Izzy Stradlin イジーの意地を維持

渋谷公会堂 - 4/15/00


こうは言いたくはないが、こう言わないと分からない人が増えてきたので言うと、イジー・ストラドリンとは元ガンズ&ローゼズのギタリストである。いや、あの、カリフラワーのような髪の、ギターの位置が低いギタリストのほうではなくて、どっちかというとマイナーな存在なほうの、リズムしか弾けなかったギタリストの方である。この人は、バンドのメインソングライターでありながら、まさにガンズ&ローゼズ絶頂期だった91年にバンドを脱退して「イジー・ストラドリン&ジュジュハウンズ」を結成して即座にレコードを作って来日して、「なんでガンズの曲を演奏しねえんだこのやろーー!」と罵声を浴びた人である。

最初に言ってしまうと、この日、彼はやっぱりガンズ時代の曲を演奏しなかった。しかしなにせ「元ガンズ」の肩書きが付いて回る人だし、実際、どういうわけか彼のソロアルバムと併せてガンズ&ローゼズのビデオも会場で売られていたりした。でも想像してみてほしい。「元ガンズのメンバーだから」ということで彼を知り、彼のライヴに足を運ぶ人が多いことはどう考えてみても事実なのである。そしてそのほとんどの人たちは、彼のソロ初来日公演のときのうように「ガンズの曲をやってくれねえかなあ」という期待を胸に生イジーと相対するわけだ。そしてイジーは毎晩毎晩、「ガンズの曲をやってくれ!」と顔に書いてある客を相手に演奏しなくちゃならないわけだが、「元ガンズだから」という恩恵によって多くの人達が自分のライヴを見に来てくれて、金を払ってもらっているわけであって、つまりそんなこんなのなんか妙にいやーーなプレッシャーを常に感じながら、ガンズ脱退後の再始動の日から10年近くもそんなライヴを続けているわけだ。

かつ今回の来日は新作「RIDE ON」発売に伴うツアーを目的としているわけだけれど、実はこれはアメリカでは発売されていない。本国ではメジャーとの契約が切られてしまっているためだ。要はもう「イジー・ストラドリン」という名前と、彼の好きな音楽のパッケージングだけで、たくさんのレコードを世界で売ることはできなくなっている。なおかつ今回は同じく元ガンズ&ローゼズのベーシスト、ダフ・マッケイガンを引き連れての来日なのだ。つまりこれらの事実を見れば「イジーがガンズの曲を演奏する!」という環境は整いまくっているわけである。でもガンズ時代の曲は演奏しなかった。イジーの意地? 洒落ている場合ではないが、洒落にならないぐらいイジーは頑なに現在の自分のスタイルを守り通した。ガンズの曲を演ったら自分を含めそりゃあ盛り上がったかもしれないが、好きでもない愛のないステージングのその後に、言い知れない空しさが我々を襲うことは想像に難くない。そんな刹那の権化だったガンズ&ローゼズのメンバーだった彼には、その空しさを一番よく知っているに違いないし、そんな刹那な場の提供を、イジーのステージは目的としていたわけではなかったのだ。

(・・・が実際のところ、ガンズ&ローゼズの曲に対する版権はアクセル・ローズによってすべて押さえてられているため、作詞or作曲者としてのクレジットがあろうとも、アクセルの許可なしにはガンズの曲を演奏することはできないのであった・・・・。)


しかしそんな「現在の」姿の肯定には、現在の作品レベルが高いことが絶対条件になるのだが、残念ながら新作「RIDE ON」は、ほんとダメダメだった。達者なはずのリック・リチャーズ(=リードギタリスト:元ジョージア・サテライツ)のプレイにまで冴えが見られなかった。新機軸もちらほら見せていたのは確かだが、クオリティ的にはデモテープ並の全10曲は、まったくない時代とのリンク、凡庸なコード進行、覇気のないディストーション、泥臭いと呼ぶにはおこがましい惰性等々などの産物だった。だからなおさら「ガンズの曲を演奏する!」という不安な環境が自分の中で整っていたのだが。


