Jeff Beck こんなオッサン、許せる?

東京ベイNKホール - 5/23/99


「ステージが、と、遠いわ」・・・・・これが会場入りしての第一声。 いちおう自分の席はアリーナの真ん中あたりのミキサー卓横でそんなに悪くはないのだけれど、なにせ前日にキャパ300のところでオールスタンディングのライヴを体験してしまったので、こんなにいい場所でもステージが遥かかなた先にあるように見えてしまう。 いや、でも確かに遠い。 やっぱこのぐらいのキャパのライヴは、もうライヴじゃない。 ダンスミュージックを楽しむ場所ではない。 単なる音楽鑑賞の場でしかない。・・・・・がしかしそんな自分にとっての最悪セッティングの会場、プラス立たない踊れない、そんなしけた客の面々を、ジェフベック御大は見事にねじ伏せてしまった!

約20分遅れでショーはスタートしたのだけれど、あのもうどうにも理性がぶっ飛んでしまう「What Mama Said」のイントロが流れ、舞台からすーっと幕が上がってジェフベックとそのバンドの面々が姿を現すという仕組みにまず驚かされた! いや仕掛けとしてはなんの変哲もないのだけれど、まさかジェフベックがそんな風にして登場するとは夢にも思っていなかったもんね。 確かに開演前にステージ上を見て、「あれー? ドラムセットもギターアンプも一体どこにあるんだ? まさかアコースティックギグじゃないよね?」、なんて思っていたのだからこの驚きは仕方がない。 しかしかっけえオープニングだよこれはー。 ジェフベックはまるで年齢を感じさせないし、酔っ払って観てたら、76年あたりのツアービデオ(・・・そんなのないけど。)と勘違いしてたかもね。 それだけ彼の経年変化はゼロ。 服のセンスも当時そのまんま。

そしてその肝心の「What Mama Said」だが、なにせこの曲をナマで聴いて踊るのが本当に楽しみだったから、一発目からもう本当に言葉がない。 サポートギタリストのジェニファー・バットンがタッピングを駆使してあのイントロのリフを弾き始めると、ああもう理性がどこかへ・・・・。 ドラムのビートが重なるやいなやジャーンプ!! ・・・そんなやつは周りには俺しかいなかったけど。 そもそも踊ってるやつなんてほとんどいなかったけど。 でもいいんだ、これは予想できたことだから。 ジェフベックのファンってそういうのが多いから。 みんなギターを弾くジェフベックをまぶたに焼き付けようと一生懸命になっている、と理解することに決めていたから。

この曲でのドラムはもちろん打ちこみ。 特に途中でジェフの独壇場になるところでは他のメンバーは誰もプレイしてやしない。 しかしここでのジェフのプレイはオリジナルとちょっと違っていて、スライドをバリバリに駆使して高音フレーズから低音フィンガーピッキングまで、もういきなりジェフ節爆発だ! ベタな言い方だけど、やっぱもう爆発! フレーズごとに右手上げまくるジェフベックはやっぱ爆発!

ちなみにギターは白のストラトキャスターで、アンプはマーシャルが主かな? コンボとスタックが両方あった感じ。 でも遠くてよく見えてなかったので他のアンプはどうだったかちょっと分からなかった。 でもそんなのはどうでもいいなこの際。 クリアにジェフの音が聞こえる、それで十分。 実際問題、とてつもなく音はラウドなんだけれど、ラウドなだけじゃなくて、こっちに向かってくる音圧だけがものすごい、といった感じでなおかつジェフのフレーズの細かいニュアンスまで聴き取れるという、まさに神業的音響セッティング。 やはりこの辺も並じゃないっすジェフベックは。

いきなり1曲目だけで字数が尽きてしまいそうだが(・・・そんなもんないって。)、それだけこの「What Mama Said」は重要な曲だってことだ。とにかくこの曲1つのために金払ってNKホールまで来たと言ってもいい。

さて2曲目もこれまた「What Mama Said」を凌ぐぐらい素晴らしいナンバー「Psycho Sam」。 「やっぱフジロック初日のアンダーワールドの次に出る人はこの人だわ。」とマジで思わせちゃうそんなすごい曲。 はっきり言って自分は途中で周りが踊ってないのにちょっと業を煮やしてしまって、いつもアリーナクラスのギグでは絶対にはずさないメガネをこの曲の時にだけはポケットにしまい込み、周りのしらけた雰囲気を見ないように目を閉じながら踊っていた。 ああ、ジェフベックのナマ音が俺にだけ聞こえる・・・・そんな錯覚に勝手に酔う自分。 バカかもしれない。 でもこの曲を立たないで座って聴いていられる2階席の面々はもっとバカか? (失礼。いやでもマジでそう思うよこれは。)

そしてニューアルバム「Who Else!」からの怒涛の3連発攻撃を締めくくるのは、スローブルーズの名曲「Brush With The Blues」。 ここで自分は初めてまともにジェフのプレイに視線を向けることになる。 ひねくれた性格そのままに、「まともなブルースは絶対に弾かんゼ!」ってな意気込みがまんま形になって現れたかのようなギターソロ。 いくらクラプトンでも眠りそうになっちゃうのがスローブルーズの欠点だが、ジェフベックのはまったく違う。 次にどんな音が出てくるのか、ハラハラドキドキ(笑)しながら見守ってしまう。

