Limp Bizkit ガンダムなし

幕張メッセ国際展示場9番ホール - 1/14/01


昨年6月のレイジ、11月のアンダーワールド以来3度目の幕張メッセ体験だが、今回の会場はその2つのライヴの時とは違い、お隣にある9番ホールという建物の中だった。しかし幕張メッセというエリアには、こんなでかい会場がいくつあるんだろう??と思ってしまうのは果たして自分だけなのだろうか。レイジやアンダーワールドのライヴが行われたスペースも広かったが、この9番ホールという展示用スペースもこれまたとんでもなく大きく、横浜アリーナがすっぽり丸ごと1個入ってしまうぐらいの広さがある。 だから、「やっぱ今年のサマーソニックはこの会場しかないよなあ」と改めて思うに至るわけだが。

前座には大阪出身の「UZUMAKI」というバンドが登場。フロントの2MCsはステージを軽快に動き回るし、発言は威勢がいいし、演奏も手堅いしといった感じで悪くはないのだが、今となっては珍しくもないヒップホップヘヴィーメタルなスタイルに古臭くさを嗅ぎ取ってしまい、だんだんと一本調子な印象を受けるようになる。ビジュアル的には本人達も言うように海外のバンドと遜色ないんだけどね。あまりにも刹那的な感じで、観ていてちょっと辛かったかな。特にリンプのように、単純にメタルとヒップホップをくっつけたのとは明らかに違う多様性のある音楽を提供しているバンドが後に控えていたりすると、その違いと実力差は、なおのことはっきりしてしまう。でもこのでかい舞台に臆せずやりたいようにやったその姿はかなり爽快だった。

ステージ上を覆い尽くしていた暗幕が取り除かれ、その豪華絢爛なステージセットの全貌が明らかになる・・・・・・・・と言いたい所だが、「これって隠しておく必要があったの?」とツッコミたくなるほど、ステージ上にはギターとベースとドラムとアンプとターンテーブルしかなかった。エミネムとの北米ツアーで話題になっていたガンダム仕様のステージセットは、それを生み出したここ日本への輸送は難しかったようだが、これはかつてビースティーズ横浜アリーナ公演に円形ステージがなかったのと同じぐらい、落胆の度合いは深かった。

午後7時24分。最新アルバム「Chocolate Starfish and the Hot Dog Flavored Water」トップを飾る「Intro」のテープに合わせて、赤と青とでスタイリッシュに配色されたリンプロゴの垂れ幕が落とされ、メンバーがステージ上に登場。「れいでぃ〜す、えん、じぇんろ〜めん! いんろでゅ〜すぃん、ちょこれ〜すた〜ふぃっしゅ!」というところにもテープが使われているのだが、白メイクに黒マント姿のウェスが「Hot Dog」のギターリフを弾き始めると、ボーカル=フレッド・ダーストが横綱の貫禄にてボーカルマイクを握り締めて登場。「ふれーーーーっど!」という絶え間ない掛け声の中、ステージをこまめに動き回るフレッド。「コンニチワー、とーきよー。これが最後の夜だぜ!」と言いながら始まった、アメリカの地名連呼ソング「Show Me What You Got」では、曲の出だしで「とーきよー!とーきよー!とーきよー!」を連呼。 こりゃまるでヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの「ハート・オブ・ロックンロール」みたいだ、と思いながら、自分がリンプの曲の中で一番も好きな「Break Stuff」のリフのカッティングを、ギターのウェスがその細い体を前後に揺らしながら弾き始めると、全身に鳥肌がぞわーーっと広がっていい感じ。

曲が終了し、フレッドのMCの段になると、例えば「How's everybody doing?」と言えば、どこからともなく即座に「みんな元気かぁ?」という日本語のアナウンスがあるという、英語が分からない人にも大変優しいコンサート、いやそのボーカルの彼曰く大変優しいパーティーになっていて、フレッドはその日本語訳が終わるまで神妙な顔をしてみんなの反応を伺っている。「This song was written for you.」と言えば「これはみんなのために書いた曲なんだ。」ってことで「My Generation」へ。

