Kula Shaker かわいそすぎる・・・

Liberty Lunch, Austin, TX - 2/ 7/97


本当は、この日のクーラ・シェイカーのライヴを見る予定はもともとなかった。オースティンにいる友人を訪問するだけの予定だったのである。しかし彼はいつまで経っても約束場所に現れない。「よしクーラ・シェイカー見にいこう!」。というわけで、彼には留守電残して、たまたま(というわけでもないのだけれど)来ていた彼らのライヴをふらりと見にいくことにした。

実はこの日、待ち合わせ時間よりもかなり早目に着いてしまった私は、会場であるLiberty Lunchをちらりと見に行っていたのである。オルタナ系の中堅クラスのバンドがよくショーをしにくる小屋だとは聞いていたが、本当に街の外れといった感じの、ぽつんとしたところにあるライブハウスであった。夜はちと恐そうなとこである。その道路脇には、白いバスが横付けされていた。きっとクーラ・シェイカーのツアーバスなのであろう。メンバーが寝ているかもしれない、などと思いつつ、その時は「じゃあ、明日逢おう」といった感じでその場を後にしたのであるが...。

しかし仮にも日本では人気大爆発のバンドである。12月の日本公演の際にはチケット争奪戦だったと聞く。もしろん私はチケットなど持っていない。アメリカとはいえ、そんなグループのライヴをふらりといって観られる筈がない、と密かに思っていた。着いたのは会場時間を過ぎていた8時半。鉄製の重たいドアを開け、恐る恐る聞いてみる。「チ、チケットまだあります?」「もちろん! 10ドルです。」いとも簡単に入場。本当にクーラ・シェイカーは出るのだろうか。

がらんとした会場内は、まだ3分の1も埋まっていないような様子。みなたばこ吸って、酒飲んでリラックスしている。そんなこんなで前座の変なバンド(女4+男1)登場。オーストラリアから来たというこの人達は、バイオリン、バリトンベース、キーボード、ドラムなどといった編成で、ギコギコ演り始めた。音はあんまりよくない。どうにも退屈な演奏。小一時間ばかりやって退場。この時で約3分の2の入り。

さて目を覚まさなくては。いよいよ待ちにまったクーラ・シェイカーの番である。セット・チェンジの間、お香が炊かれ、ハモンドオルガンが用意され、「Kula Shaker」のロゴの入ったドラムが組まれる。やがて場内暗転、来たるべきおしくらまんじゅうと、ダイブの嵐に備えて、一瞬身構える。

もちろん一曲目は、ハイパー・ロックン・ロール・ナンバー、「ヘイ・デュード」。ものすごいグルーヴがステージ上からたたき出される。「The Who」のグレーのTシャツを着たクリスピアンは、はじめから頭を振り、足を踏み鳴らしながら、ギターの弦が切れんばかりにカッティングする。マイルドなディストーションのかかった彼のギターは、切れ味抜群。この人ギターに専念したらどんな素晴らしいテクを見せてくれるのか。他のメンバーも思いのほか存在感が高い。皆はじけまくっている。はじけまくっているのはメンバーだけであるまい、われわれ客だって...と思い辺りを見てみる。どの客もノっているどころか、頭が1ミリたりとも動いていない。大袈裟に言っているのではない、事実なのである。日本の皆さん本当にすみません。こいつら、アルバムも聴かないでここに来てます。それにこのグルーヴを感じて表現することが出来ないこいつらって一体...。こんな奴等が明日友達かなんかに、「クーラ・シェイカーってなんかさあ...」とか言っているのかと思うと、本当に...。

わずかに観客からリアクションがあったのが「ゴヴィンダ」「タットヴァ」のインド風2曲。多分アメリカでのマーケティング戦略のせいだとは思うけれども、本当の英国製ロックン・ロールバンドだと認識していた私にとって、この反応は本当に意外だった。「ヘイ・デュード」のヴィデオ・クリップなんか、頻繁にMTVで流れてたわけだし...。

しかし当の本人達、クーラ・シェイカーは本物であった。クリスピアンの熱血ぶりは言わずもがな、ベースのアロンザとドラムのポールのコンビネーションは、非常にタイト。キーボードのジェイは穏やかで、時に優美なフレーズを奏でる。「303」「スマート・ドッグス」「グレイトフル」などのスピード感あるナンバーでの静と動のダイナミズムには、体の奥底までえぐり取られるような、そんな衝撃さえも覚えた。新曲「For This Love」は、早くも彼らの新境地を示すかのようなポップ・チューンで、クーラの違う一面を見た気がする。

しかし最低だったのはやっぱり客で、クリスピアンが「イントゥ・ザ・ディープ」で違うギターを持ち出したときには、「リッケンバッカー!」と、いかにも彼らはビートルズのコピーであるかのように叫んだ奴はいたし、しまいには「おめえらただビートルズ、60年代のまねばっかしてんじゃねえぞ!」というような声まで耳にした。分かったふりした、頭でっかちなアメリカ(南部)の学生達。胸くそ悪くなり声の方を振り返ると、前を通った奴の杖でいきなり足先を踏まれる。そしておめえの体ゆれてて見えねえってわけで、後ろの奴にいきなり両横腹をつかまれる。こんな極めて個人的なことも含めて、非常に胸くそ悪かった。ライブの内容が良かっただけに本当に残念だ。

一時間弱のショーだったけれども、ステージ上と客席内の温度はかなり違っていたようだ。数日後に地元の音楽誌にこの日のライヴ評が載っていたが、それは上記の客のようにかなり辛辣なものだった。そんなんじゃねえんだよ、このバンドは。分かったふりすんなよ、この馬鹿どもめが(怒)。


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Last updated: 8/ 25/ 97