■ Deep Ellum Live, Dallas, TX - 3/ 4/97
with Eels
「Fever In Fever Out」は素晴らしいアルバムであった。「ロック」という比較的前のめりに暴走し、音としてわかりやすいものと比して、彼女らのようななんともはっきりしない音楽というのは敬遠しがちであった。しかし、この1枚を2度3度と聴くにつれ、どっぷり彼女ら、Luscious Jacksonの世界にはまっていく自分の存在に気がついたのである。
桃の節句の翌日、場所はダラスで最も大きいライブハウス、Deep Ellum Live。はっきりいって、ルシャスには最高に似つかわしい大田舎でのショーである。前座はEelsという鳴り物入りでメジャーデビューしたバンドだったが、4曲ぐらいやったところで余りにも客の反応が鈍いからか、そそくさと返ってしまう。まあいかにも今時のアメリカのバンドといった佇まいで、アルバムもライブも極平凡という感じはぬぐえない。今夜我々が待っているのは、おらが町にニューヨークからはるばるやってきたジャクソン様御一行である。しかし正直言って、自分自身ああいう音楽をやる人達のライブで盛り上がれることはあまり期待してなかった。ゆらゆらした気持ちの悪い音楽のかかった、二昔前の日本のディスコ(死語?)の様なものになるのではないかと思っていた。
ルシャスの面々がオーディエンスに姿を見せる。前座のEelsと違って拍手喝采。いきなりヒット曲「Naked Eyes」でスタートする。まず驚いたのは、フロント3人の圧倒的な存在感。何とも言葉にしにくいのだけれども、要するにみんな写真で見るより全然かわいい(笑)。いや「洗練」といいなおそう。「やっぱみんな都会の子だなあ」という感じ。個人的にはキーボードのヴィヴィアンの髪型が気に入った。いやとにかくロックというか何というか、ありきたりの表現をしてしまうと、これこそ「グルーヴ」、腰にゆらりゆらりと働きかける音楽なのである。CDとはまた違ったダイナミズムがあるというか、おつというか妙というか。わからない。自分には身の覚えの無い物だこれは。ごめん。「われわれがニューヨークから来たルシャス・ジャクソンです」という丁寧な挨拶の間に、非常に大事なことに気がついた。「何だあのドラムのおっさんは。」
そう、バンドのかなめ、ビースティー・ボーイズのドラムにも推薦されていたという、ドラムのケイトがいないのである。かわりに男性のドラマーがぼかぼか太鼓をたたいていたのだ。音楽的にどうかということは、彼女のいるルシャスのライブを知らないので何ともいえない。だが、その前の日本公演とこの後のツアーではケイトがドラムをたたいていたと聞く。いったい何があったのだろうか。一分ぐらいのインストの曲があって、珍しくギター前面のナンバーだったのだけれど、その曲が一番ドラムにはまっていたような気がした。
しかしまあ、非常に自由なバンドだ。弦楽器の人はみなベースもギターも弾くし、サポートのパーカッションのでかい黒人まで、持ち場を離れて突然ベースを弾きはじめる。かといって女の子バンドにありがちなお水な雰囲気はこれっぽっちもないし、プリプリのような空元気で下世話な風情など微塵も見られない。でも「Why Do I Lie?」の様なスローなナンバーでも、決してキャロル・キングやカーペンターズにはならない。イージーリスニングにしてはシリアス。でも汗、根性、情熱、青春、といった男臭さ、青臭さとは無縁。はっきりいって大衆受けするような女の武器もない。何度もいったけれども、良く分からないのである。形容の仕様がない。俺は根っからの田舎者なんだなあ、きっと。「田舎者には決して出せない音。」そんな風にロッキング・オンでも言ってたっけ。
80%ぐらい埋まった会場で、決して大盛り上がり大会とはならなかったけれども、心地よい横揺れグルーブでもって、こてこてのテキサス人である自分達の乾いた日常を一時のオアシスに変えてくれるような空間をルシャス・ジャクソンは作り出していた。しかし「Eelsはとってもいいバンドなのよ」というMCはただの社交辞令にしか聞こえなかったなあ。
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Send comments to: Katsuhiro Ishizaki Last updated: 8/ 25/ 97
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