Eric Clapton 音楽観が変わった夜

日本武道館 - 12/ 3/90


自分の人生の中で後にも先にもこのコンサートの感動を超えることはないであろう、そんな素晴らしいライヴをエリック・クラプトンは披露してくれた。本物はこういうものだ!ということを目の前でまじまじと見せてくれたこの日のコンサート。ロックの歴史の生き証人、エリック・クラプトンは、この浮き沈みの激しい世界で伊達に25年以上生き残っていないのである。

この時クラプトンはある自動車会社の新車のPRに一役買っていて、コマーシャルでもそのギターを弾く姿を見ることが出来た。そのコピーが「Journeyman−旅人」。大きな間違いである。彼のニューアルバムのタイトルであり、ツアーの名前にもなっているJourneymanとは、旅人なんかではなく「職人」の意味なのである。彼は25年以上、多少の浮気はしながらも、ロック、ブルースという道をずっと歩き続けている「職人」なのだ。そもそも某自動車会社が作るような安くて壊れやすい車には絶対乗らない。

今回のツアーの方だが、この時は東京地区では武道館3日+代々木オリンピックプール1日という比較的ひっそりとしたものであった。なおかつそんなに人気が盛り上っているという感じでもなかったので、満員になるかは非常に怪しいものであった。それでもなおかつほぼ満員にまで客が入ったのは、ひとえに某自動車会社でほとんどチケットを押えていたからであろう。そんな中で私の席はステージからやや遠い2階席の真ん中のあたり。しかし初めての武道館、そして初めて観る超大物のコンサート。興奮するなという方が野暮というものである。

「Layla」のストリングスバージョンが会場に流れる中で、キーボードにぱっと光が当たった。マイケル・ジャクソンのバンドにも参加している黒人キーボーディスト、グレッグ・フィリンゲインズが「Pretending」のイントロを弾き始めた。ドラムのスティーブ・フェローニのフィルが入って、ステージ上がやっと明るくなる。その中央には長い髪を固めてオールバックにしているエリック・クラプトンの姿があった。ビシッと黒のアルマーニ(いやベルサーチかもしれん)のスーツに身を包んでいる。ほんとは古着と色落ちしたジーンズのクラプトンの方が好きなのだけれど、これが彼の今のスタイルなのであろう。まあカッコはどうでもいい。肝心なのは音の方である。この音がまたえらくいいのである。これまで観たどの会場の、どのアーティストよりも音がいい。音がいいだけではない。クラプトンのギターも歌もすさまじいのである。クリアーでなおかつつぼを押えた演奏。客が何を求めているか、なおかつ自分が何を表現したいか、しっかり分かってのものなのであろう。簡単に「つぼ」と呼んでしまうが、これこそ「Journeyman=職人」の長い間培った技術なのである。

大ヒット曲「I Shot the Sheriff」から「White Room」へのメドレーは鳥肌ものだったし、アルバム「Journeyman」からの楽曲「No Alibis」「Bad Love」なんかも非常に力強い。ブルースチューン「Before You Accuse Me」でもギターソロを弾きまくる。かと思えば「Wonderful Tonight」ではさらにテンポを落として、コーラスのケイティ・キッスーンのスキャットが美しい流れを作り出し、「Running on Faith」でのフィル・パーマーのスライドギターも素晴らしかった。バンドのメンバーも実力者ぞろいで非常に頼もしい。「Cocaine」に入る前のファンクナンバー「Thank You」でのグルーブの強烈さといったら、オリジナルをはるかに凌ぐものだったように思う。そんな中で、メンバーの個性を上回るだけの技術を見せるクラプトンというのは、すら恐ろしいミュージシャンでさえある。その「Cocaine」ではキーボードのグレッグが弾きながらくるくるまわるといった場面も見せてくれた。

「Layla」でいったんステージを下りると、軽やかにファンキーなアドリブを弾きながらクラプトンが1人でステージに戻ってきた。そのままギターソロを続けていると、他のメンバーが戻ってきて「Crossroads」へとつながっていく。非常に重い演奏だが、クラプトンのギターは全開である。そして最後は同じくCreamの代表曲「Sunshine of Your Love」である。ギターをグイングインいわせてのドラマティックな演出がこの曲ではなされていた。まさに最初から最後まで「完璧」である。何も言うことはない。この日からクラプトンは私のギターのお師匠さんになったのである。

- Set List - 12/3/90

  1. Pretending
  2. No Alibis
  3. Running on Faith
  4. I Shot the Sheriff
  5. White Room
  6. Can't Find My Way Home
  7. Before You Accuse Me
  8. Bad Love
  1. Badge
  2. Wonderful Tonight
  3. Old Love
  4. Cocaine
  5. Layla

  6. Crossroads
  7. Sunshine of Your Love


| Back | Home |



Send comments to: Katsuhiro Ishizaki

Last updated: 12/31/97