はっきり言って「Who Else!」から全曲演って、そして帰ってもらってもいいな、と思っていたのでこの3連発は非常に嬉しかった。まるでストーンローゼズみたいだ。(・・・観たことないけど。) でもそういうわけにもいかずこの後は新旧取り混ぜた構成になるのだが、前半部分での素晴らしいサプライズといえば、ビートルズの「A Day In The Life」であろう。 それっぽい映像がちょこっと背後に流れながら「A Day In The Life」のメロディーラインを爪弾くジェフベック。 はっきり言って名演。 全身鳥肌。 久々に涙を流しそうになった。 ポールとジョンのボーカルスタイルの違いみたいなものや、この曲の前半と後半部分での劇的な展開を、ピッキングのニュアンスをちょっとづつ変えながら心憎いまでに表現してゆく。 もう言うことなし。 ビートルズファンならずとも演奏に酔いしれる、ってやつでしょうか。

あとは意外にも、80年発表のアルバム「There & Back」から3曲演奏されたということだろうか。 しかし「You Never Know」「Star Cycle」「The Pump」ともになんであんなに古さを感じないんだ? というか今日この時に鳴らされるべき音だよこれは。 時代の先を行き過ぎていたのであろうかジェフベックは。 ましてやここにいるオヤジども(・・・自分もまあそうだけど。)にはもったいない音だね。 絶対にこれはリキッドルームのオールナイトの時に鳴らされるべき音でしょう。 踊り狂うよ絶対。 若い子は腰抜かすよ。マジで。

でもやっぱこれは嬉しい「Wired」からの「Led Boots」。イントロのところではオヤジパワー炸裂で、「オイ!! オイ!! オイ!!」ってみんな叫ぶもんだからジェフベックは笑っちゃってた。 しかしすげえへヴィーな「Led Boots」だ。 「Blast From The East」でのジェニファー・バットンの軽いリフと同様に、ここでも彼女のバッキングプレイがなにげに光っているし。 でもなんかすげえ流暢なフレーズだなあ、ってよく見るとジェニファーのソロだったりして、やっぱ本気だしちゃだめですよあなたは。 ジェフベックよりも速く弾いちゃうんだからこの人は。 でもクルクル回ったり、ジャンプしたりして、結構自分の視線は彼女のほうにあったかも。 この後のドラムソロはちょっと退屈だったしね。 でもその後に再登場したジェフベックのサングラス姿はまるでエディー・ヴァン・ヘイレンみたいだったけど。

あ、一応マイクスタンドがステージ中央あたりにあるのだけれど、それを通してジェフが話したのは一度だけ。蚊の泣くような声で、「サンキュー・ヴェリ・マッチ」を一言発しただけ。 でも嬉しそうだったなジェフベックは。 結構ニコニコしてたような気がするライヴの間ずっと。 スライドバーを肩越しに客席に放り投げたりしてほんとに楽しんでいるみたいだった。

ベーシストと座りながら掛け合いを演じた「You Never Know」から最後は「Blue Wind」。 やっぱ「Wired」からの曲は思い入れも強いためにとりあえず鳥肌。 途中のオブリガードのところでは客にギター&ベースのフレーズを歌わせようとするとんでもない展開で思わず笑ってしまう。 でも歌ったよみんな。 自分は勝手にベースライン担当だったので、低い声で「ボンボンボンボン」って言ったりしていた。 ちょっと恥ずかしいけど。 誰も気がつかなかっただろうけど。 でも「Blue Wind」をジェフベックの前で歌えるなんて最高だね!

アンコールの一発目は89年のアルバム「Guitar Shop」から「Where Were You」。素晴らしい泣きのギターで、「はぁ〜〜ん」とため息がこぼれる。 自分が女だったらこれはかなりヤバい。 そういう性感帯とらえまくりのいやらしい感じだ、「Where Were You」は。

最後の最後はやはり「Guitar Shop」から「Big Block」。ラストナンバーとしてはちょっと拍子抜けの感も無きにしもあらずであったが、やっぱここはひねくれものジェフベックということで個人的にはすっかり納得。 「Freeway Jam」あたりでまるでお約束のように盛り上がって終わり、なんて形よりもよっぽど好感が持てる。 もうこの頃にはラウドすぎてわけわかんなくなっていたが、ボーっとした覚醒の余韻を残すには十分な演奏であった。

とにかくこのジェフベックの演奏を言葉に置き換えるのはとてつもなく難しい作業なのでほとんどあきらめて開き直って書いているからちょっと読んでいてわけわからなかったと思うけど、ギターうんぬんを抜きにしても絶対に感じうるところがあるのがジェフベックのライヴなんだと思う。 そんな中でやっぱり自分が一番強く感じたことは、「やっぱライヴハウスで演れ!」ということ。 何度も言うけどこれはすっかり腰の弱り切ったオジサンやオバサン向けの音ではないよ。 絶対にオールスタンディングのダンスフロアでもみくちゃになりながら楽しみたい音だ。 ちくしょー、いつかクアトロあたりでライヴやってくれないかなジェフベック。 「What Mama Said」だけを2時間ぐらい演ってもいいからさ。  


  1. What Mama Said
  2. Psycho Sam
  3. Brush With The Blues
  4. Star Cycle
  5. Savoy
  6. Blast From The East
  7. A Day In The Life
  8. THX138
  9. The Pump
  10. Led Boots - Drum Solo
  1. Cause We've Ended As Lovers
  2. Space For The Papa
  3. Angel (Footsteps)
  4. Even Odds
  5. You Never Know
  6. Blue Wind

  7. Where Were You
  8. Big Block


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Last updated: 5/ 23/ 99