■ 赤坂ブリッツ - 2/18/99
自分は Jon Spencer Blues Explosion 〜 Jon Spencer (vo, g), Judah Bauer (g, vo, harp), Russell Simins (dr) 〜 については前作 "Now I Got Worry" から聴き始めた程度であった.しかし,正直なところそれほど聴き込んでいたわけではなかったし,詳しい予備知識も持っていなかった.何はともあれ,このような状態のもとコンサートに挑んだのであった.
会場に15分遅れで入ったところ,すでにオープニングアクトの演奏が始まっていた.コンサート終了後知ったのだが,当初はオープニングDJアクトに Prince Paul, "Acme" でも活躍していた Automator という面々が予定されていたものの直前にて中止,代わりに The 5.6.7.8'S という日本人バンドが出演することになったとのことである.この女性3人組のバンドはそれなりに健闘しているとは思うが,リズムの危なっかさしさがやたらと目立ち,楽しむというよりは「失敗しないだろうか?」と,まるで学芸会で子供がトチらないかと心配する親のような心境にならざるをえなかった. 彼女らの演奏が終わってセッティングが終わると,BGM が鳴っているにもかかわらず3人が無造作にステージに登場する.オープニングは新作から"Hell". CDとは比べ物にならないほどの切れ味を持った Judah のギターは大炸裂し,ザクザクコツコツとリズムを刻み,それに Russell の16ビートシャッフルのリムショットがからむだけでとてつもないグルーヴが出現する.曲の中盤からようやくスネアがまるで雷の如くズンズン鳴らされ,思わずヘソを隠したくなる.さらに Jon の歪みまくった叫びがからんでくると,もう冷静になれ,という方がムリ!腰が勝手に動き出す. ステージはシンプル...というか,今時の高校生バンドもここまでシンプルではないだろう,と思うくらいに贅沢がない.こんなにデカいステージでこんなにシンプルな機材で勝負できる人たちがいるのだろうか?! いや,いないだろう.思わず高校の国語の授業のとき習った「反実仮想」という言葉を思い出す. Judah は Fender Esquire を中心に,時々 Telecaster に持ち替えたりフェイザーをかける程度で,あとはフェンダー・アンプのクリーン・トーンの一本勝負.しかし,頭のどこのスイッチをひねったらこのようなプレイが出来るのか?時々出てくる重低音といい,多分変則チューニングとは思うのだが,何をどう弾いているのか見当すらつかない.こんな素晴らしいプレイがあればベースプレイヤーなんかいても邪魔になるだけだろう. Russell はこれまたシンプルすぎるドラムセット.こんなドラムセットが音楽スタジオに置いてあったら,誰しもがスタジオ従業員に文句を言うに違いない.そのシンプルなセットをまるで親の仇を取るかのように「ここまでか」と叩きまくる.最新アルバム"Acme" のディスク・レビューで Kats さんが「ボガボガズカズカ叩きまくる、グルーヴしまくる、加速しまくる。」と述べていたが,何とうまく表現したものか!このリズムはすご過ぎる.タテノリ,横ノリ,もう何でも自由自在で,リズムの海に溺れてしまう. Jon は変形ギター(ギター・マガジンによると1963年フジゲン EJ-2 という和製ギター)を歪んだグチャグチャとした音で弾くが,ギターの主役はあくまで Judah.ひたすら歪みまくった声を出しながらステージ上を動き回り,それゆえにマイクが終始ピーピーガーガーとハウリングしているが,それも演奏になくてはならないものと思えるほどの必然性までが感じられる.歌のみならず奇声や叫びも,とにかくリズムがすご過ぎ,加えて声の表情が秒刻みで変わり,その都度にドキドキさせられる. リズム・マスターたちの三位一体のリズムの攻めは留まるところを知らない.ライヴが始まってしばらく続いた早めのテンポの曲だけでリズムの素晴らしさは十分感じられたのに,その本当のスゴさを思い知れたのは中盤にさしかかって横ノリの曲が出始めた頃で,特に "I wanna make it all right" ではその横ユレの快感をひたすら味わうことになった.このようにタテにヨコに揺らされたのでは,もう大変なことこの上ない.この意地悪なリズムの鬼たちの攻撃にアクメを感じてしまったのは決して自分だけではないだろう.そう,これはセクシュアルな官能以外の何物でもない.このような快感を知ってしまったからには,二度と逆戻り出来ない,と感じさせるようなスケベな気持ちを体中で感じまくる. そうこうしているうちに,"Attack" や観客参加型の "Blues X Man" で各自が Jon に負けじと叫んだ後は,とうとうオーラスへ.後ろで出番を待っていた知る人ぞ知るアンテナ楽器,テルミンの出番である.Jon がやたらとスケベな指使いでテルミンをピヨピヨヒュルル〜と鳴かせ,そのフィンガーテクニックで感じてしまった観客一同はもうエクスタシーの極致である.その音をループさせたままメンバーはステージから去る. アンコールでは,待ってました!という感じの "Talk about the blues".ヒーヒーギャーギャーとマイクをハウリングさせながらステージの上で悶え,"I don't play no blues... I play rock and roll! That's right, blues is No. 1 !!" と叫ぶ.これ以上はもう何も言うまい.さらに MTV などでヘビロテされた "Wail" で完全に理性が吹っ飛んだところで,オーラスでは新作のシングルカット曲,"Magical Colors".「ちょっとマッタリ?原曲で雰囲気を作り出していたオルガンがないままやるのか?」と考えた自分がヤボだった.最初はジックリと歌いこんでいたものの, Jon がそのまま終わるわけがない.ボーカルは少しずつ変貌を遂げていき,いよいよ最後はエクスタシーに達する...これぞアクメ... Jon Spencer Blues Explosion の破壊力はライヴを体験して初めて分かる,ということを痛感させられた.今となっては,あの "Acme" でさえ小じんまりとした印象を持ってしまう.それだけの壮絶なライヴであり,腰が悪い人には気の毒になるようなほど腰にくるライヴでもあった.
next report: Blue Cheer / Deviants (2/11/99)
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