そしてそのアルバムタイトルトラック「RIDE ON」でこの日のショーはキックオフ。ステージ左から順に、胸をはだけたガンズ時代を思わせる黒い衣装ながら髪は短くまとまっているダフ、まるでブルース・スプリングスティーンなイジー、そして黒のテンガロンハットに怪しさを感じるリックがそれぞれ並ぶ。イジーは腕を上げたり、笑顔を見せたりしていたが、前半続いた「CALIFORNIA」「HERE COMES THE RAIN」「NEEDLES」などの最新アルバムからの曲は、ライヴにおいても演奏的にはやっぱりちょっとダメだった。特にベース音が聞こえず、音的にもモニターしづらかったようで、ダフは何度も耳を押さえながらコーラスを取っていた。

でも3〜4曲ぐらいプレイしたところで音的にも持ち直し、演奏にも余裕が出てきた。特にステージを前後左右に動き回るダフ・マッケイガン! ガンズ時代よりもスリムになってかっこよくなったばかりか、前の方の客にベースを触らせたり、踊る客を見つけてはそちらを向いてニコニコしたり、手拍子を求めたり、まったく自由に束縛されないステージングを心底楽しんでいるようだった。ファーストアルバムからの「SHUFFLE IT ALL」では、前方に体を傾けて膝下にベースを置きながらイントロのベースラインを優美に奏でて大歓声を浴び、悪く言えば投げやりな、良く言えばパンキッシュなコーラスワークは時に歌詞を間違うけれども確実に観客の耳を捕らえ、アンコールの時にはリードボーカルを取り、演奏中でもイジーに声をかけてゲラゲラ大笑いし、帰りがけには前列の子達とハイタッチを交わしていた。

結局ジョージア・サテライツの曲は演奏しなかったが(=思えばこれも「ガンズの曲はやらん!」的なメンタリティか?)、1曲だけリードでボーカルを取ったときには、「イジーとダフをコーラスにまわすとはなんと贅沢な!」と思ったリック・リチャーズ。そして肝心要のイジーはボーカルこそかなり弱いが終始ご機嫌だったようで、腕はクルクル回すし、表情も非常に柔らかい。プレイ的にはコードカッティングが中心で大した特徴も見出せなかったが、とにかく楽しそうだったのでなにはともあれ良かった。

このショーを通じて一番良かったのは、ショーがショーとしてしっかり構成が成されていたことにある。曲間が短く、時にメドレーのように曲が繋がれ、全体として弛緩した場面がほとんどなかったことは驚きだった。もちろんこれは曲の凡庸さをカバーする意味もあるのだろうし、ステージを動き回るダフがステージをアクティブな空間として機能させていたことも事実としてあったのだが、本編最後となった「PRESURE DROP」でのパンク〜レゲエ〜ダフのベースソロという展開の中に、バンドの安定感と柔軟性とを垣間見せることに成功していた。そしてその勢いを買ってのアンコールでも、バンドの加速度は高まるばかりで、そのハイテンションにはこちらが唖然としてしまったほどだった。

1時間20分ほどのギグだったが、ライヴの翌日に幸運にもリック・リチャーズと対面することができた掲示板でおなじみただくんによると、メンバーはもっと演奏したがっていたらしく、特にイジーはノリノリだったらしい。ほんと久しぶりに大観衆を目の前にしたライヴだったこともあって、大舞台を何度も経験しているイジーでさえもかなり緊張していたのかもしれない。だからこそなおさら、バンドとしての力量の再確認と、ガンズの曲を演奏する、という空しさを否定しながらの好意的な観客のリアクションを経て、彼自身のパフォーマーとしての自信を取り戻したのかもしれない。今後のバンドの成長が楽しみだ。




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