■ 渋谷オンエア・イースト - 9/18/98
「ポール・ドレイパー」。アルファベットで「Paul Draper」。並び替えると「Draper, Paul」。日本語に訳すと「呉服屋ポールさん」。なんだか人一倍愛想が良くて、物腰の穏やかそうな名前である。
しかしこの呉服屋ポールさん、昔から誰に対しても物腰が穏やかというわけではない。特に同業他店に対する敵対心には並々ならぬものがある。
でも今日のポールさんは、お客さんに対しての愛想も良くなかった。「商品ほんとに売る気あんの?」とでも突っ込みたくなるほどの接客態度には、こちらの客側が戸惑いを憶えるほど。「Six」という、もう今年最高傑作とも言えるほどの新商品を携えながら、なおかつメディアも注目する日本での唯一の展示会でありながら、なぜみんなの前で「ありがとうございます」も言えないのか?
セックス・ピストルズの曲群がSEとしてしばし流された後、開演予定時間とほぼ同時にスタートしたこの日のギグ。ほぼ1年振りに見る彼らの姿は以前とそんなに違った印象はない。異なっている点といえば、そのポール・ドレイパーの手にギターが携えられていなかったことと、ベースのストーヴが上半身裸じゃないことぐらい。ギターのチャドはもう彼のトレードマークとも呼んでもいい赤のGibson ES335を腰の辺りに抱え、その背後にはマーシャルとヴォックスのコンボアンプがそれぞれ2段に積まれているのが見える。その反対サイドにもマーシャルとのスタックとメサブギーのコンボアンプがあるので、ポールもやはりギターは弾くのであろう。しかしそれにしてもあの分厚い音で構成されているニューアルバム「Six」の曲をシングルギターで乗り切ろうとする姿には正直ビックリした。
その注目の1曲目は、ちょっと意外だった「Negative」。確かにあのアルバムの中ではかなりハードなナンバーであるからして、客の方も前方に押し寄せ、もうすでに圧死状態になる・・・・、と思っていたが、まったくそうではない。前5列ぐらいから後方のオーディエンスは、こっちが拍子抜けするほどにまったく持って冷静沈着。よって自分はチャドのほんとに目の前でもみくちゃにならせてもらう。
「Thank you. Good evening!!」という短いコメントの後に披露されたのが、恐らくこの日一番の盛り上がりとなった、ニューシングル「Being A Girl」。この曲のブレイクの部分でポールはスタッフになにやらひそひそと耳打ちをしていたが、その表情は非常に険しかった。何かトラブルでもあったのだろうか? この曲の最後にも「Thank you!!」という言葉も聞かれ、この辺までは呉服屋の愛想もそんなに悪くなかったのだが。
しかしポールがダブルカッタウェイのギブソンを持った辺りから、どうも彼の様子がおかしくなりはじめた。「Mansun's Only Love Song」「Stripper Vicar」など、本当に盛り上がるべきところで、肝心のポールはヴォーカルを取りに前に行く以外は、アンプの目の前でひたすらカッティングにいそしむのみ。チャドとポールのコミュニケーションも少ない。でもひょっとしてニューアルバムからの曲がほとんどになるのではないかと想像していたので、こういった選曲は個人的には非常に嬉しくあると同時に、あの「Six」の方向性を考えると正直複雑な心境でもあった。
チャドのマイクスタンドの所にあった透明なスライドバーを小指にはめ、青のフェンダー・ジャガーにギターをチェンジしての「Shotgun」。この曲はやっぱりキーボードが入っていないのがちょっと痛かった。ヴァース部分のブレイクの所では、思わずキーボードのラインを自分で口ずさんでしまったよ・・・。だがこの曲の長い間奏部分は非常にグルーヴィーで、ポールもギターでオブリガード(短いソロ)を入れる。しかし相変わらずポールの左手の親指の当てがい方が非常に独特。思わずそこだけを見入ってしまう。でもこういったギターの絡みは非常に気持ちがいい。
そのギターのイントロで始まった「Wide Open Space」では思いっきり歌わせてもらった。でも思いの外、客の反応は薄い。多くの人がなにか遠巻きにライヴを見物に来たような雰囲気さえある。とにかく、ミュージシャン側とオーディエンス側のコミュニケーションが絶対的に少なく、普段生まれる両者のケミカルな相乗反応がまったくない。バンド側にはまったく笑顔も見られず、ほんとに無骨に演奏をこなしている感じですらある。ポールがビールを手にする回数も徐々に増えてゆく。
そしてこの日のライヴでもっとも期待していた「Six」。でもなんかあまりにもなにげに曲がスタートしたので、ちょっと呆気にとられる。注目のチャドのギターは青のテレキャスター。しかしコードの平行移動時に出るちょっとしたノイズがすごく邪険にも聞こえる。そしてソロのところでちょっと間違いそうになる。あきらかにこの曲でのチャドは乗り切れていなかった感じだ。本来この曲こそ、ダブルギターで望むべきではなかったのだろうか。
続く「Taxloss」でライヴの本編は終了。申し訳程度の「Thank you」という言葉を残してステージを降りてゆく。この時点でショーの開始からおよそ50分。み、短い・・・・。
でも4曲のナンバーをアンコールで披露してとりあえずつじつまを合わせる。その最初に来たのが「Legacy」。注目のギターはやはり青のテレキャスター。しかしオリジナルとキーがかなり異なっていて、ちょっと違和感のある演奏。なんかオリジナルで聞かれた奥行きというか、無限に広がるような情景がこのライヴヴァージョンからは見て取れない。そしてまた、こんなに辛辣になってしまう自分がすごく悲しい。
この日もっとも意外な選曲であり、なおかつチャドの短いリフが気持ちいい「Everyone Must Win」。うん、隠れた名曲だ。そしてチャドのギターリフといえば絶対にはずせないのが「Take It Easy Chicken」。はじめてライヴでこの曲のイントロを聞いたときには鳥肌が立ったものであった。まあこの日の鳥肌は半立ち状態であったけれども、それでも良かった。でもポールのボーカルのテンションは決して高いとは言えず、そしていつもの破錠した動きやアクションもなし。やはりギターアンプの前に居座ったままである。
最後の最後はやはり初期の「Drastic Sturgeon」。やはり以外とも思える選曲である。でも全体的には、思った以上にデビューアルバム(とその周辺)と、セカンドアルバム「Six」の曲群との違和感が小さい。というか、違和感なく楽しめるような曲ばかりがセカンドからピックアップされているような気がした。
その「Six」での方向性とは裏腹に、やはりファースト発表後のライヴでも見られた、ラウドなロックンロールバンドとしての側面ばかりが目に付いた今日のライヴだったように思う。それはそれでよし!、と納得したいところでもあり、決して間違っているとは言えないのだけれども、あのテンションの低さはいかがしたものだろうか。そして客側としても「話題になってるから」といった動機付けでチケットを取ったりしていなかっただろうか。
ポールが「Thank you」と言ったのは、結局たったの4回。それ以外のコミュニケーションは一切なし。でもその「Thank you」を何回言っても言い足りないほどのライヴが翌日披露されようとは、この時まったく予想だにしていなかった・・・・・。
- Negative
- Being A Girl
- Mansun's Only Love Song
- Stripper Vicar
- Shotgun
- Wide Open Space
- She Makes My Nose Bleed
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- Six
- Taxloss
- Legacy
- Everyone Must Win
- Take It Easy, Chicken
- Drastic Sturgeon
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Send comments to: Katsuhiro Ishizaki Last updated: 9/ 21/ 98
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