コーラスの声と3人のホーンセクションの気のない踊りがシンクロしていくにつれ、オーディエンスにもこの空間を楽しむ余裕が生まれてきたようだった、そんな時に「Loser」。これはフジロック'98以来の日本における演奏となるが、イントロのスライドギターで沸き上がった狂騒はここにはなく、この「Loser」すらもひたすらエンターテイメントの一部と化し、比較的あっさりと演奏されていた。
誰がなんと言おうと、というか、みんながみんなそう言うはずだが、このショーのハイライトは間違いなく「Debra」にあった。フジロック'98で初めて聴いた時のザワザワと背筋に電流が走るようなベックのファルセットボイス。残念ながらあの時の感動をレコードでは蘇らせることはできていなかったように思ったが、ここでのベックは、きらめく衣装にきらめくミラーボール、そしてステージ上から舞い降りる特大ベッドによって、またも我々の度肝を抜いてくれた。ベッドの上に横たわりながら寿司ネタに興じたり、枕を投げつけたりとでまさに「ベッドにベック」。(・・・笑えねぇ〜〜〜) しかしあえてこの曲にここまでの演出は必要だったのだろうか? 「Debra」って素で歌ってそんなに退屈な曲であるはずがないと思うのだが。いや、確かにあの超一流の演出は「ベックってバカだーー!!」という最大の賛辞を送るのには十二分すぎるぐらいだったけれども。
と書いてきて、なんとなく思ったのが、ニルヴァーナのカート・コバーンのこと。もし彼がこのステージで「次は何?次は何をやってくれるの?」といったオーディエンスの期待の眼差しをまともに喰らっていたら、間違いなくステージ上で猟銃をぶっ放して、自分からそんな期待を拒絶したと思う。でもベックは、彼自身エンターテイメントに徹することで、そんな期待をひらひら交わしているのじゃないかといった気がしてきた。ベック・ハンセンとは違うベックを演じることでそんなプレッシャーから逃れようとしているというか。 また逆に、今までは見たこともなかった観客とのコール&レスポンスに一生懸命従事していたのも、「そんなに俺に期待せずに、キミも声を出してみなよ。出せる? やれる?」と問いていたのではなかろうか。
「Lazy Flies」「Dead Melodies」をアコギを掻き鳴らしながら歌った時、そして「One Foot In The Grave」でハーモニカを狂ったように吹き荒らした時、この夜、ベックはたった1人で1万人の観客と対峙したわけだけれども、この時だけ、ダンスだのジャンプだのミラーボールだのといった装飾がかったなんの期待も背に受けることなく、俯きながら淡々と歌詞を紡ぎ出していくその姿に、本当のベックを見たような気がした。1曲目に「Cold Brains」という静寂を持ってきたのも、ニューアルバム発売の繋ぎの意味で作られたはずの「Mutations」からこんなにも演奏されているのも、これらの曲を演奏している時だけ、いい意味で気楽に、何も考えることなく、エンターテイナーとしてではなく、ミュージシャンとして集中できているんじゃないかなあと思った。 そして自分はそんなベックの方がより輝いて見えた。
メンバー全員総出演による「Devil's Haircut」最後のシュールな劇に、みずからステージ前面に黄色いテープを張って幕を下ろしたベック。「俺たちの劇はもうこれで完全にお終いさ。」という意図のその先にあるものは・・・・? 期待と不安とが交錯する中、ベックはこの日本公演でワールドツアーを終了する。
・・・終演後、半ば無理やり(笑)女性ミキサーからゲットした戦利品を公開します。最後の「Smelly people can see CPR for emergency Speed Stick.」の意味を教えてください。m(_ _)m
- Cold Brains
- Hotwax
- The New Pollution
- Broken Train
- Mixed Bizness
- Get Real Paid
- Loser
- Pressure Zone
- Milk & Honey
- Debra
| - Nicotine & Gravy
- Lazy Flies
- Dead Melodies
- One Foot In The Grave
- Tropicalia
- Where It's At
- Sexx Laws
- Devil's Haircut
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Send comments to: Katsuhiro Ishizaki Last updated: 5/ 29/ 00
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