Blankey Jet City 忘れるもんか

横浜アリーナ - 7/9/00


「Welcome to Jet City」というスライドがステージ上方に映し出され、そこからこのバンドの10年物語を追ったモノクロのドキュメントスライドが流される。バンドの足跡を追ったこのフィルムは、1990年から2000年まで弛まず流れたBJCの10年を、派手なエフェクト効果もなく、コンパクトにまとまっていながら、その歴史を良く知らない少数派の自分の視覚にも、躍動感溢れる映像として訴えかける。各年代ごとのメンバーのクールな佇まいにオーバーラップするような形で映像効果を与える彼らの曲名・アルバム名を眺めるにつけ、それら全てを知識と音像として認識しているわけではないし、なにせライヴすら1回しか観たことがない自分なんかがこのバンドについてとやかく書いちゃいけないような気もしているが、日本のバンドの中ではある意味でTMGEよりも思い入れが深い、というか想い出深いバンドなので、やっぱ書く。

ちょうど10年前、名古屋出身のこのバンドがTBS系の深夜番組に初登場した時「プロフィールにはポール・サイモンに似てるって書いてあるけど、キミって若い頃のボブ・ディランに似てるねえ。(by 田中一郎)」「上半身ハダカで気合入ってるねぇ〜。」との評にニコリともせずまったく表情を変えることがなかったブランキー・ジェット・シティーの演奏は、かなり荒削りで、すぐにメジャーデビューできるなどということは自分の直感では全く想像に遠いことだった。いや、正直に言えば、彼らの演奏中にテレビのチャンネルを変えてしまった、ということをここで告白しておかなければならない。

しかし番組への登場回数を重ねるにつれ、自分にも大物の風格というものをはっきりと感じられるようになり、最後の方には「早くメジャーデビューしろ!」的な雰囲気がブラウン管の外と中の両方とに漂い始めた。その後、当然の事ながらとんとん拍子に事は進んでメジャーアルバムデビュー。91年当時、ほぼ洋楽オンリーだった自分に、日本人アーティストのアルバムの中で唯一手放しに「すごい!」と思わせたロックンロールアルバムがその「Red Guitar And The Truth」だった。1語1語分かりやすくはっきりと歌われる独特の世界観を持った日本語オンリーの歌詞、エフェクト皆無のギター、ベース、ドラムのミニマムな構成を感じさせない分厚いアンサンブル・・・・と言うのは簡単だが、お茶らけ始めていた当時のロックに鋭い渇を入れた唯一の新人バンドだったと思う。そして今日のBJCラストショーはファーストアルバム「Red Guitar〜」の最初を飾る「Cat Was Dead」で幕を空けた。昔の曲はやらないとばかり思っていたので、これはかなり意外な選曲だった。

スクリーンに映される3人の演奏をボーっと観るしか術がなかったのだが、その後も「僕の心を取り戻すために」「不良少年のうた」といった古い曲が次々と披露され、密かに心の中で狂喜。しかし細かくブロック分けされたフロアーが揺れるのはむしろ「ガソリンの揺れかた」「PUDDING」「ぼくはヤンキー」といった中期〜後期の曲ばかりだ。余りにも衝撃的だった初期の曲群に強い印象を持っている自分としては複雑なところだが、このことはBJCがいかに現役のまま、人気絶頂の中で解散していくということを実感させてくれた。

ベースの照井が初めてウッドベースを持った「Derringer」、長袖のジージャンを決して脱ぐことがないベンジーがアコースティックギターを掻き鳴らす「ディズニーランドへ」、そしてフロアの盛り上がりは約束された「Saturday Night」と「D.I.Jのピストル」・・・・・・・・イントロの一音が鳴っただけで大歓声を上げるオーディエンスも、その歓声をぶち抜くさらにでかいビートの塊を投げ返すバンドも、とにかく素晴らしい。アリーナの後方だったので彼らの表情は直に観ることはできないが、それでもメンバー各人のこの日のライヴに対する意気込みは十分に伝わってくる。そしてそれを迎え撃つオーディエンスも気合たっぷりに踊りまくる、歌いまくる。

ずっとファンだったのに、"BJCは遠いところに行ってしまったのだな。"と感じた、ある意味で自分とBJCとの関係性におけるターニングポイントとなった「赤いタンバリン」を本編最後に演奏。この曲よりもちょっと前からベンジーは若干巻き舌で歌うようになり、自分はそれがどうにも気になってBJCの曲をまともに聴くことができなくなってしまったんだ、なんてことも思い出した。(・・・ミッシェルガンエレファントは決して巻き舌で歌わない。だから好きだ。) ライヴでの演奏は悪くない。でも決していいとは思わない。その考えは解散してもこれからも変わらない。

まさかのアンコールには「冬のセーター」「Come On」という新旧ナンバーを立て続けに演奏。そして2時間弱にも渡ったこのライヴの最後にベンジーのボソっと語ったこの言葉は、BJCを愛するものにとって決して忘れられないものとなったに違いない・・・・・・。



「俺らのこと、ずっと忘れんとってくれよ。」



熱心なファンとは言えない自分でさえも、涙腺がやばかったぐらいだから、会場にいたほとんどの人はこの言葉を心の中で永久にリフレインし続けるであろう。



シンプルなロックンロールバンドなのに、過去のどのバンドにも似てないし、現在までのどのバンドにも真似できない、ここまで徹底したオリジナリティのあるバンドを自分は他に知らない。個々の活動に方向性を見出したとはいえ、このバンドの解散を「もったいない」の一言で片付けていいものか、自分にもよく分からない。だんだんと遠巻きに見る感じになってしまったが、偶然にもこんな素晴らしいロックンロールバンドの始めと終わりに立ち会えたのは幸運だったしか言いようがない。いや、やっぱりこういうバンドがこの世から無くなってしまうのは不幸なのかもしれない。終わってからこんな風に絶賛するのは筋違いと知りながらも、「Blankey Jet City will rock you forever in your heart.」というメッセージが自分の心の中にも宿り続けることは、彼らのすべてを見せ付けられた今日を経て、そしてそんな彼らを失った今になって、確実に約束できる。




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Last updated: 7/ 11/ 00