Jeff Beck 12月某日 - とある居酒屋にて

パシフィコ横浜 - 12/9/00


12/9の土曜日、横浜みなとみらいの会場に、開演時間を5分ほど回って滑り込んだKatsは、ほとんどが30代以上と思しき人達で8〜9割方埋まっている客席の間を縫うようにして、前から10数列目のシートに腰を下ろした。「駅から遠いぞこのやろ。ドラムの練習で足がガタガタしてワナワナしてるぞこのやろ。」

・・・・・・


そのちょうど1週間前の土曜日、国際フォーラムのふかふかシートから弾けるようにして立ち上がってジェフベック御大を迎えたしげやんは、その異様な光景に目を剥いてこう呟いた。「おまえ、こんなに近いのに双眼鏡はねえだろ。この音を、もっと体で感じろこのやろ。」

・・・・・・


その数日後のウィークデイのある日、同じ国際フォーラムにて、かつてギター殺人者と呼ばれたこの男の姿を眼前に捕え続けたれいくは、その異常なまでに卓越したギタープレイを目の当たりにすることになった。「去年観たときよりも全然近いぞこのやろ。一体どうやって弾いてるんだこのやろ。」






この11月に発表されたばかりのニューアルバム「You Had It Coming」の中でもかなり異色の作品として収録されていた「Blackbird」。鳥の鳴き声をギターで模したこの曲が会場内に流れ始めると、黒のタンクトップ&黒のパンツに身を包んだジェフベックの姿をステージ左側に捉えることができた。「でも、このBlackbirdを生で聴きたかったね。ギターのジェニファー・バトンにシンセ音を弾かせて、それに鳥の声で絡むジェフベックってのは見ものだったろうにな。」としげやんが語る通り、このSEは1曲目の「Earthquake」のイントロのよって瞬く間に掻き消されてしまう。

しかしKatsは、生ビールのお代わりを注文した直後にこう語る。「Earthquakeは俺のスーパーへヴィーローテーションだし、ものすごく期待してたからさあ、このイントロが鳴った時にはすげえ興奮したよ。」 その言葉通り、パシフィコ横浜に来ていた客の多くがここですでに総立ちとなった。なおかつ会場全体から「うぉーー!!!」という怒号のような歓声が上がる。

だが国際フォーラムにてこの瞬間に立ち会ったしげやんは、頬をやや赤らめながらこう付け加える。「なんかこう、自分は熱くなりたいんだけど周りの様子がどうもねえ。周りの人が背が高かったせいか、どうにも気になっちゃってねえ。」 つまりKatsのように周りのオーディエンスの様子が気にならないほどすんなりライヴに入り込めた人はラッキーだったのかもしれない。「とにかく近くてジェフベックのフィンガリングが手に取るように見えたよ。」と鼻息を荒くしながらビールを飲み干したれいくはさらにラッキーだったのかもしれないが。

「あのドラムセットは一体なんだんだおい。バスドラは3つもあるし、シンバルは変なところについているし、まるで宇宙要塞みたいだったな。」と一気に捲くし立てるKats。「いやぁ、確かにドラムよかったっすねー。」と話すれいくを遮るようにして、「でもドラムの存在を忘れるほど、ジェフベックの円熟味溢れるギタープレイはすごかったよ。」と口を挟むしげやんは、興奮が過ぎてしまい、ビールをテーブルの上にこぼしてしまう。ちょっと膝にかかってしまったビールを傍にあった布巾で拭きながら、「まあ、確かにすごい良かったけど、もう少し人力であのアルバムの凄さを再現できたらもっとよかったねぇ。後ろに流れてたテープ音がちょっと気になっちゃった時があったし、もっとバカでかい音でドラムを聴きたかったような気もするよ。」と語ったKatsは、右手を掲げながら居酒屋の店員を呼び止めた。

ビールをこぼしてしまったのを気にしてちょっとバツが悪そうにしているものの、主張すべきところはしっかりと主張するのがしげやんだ。「とにかくさあ、ジェフベックだけじゃなく、もう1人のギター=ジェニファー・バトンにもっと注目してもいいんじゃない? だってスポットライトが全然当たってないんだもん。最後のBlue Windのところだって、ギターでツインバトルしてんのに、ベックにしかスポットライト当たってないんだもん。」 マイケル・ジャクソンのツアーメンバーとしても有名なジェニファー。なるほどしげやんがソロアルバムを持っているというのもうなずける話である。しかし、「いや、俺は凄いと思ったよ。だってBlue Windのシンセのところもギターで完璧に再現してるんだもん。それもピッキングしてから2秒ぐらい遅れて音が出てくるんだぜ。」 その通り、単純に"速い""巧い""器用"という意味から言えばこのジェニファーの方がジェフベックよりも上かもしれない。「それにあのRollin' And Tumblin'でのボーカルもうまかったよねー。あれってアルバムで歌っている人は全然違う人なんだよね。」 そう、アルバムではジェフベックご指名のボーカリストがこの曲を歌っているのだが、ジェニファーはその声そっくりにすべてを歌い上げたのだ。「え、マジっすか? 違う人? さすがKatsさん。押えてるねー。」

