The Seahorses / Mansun ジョンの指は結構短い

Irving Plaza, New York City, NY - 8/5/97
Opera House, Toronto, ON - 8/8/97


大学の地獄の日々から開放され、短い夏休みを利用して計画した米国北東部旅行。その初日に観たのがThe Seahorsesのニューヨークでのライヴ。この日が確か彼らの北米ツアー5日目に当たっていたと思う。シングルLove Is The Lawがラジオなんかでガンガンかかっていて、アメリカでも彼らの人気は上昇中だ。

しかし最初に断っておかなければならないことがある。私がギターのJon Squireがかつて在籍したいたバンド、The Stone Rosesの本当のファンになったのは、彼らのセカンドアルバム、Second Comingリリース後、かつそれに伴う来日ツアーを終えた頃であった。正直言って彼らを映像で見たのは、セカンドのLove Spreadsのプロモーションフィルムを数回、といった程度である。したがって、個人的に動くJonを見た経験というのは皆無に等しいわけで、ここで私が記すJonの姿というのは、ファンの方々にとってはごく当然のことで、何も驚くに値しないものかも知れない。よって、ローゼズファンの人は、そういったことを念頭に置きながら、このNY及びトロント公演のレヴューを読んでいただけると幸いである。

ローゼズのSecond Comingが、いやその中でも特にDriving SouthとGood Timesが好きな私にとって、ローゼズといえばJonのことを指す。彼は今欧米のポップグループの中で間違いなく最高のブルース系ギタリストだ。彼のフレーズは、シンプルなロックギターの王道スケールばかりなのだけれども、それをそれと感じさせず3分間のポップチューンに溶け込ませてグルーヴを生み出すことが出来る天才だ。よくよく聴いてギターでコピーなんかしてみると、彼のプレーはブルースの基本的なフレーズが満載であることがよく分かる。自己陶酔型超絶ロングソロが常であるブルースギターの世界において、Jonの存在はダンスミュージックにおけるロックギターの本当のあり方のようなものを我々に示してくれるし、そのフレーズと曲の制約の中で変幻自在なプレーを聴かせることが出来る唯一の人であると思っている。ギターキッズを彼らの四畳半間から開放した彼の功績は大きい。

前置きが長くなってしまったが、要するに動くJonを見る機会がやっと訪れたわけである。その会場であるニューヨークのマンハッタンにあるライヴハウス、Irving Plazaは、そんなに大きい小屋ではなく、恐らく500人も入ったら一杯であろうほどの小規模な会場だ。バンドの登場までステージの前面を覆っているスクリーンには、時期外れなスノーボードの映像が絶え間なく流されている。そんな中私は、とりあえずフロアサイドにあったSeahorsesの文字の見える機材ケースのようなものに座って、彼らとともにツアーしているMansunの登場を待った。

そのスクリーンが目の前から姿を消し、バンドが音を出し始めた。Mansunのことはまったくといっていいほど知らないのだけれど、まず最初の感想は音がでかいということ。というか音があまりよくない。でも正直すごくいいバンドだと思った。ボーカル(Paul)は黒のレスポールをかき鳴らしながら、厳しい表情で唄う。ラジオで聞いた曲の感じからすると、もっとある意味で女性的な、グラムロックのようなステージを想像していたのだが、まったく印象を異にしてしまった。ヴィジュアル、演奏ともに時にはブルースやパンクの要素を覗かせながらも、誤解を恐れずいえば普通のロックバンドといったたたずまいを見せる。曲はいいし、うまいし、ルックスもいい。余計なことだが、Paulのコードの押さえかたが独特で面白かった。オーディエンスの受けもなかなか良くて、ファンも相当多いようである。たった7曲の演奏ではあったが、アルバムを聴いてみたいと思わせたショーであった。

Mansunの終了と同時に、ステージ向かって右側前方にじりじり忍び寄る私。Jonにかぶりつきのスペースを確保するためである。マリファナの煙にやられそうになるのを我慢して、Seahorsesの出番を待つ。Marshallのギターアンプが見えた。しかしセットチェンジのスタッフの仕事が必要以上に遅いように感じて仕方がない。終わったと思ったら、JonとChrisが使う全てのギターをそれぞれ一本ずつチューニングして、音合わせして、PAの人と話し合って...というプロセスが延々と続いた(ように感じた)。

さあThe Seahorsesの登場である。Chrisはブルーの長袖トレーナーにジーンズ。半袖シャツにブルージーンズのJonはメンバーの中で最後にステージにその姿を現す。ギターは肌色(?)のレスポールである。1曲目は「Round The Universe」。なんかJonのギターの音が小さくてよく聞こえない。しかしバンドの音はMansunの時と違ってすごくクリアーだ。曲数を積み重ねるにつれギターの音も大きくなってゆく。この日のセットリストは次の通り。

  1. Round The Universe
  2. Suicide Drive
  3. The Boy In The Picture
  4. Blinded By The Sun
  5. Moving On
  6. Hello
  7. Kill Pussycat Kill
  8. Standing On Your Hand
  9. Happiness Is Eggshaped
  10. Love Me And Leave Me
  11. Love Is The Law
  12. I Want You To Know - encore

