■ 新宿リキッドルーム - 3/30/99
福島県保原町から神奈川県川崎市への引っ越し当日。 それはマンションへの入居直前の午後6時すぎのこと。 重い荷物を抱えながら真新しい自分の部屋へと向かう階段の途中で携帯が鳴った。そしてそこからはエレガントな魔女のささやきが・・・・。
「ねえ、来て来て〜〜〜〜」
そんなこと言われちゃ行くしかねえだろ。ねえ男性諸君。
というわけで新宿リキッドルームへ猛ダッシュすること45分。 魔の階段を勢い余ってひとつ多い8階まで駆け登ってしまう。 ちょっと戻って当日券を購入し、ビールを一飲みにしてフロアへ・・・・・・・ガラガラである。 キャパの半分も怪しい。 よって楽々とフロア前方へ忍び込む。 時計に目をやると開演時間の7時をちょうど15分ほどまわっていた。
ギターのアジズ・イブラヒムがマーシャルアンプのところへ向かい、フェンダーのギターを体に抱える。 その右後ろにはドラムがいるが、フジロックの時と違って白人ドラマーだ。 ベーシストとパーカッショニストは前と同じで、それぞれ黒人とアラブ系のミュージシャン。 なんともオリエンタルなムードである。
そのバンドが1曲目のイントロを延々と奏で、そのグルーヴがフロアにも伝わってきたそのとき、ムショ帰りのボーカリスト、イアン・ブラウンが登場。 ツートンカラーのパーカーのようなものを身にまとい、やや伸びた髭も逞しいその精悍な表情もほとんど変えないまま、「シアワセデスカ?」「モシモシ」「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ、ハイ、ハイ」。
早くもメンバー紹介を一通り行った後、フジロックでは1曲目に演奏していたジミ・ヘンドリックスのカヴァー「Little Wing」をこの日は2曲目に。 なんでもギターのアジズが大好きな曲とかで、やはりここでのヴァージョンもそのアジズの独壇場である。 イアンの歌の後ろで聞かせた絶妙なオブリガードはやはりいかにも。
続いては赤いアコースティックギターから紡ぎ出されるスライドギターが非常に気持ちいい「What Happened To Ya Part I」。 とりあえず最高。 イアンも右へ左へと体を動かし、積極的に前の客とのコミュニケーションを計ろうとしている。
「Any request?」というイアンの問い。 この瞬間、イアンはもう吹っ切れたのかもなあという思いを急に自分に抱かせることになる。 当たり前だけど、イアン・ブラウンが客に対して、「リクエストある?」なんていう質問をすれば、ストーン・ローゼズの曲名が上がるのは誰にだって予想できるし、実際、「Elephant Stone」や「I Am The Resurrection」というローゼズ・チューンのタイトルを大声で叫んでいた人も多かった。 でもイアンは「リクエストない?」という言葉を言い続けたのだ。 その時の彼の心情を察することは難しいが、とにかくイアンにはストーン・ローゼズに対する嫌悪感とかはもうないんだなあ、と自分には思えた。
バリバリに歪ませたアジズのフェンダーギターがオリジナルよりもダイナミズムを感じさせた「Ice Cold Cube」へと続き、「What Happened To Ya Part II」では、ブレイクダンスもどきの壁を伝うような動作を見せたイアン・ブラウンは、そのまま本家マイケル・ジャクソンの「スリラー」へ。 一瞬何の曲か分からないほどイアンのヴォーカルは個性的であったが、ここがこのライヴの一番の聴きどころであり笑いどころでもある。ギターのアジズはあの「あーははは・・・・、あーははは・・・・」という不気味な笑い声を再現しようと、ボーカルマイクそばにあるコントローラーを指で一生懸命に操作している。
しかしまあこのアジズというギタリストはなんだか意味もなくすごくて、どの曲か忘れたが(たぶんIce Cold CubeかMy Star)、アウトロのギターソロではライトハンド奏法とスウィープ奏法を交えてものすごい速弾きを見せたり、やっぱりジミヘンのように歯で弾いて見せたりと、なかなかの実力というか、意味なしというか、なんかイアンにはもったいないような気もするのだが、とにかくジョン・スクワイアは死んでも、アジズ・イブラヒムは死なないだろう、というようなサバイバルな雰囲気を漂わせていた。(?)
「シアワセデスカ?」と「ハイ、イェス、ハイ、イェス、ハイ、イェス」というのもしつこいまでに連呼して、フジロックの時と同じようにその曲名を紹介しながら「Sunshine」。やっぱりメロディーラインが「Little Wing」に似ている。12弦のアコースティックギターのカッティングに終始しているベーシストは終始ニコニコ。なにが楽しいんだか分からないけどニコニコ。それにつられてアジズもニコニコ。
イアンのハーモニカがブカブカ鳴って「Corpses In Their Mouths」へ。シンプルなフレーズをこれまたしつこくハープで吹きまくる。でもブルージーなアドリブもあったりして、なんだかローゼズのセカンド収録の「Good Times」をちょっと思い出させたりして。
「なーなーななな、なーなーななな」と歌わせた「Nah Nah」。シンプルなコード進行にのって「Can't See Me」。そして、花だの帽子だの紙だのゴミだのを拾いまくってポケットに入れまくった「My Star」。
アンコールはこれまた「What Happened To Ya Part II」。もちろん「スリラー」もまた入ってあれあれあれ。 地方での公演や、東京での初日の公演では演奏したというローゼズ時代の名曲「Sally Cinnamon」をかなり期待していたというか、てっきり演るとばかり思っていたので、これはかなり調子外れ。 とにかく客からもらったバナナをもぐもぐと食べていたイアンは完全に猿だったが、その食べかけのバナナをもらった最前列にいた子は、一体全体そのバナナをどう処理したのだろう。 持って帰って冷凍漬け? それともそこで食べた? それか奪い合ってぐちゃぐちゃになった? そしてその代わりにまるごとバナナ? まさかそれは俺の好物?
祈りのポーズをしながらピックやドラムスティックをお土産としてくれたアジズ・イブラヒム・バンド(←勝手に命名)。 フロアを右に左に位置を変えながら楽々と観ることができたガラガラのライヴだったし、照明は何度となくタイミングを外していたし、ボーカルマイクのハウリングも多かった。、それでも何はともあれ今日のこのバンドはフジロックでのそれよりも数段良かった。 何が良かったって、とにかくイアンが動いた。 そして自分と目が何回か合ったような気がした。 そしてなんだかみんながみんな嬉しそうだった。楽しそうだった。幸せそうだった。 それでいいのだ減点パパ。 花マル三重マル三波伸介。 持ってけ三枚山田くん。 手を挙げて交通安全松崎まこと。 前科者だかなんだか知らないが、俺もあなたも何度目かの再スタート。 過去と向き合って生きていかなくちゃならないこの世の宿命。 3度も歌われた「What happened to ya?」。 そしてその答えは・・・・・・さあなんでしょう?
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Send comments to: Katsuhiro Ishizaki Last updated: 4/ 3/ 99
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