いや、そうは言っても、白のストラトキャスターを持ったジェフ・ベックは、自分よりもひと回りは若いであろう他のバックミュージシャン達に比して、圧倒的なオーラを放っていたことは紛れもない事実だ。とにかくあの年齢にしてあの肉体はなんなのだ! Katsが、「昔のライヴビデオでも観ているようだった。腕を上げたら腋毛がなかったもん。」と表現するように、ジェフベックのシルエット自体、昔とまったく変わっておらず、ステージ上での身のこなし共々、遠目には20〜30歳台のミュージシャンと全く変わらない。

「Nadiaのイントロでスライド弾いてたじゃん。そんでそのスライドバーを途中で指から外して下に落としたんだけど、そのスライドバーがステージ上に落ちる”コトン”っていう音まで聞こえてさあ、感激したよ、結構。」と語るKatsのビールは10分経ってもまだ来ない。「いや、それよりも、そのイントロをスライドで弾き終わるとさあ、一瞬体の動きを止めて、”ニヤッ”と笑ったんだよね。気が付いた? こないだミュージックステーションに出たときはスライドなしでその曲を弾いたんだけど、つまりその前振りとしてあったから、あの”ニヤッ”があったんじゃないかと思うんだよね・・・・。あ、ちょっとすいませーーーん!!!」。傍を通った居酒屋の店員を呼び止めてくれた気の利くしげやん。ついでにナスの浅漬けを注文するKats。

「チューニングを変えていたのは2曲ぐらいだったかな?」とのしげやんの言葉に、「あ、そういやSavoyだったかな、Left Hookだったかなあ。イントロでジェフベックがギターのチューニング狂っているのに気が付いて演奏を止めちゃったんだよね。そんでバツが悪そうに下向いて笑っててさあ。客にも無茶苦茶ウケてたよ。」「そうそう、なんかいい意味でリラックスしてるというか、すごくいい感じだったよ。ステージも結構動き回ってたし。」としげやんが切り返したちょうどその時にKatsの中ジョッキが到着。改めて乾杯をする。

ちょっと顔が赤らんできただけでなく、目線まで若干遠くなってきたれいくは、ソファーに深々と腰をかけてリラックスムード。「ブリッジを叩いて細かいビブラートをかけたりさあ、ボールペンみたいのでギターの上をぽんぽん叩いて音を出したりさあ、何やってんのか分かんないよねえ、あのおっさん。」しかしジョンレノンフリークのれいくは、話が「A Day In The Life」のことに及ぶと突然身を乗り出した。「でもれいくさん。A Day In The Lifeを今年は完全バージョンでやったよねえ。」「そうそう、去年はあのポールのボーカル部分は演奏してなかったね確か。んで、あの”ボワー”って部分も再現してたしさ。」 ただの”ボワー”で曲のどの部分かすぐ分かってしまう自分たちに、思わず顔を見合わせて爆笑してしまう3人。そう、あの”ボワー”の部分を、横浜パシフィコでは、ジェフベックが中腰になってギターを頭上に掲げ、それをジェニファーがキーボードのようにしてジャガジャガ指で鳴らすといった芸も披露してくれたのだ。 「でもその"ボワー"がポイントなんだから、曲が終わったと思ってそこで拍手をしないで欲しかったなあ。」と言いつつも、しげやんは1950年もののフランスボルドーワインを、10分と経たずに空けてしまっていたのだ。

いつの間にかグラスで冷酒を飲んでいるKats。「でも演奏時間が1時間半弱ってのは短くなかったっすかねえ? どう?」 相変わらずジョッキの生ビールを次々と平らげていくれいくは、「いやあ、そんぐらいの時間だからこそいい感じだったよねえ。短くは感じなかったよ。 それよりも俺たち、ちょっと長居しすぎじゃねぇ?」 気が付けば終電の時間が迫っている。特にれいくは、子供達をディズニーランドに連れて行かなければならないため、明日は朝が早いとのこと。かつ本人は適当にはぐらかしているが、しげやんはこれから女性と会う約束か何かがあるらしい。そしてKatsはこれから・・・・・・・・・・・・・・・何もない、何もないんだよぉ。せめてライヴレポート書くぐらいしか。




セットリスト 12/1
しげやんがゲットした東京国際フォーラム公演のセットリスト。でも12/2に観にいったのに、もらったのはなぜか12/1のもの・・・・。ちなみに12/9のパシフィコ横浜公演ではLoose Cannonの代わりにLeft Hookが演奏された。



| Back | Home |


next report: Underworld (11/24/00)


Send comments to: Katsuhiro Ishizaki

Last updated: 12/ 13/ 00