始めてJonをみて思ったこと、それはまずアゴの辺りが他のメンバーよりも年輪を感じさせること、及び指が短いということ。そしてステージ上にある彼の姿はまるでLed ZeppelinのJimmy Pageみたいだなということ。ひっきりなしに身体を動かし、ギターを右腰の当たりに持ってきてみたり、ヴォーカルChrisに近づいて背中を合わせるようなしぐさをしたりと、下をうつむいて淡々と弾くギタリストというローゼズ時代に聞いていた噂とはまったく印象が違っていた。特にピックを持つ右手の返しなんかがPageとそっくりだ。8では黄色のテレキャスターを弾き、11では2フレットにカポをつけたゴールドトップのレスポールなんかも使っている。「ジョニー」と声をかけられれば笑顔も見せたし、帰り際にピックを一番前の人にそっと手渡した姿が妙にかわいらしかったりもした。

ミストーンが多いなどということも聞いたけれども、私の見た限りではそういったことはほとんどなく、レコードと寸分違わぬフレーズを繰り出していた。逆に言えばそこが個人的に多少物足りなかった点でもあって、Jonのブルースギタリストとしての即興的な演奏を期待していた自分としては、何かライヴならではのJonのプレーが聴けなかったことが少し残念であった。特にLove Is The Lawの後半部分の演奏は一音たりとも異なることはなく、レコードとまったく同じ。でもオーディエンスの盛り上がりはこの時が一番激しかった。

そして思ったこと。このバンドのメインはJonではなくChrisだということ。5でのアコギを持っての弾き語りは、最初惑っていたオーディエンスを少しづつ彼の世界へと引き込んでいく様が見事であった。「ヴァン・モリソンの曲をやるよ」とか「すまない、前の客とプライベートな会話をしてしまった」などと言ってみたりして、話術もなかなかなものである。半分ぐらいの曲でギターを持って唄う彼は、そうでないときが手持ち無沙汰な風にも見えて、腕の置き場に困っているような、そんな印象も私には与えた。


3日後のトロント公演もセットリストは同じ。Mansunも同様であった。Opera HouseというNYのIrving Plazaよりはやや小さめといった会場のフロアはほぼ満員で、殊の外きれいな女の人が多いなあといった感じ。この日の私の予定では、前座のMansunをパスして、トロント・ブルージェイズの野球の試合を途中までみてから駆けつけるつもりであった。しかしその後ライヴハウスをなかなか見つけられなかったせいもあって、慌てて到着したのが10時ごろ。てっきりもうメインのステージは始まっているかと思っていたら、ステージ後ろにはまだMansunの垂れ幕がかかっている。ビールを飲んで一息つくと、彼らのステージが始まった。

一曲目が終わるとPaulは必ず「Thanks a lot. Cheers.」と言うようだ。そういえば翌朝寝起きでボーっとしながらテレビを見ていたら、カナダのMTVのような局の番組に突然Mansunのフロント二人が登場して、トロントのレコード屋でアコースティックライヴをやっている姿があった。「今夜彼らのライヴがあります」という話から察するに前日の再放送かもしれないが、よく働くなあ、といった印象。後日MTVにも彼らは出演していて、インタヴューなどをこなしていた。The Seahorsesよりも北米でのプロモーションには熱心な様子で、大ブレイクの日も遠くないのではといった印象をもつ。このカナダの番組ではたまたまフジ・ロック・フェスのこともやっていて、レイジの演奏とフーファイのインタヴューなんかが放送されていた。本当に大変だったんだなあ、と初めてそのすさまじい惨状を目にして溜め息。

Mansunの演奏が終わり、今日はSeahorsesをもっと全体的にみてみたいと思い、2階のフロアに上がってみることにする。今夜のChrisはNYのときと多分同じスカイブルーのトレーナーに赤のラインが一本入ったトレーナー、そしてブルージーンズ。Jonは水色と白のストライプのシャツに青(もしくは黒)のパンツ。一曲目はやはりギターの音が小さいかなといった印象で、今夜は音があまり良くない。2階にいるため真上に迫った天井が音を悪くしているように聞こえるのかもしれない。

今日のChrisはMCも少なく淡々とした感じ。ただカナダのビールを高々と掲げること数回。彼のお気に入りのビールのようだ。Jonのプレイは少し即興の部分が増えたような(それともただのミス?)気がしたが、何といっても今夜のハイライトはLove Is The Lawのイントロ部分。彼はわざとプレイを止め、突然アドリブで早弾きして見せた。頭から爪先まで稲妻が走り抜けたようなすごい衝撃。これを待っていたんだよ、俺は。

他のメンバーに目を向けると、ドラムのAndyは懸命にコーラスをとり、ベースのStuartは淡々と任務を果たしている。特にバカテクを持ったエキセントリックなプレーヤーという感じはしないけれど、今のSeahorsesの色には非常に合っていると思う。

The Seahorses関係のページでも誰かが指摘していたのだけれども、あまりギターと他のメンバーの音とのバランスがこの日は良くなくて、Love Me And Leave Meの時などは明らかにJonのギターの音が大きすぎるといった感じ。それに負けてChrisの声が聞こえないこともしばしば。嫌が上でもこれはJonのバンドであると感じさせてくれるが、それは彼のバンドの意図、方向性とは違うはず。今のところまだまだJon Squire & The Seahorsesといった感じであるが、もっともっと場数を踏んで、シングル、アルバムをたくさん売って、Jonに拮抗しうるだけの自信と経験を積み重ねて欲しいと思っている。彼らはまた今年中に訪米するとのことなので、その時の再会を楽しみにしたい。


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Last updated: 8/ 25/ 97