「パンツはいてない女の子はいるかぁ?」「男ども、叫べぇ!」「これが終わったらみんな遊びにいくのか? どこで遊ぶんだ?」といったアホアホMCに続いて曲に入るといった感じの構成が続き、客から受け取った100円ライターに火を灯しながら歌ったりするあたりまでは、確かに「これぞリンプ!」と思わせるバキバキのロックンロールと、「これもリンプ!」と感じさせるミドルテンポの叙情的なナンバーを織り交ぜながら、「いやあさすがリンプ〜」と唸らせるプロフェッショナルなステージングに目と体とが同時に奪われていく感じだった。しかし、女の子40人(・・・数えた。)をステージに上げて踊らせた「Faith」や、逆に男の子をステージに上げた「My Way」、そしてフロアー後方の特別ステージに仁王立ちしながら、1人の女の子と踊りながら歌った「The One」を見ながら、なんかこれは違うなあ、なんか踊ってるんじゃなくて、踊らされてる感じだよなあ、といった気がしてきて段々と歯がゆくなってきた。

客席後方から突然現れる手法や、フロア後方にステージを作って歌う形は、エアロスミスやローリングストーンズの例を引き合いに出すまでもなく、スタジアム級のコンサートにおいて近年よく用いられている手法である。故にこの仕掛け自体は驚くべきことでもなんでもなく、フジロック'99でダイヴの嵐で揺れるフロアのど真ん中に自ら突っ込んでいき、セキュリティの肩車によって1曲歌い通してしまったあのフレッド・ダーストと較べてみれば、この光景にインパクトを覚えた人は少なかったに違いないし、少なくとも自分が彼らに求めるステージ像というのは決してそこにあったわけではない。いや、ラストの「Take A Look Around」で、フロア右側に再度仁王立ちした時、そのフレッドの姿よりもむしろステージ上に残って淡々と演奏を続けるバックメンバーの動きの方にむしろ注目を注いでいた周辺のオーディエンスの姿を見れば、自分と同じ感慨を持った人が少なくなかったことは明らかだ。

つまり我々はリンプ・ビズキットの何を見たいかというと、というかリンプ・ビズキットの何が最も我々の目にかっこよく映るかというと、これはエンターテイメントの権化と化した去年のベック来日公演を観て抱いた感想と非常に似ているのだが、体を上下に揺らしたベースのサムと、くるくる回りながら謎のフレーズを紡ぎだすギターのウェスとを隣に配置しながら、大股を開いたボーカルのフレッドが自分の足元に向かってシャウトを繰り返す姿、それ自体なのである。いや、他のバンドと違ってただ演奏するだけでは満足行かない、ということなれば本当にエンターテイメントのみに徹すればいい。去年の8月にレディングで彼らのステージを観たときまでは、そのアホさ満点のバカでかい仕掛けによって腹は一杯に満たされていた。でもこの日の幕張公演に限って言えば、花火も紙吹雪もなく、バカなカバーもなく、くだらな過ぎるジョークを言うでもなく、あったのはまるでNHKの歌番組みたいな紙テープがステージ上から飛んできたことと、前述したセカンドステージでの歌と、それからステージに客を上げたこと、それだけであった。 それだけ、といった表現をすると言い過ぎかもしれないけど、いや、でもリンプに関しては以前が以前だっただけにそのぐらいの仕掛けではもう満足のできないレベルに達している。エンターテイメントに隙があるため、どれだけ多くの観客がステージ上で踊っていても、それがリンプと共に「踊っている」と感じさせるのではなく、リンプによって「踊らされている」と感じてしまう。リンプビズキットというバンドが、とても遠い存在のものとして感じてしまう。ステージとフロアとの間に溝があるように感じてしまう。だからそういったことを忘れさせるために、少なくともガンダムはそこにあるべきだったのだ。

エンターテイメントに徹するなら徹していただく。それが半端なものならば徹底したミュージシャンシップを見せていただく。それが現在のリンプ・ビズキットに求めたいことだ。でもどちらかと言えば、やはり後者のリンプ・ビズキットというのを観てみたいという気持ちが80%ぐらい。 なぜならばフレッド以外のメンバーが、自分達が提供しているエンターテイメントを心底楽しんでいるようにはとても見えなかったからだ。フレッドがフロアの後方で歌っていた時、ステージ上に残された彼らは、それまでの激しいステージアクションがまるで嘘のように、もぬけの殻状態で淡々と演奏していたから。



  1. Hot Dog
  2. Show Me What You Got
  3. Break Stuff
  4. My Generation
  5. Re-Arranged
  6. Livin' It Up
  7. I Want You To Stay (?)
  1. Faith
  2. My Way
  3. Rollin'
  4. Full Nelson
  5. The One
  6. Nookie
  7. Take A Look Around



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Last updated: 1/ 15/ 01