■ 日本武道館 - 2/18/98
with You Am I
アメリカで観れなかった怨念と、本当に日本に来るのだろうかという懸念とが交錯するこのオアシス日本公演。ダフ屋もチケットを持っておらず、徹底的に買いに入るほどの大盛況でむかえた武道館公演の初日。国際電話という超裏わざで取った初日と2日目のチケットだが、こともあろうか私は、地下鉄の九段下の駅で2日目のチケットを定価で譲ってしまった。この日の一本に入魂したかったことと、本当に観たい人に観て欲しいという思いがあったからだ。仮に定価以上で売れたとしても、ダフ屋なんかの金もうけに荷担はしたくないもんね。でも本当に嬉しそうにチケットを受け取ってくれたあの2人組の顔をみたら、自分の選択が間違っていなかったことを確信する。
さて、開演約10分前に会場入りしてまず気がついたことは、ドラムセットが2つあるということであった。Oasisがツインドラムになったという話しは聞いていないから、それはつまり前座があるということだ。そのOasisのオープニングアクトという大役を任されたのはオーストラリア出身のYou Am I。一時も早くOasisを観たいというオーディエンスの中で、まずまずの健闘ぶりを発揮。ベーシストの持っていたバイオリンベースが彼らの音楽的影響をそこはかとなく感じさせるが、ピート・タウンゼントばりに腕をぐるぐる回してカッティングするボーカル兼ギタリストも活きがいい。世界的ブレイクを果たす日もそう遠くはないかもしれない。
20分間のセットチェンジというアナウンスがあり、George Harrison やSex Pistolsなどいかにもな音楽が流れる中でOasisの登場を待つ。しかしその予告よりも数分早く場内暗転。Thin Lizzyの「Boys Are Back In Town」が流れ始める。ところどころスクラッチしてあってそのたびに大歓声が上がる。その歓声がもっとも大きくなった時、Oasisのメンバーがステージの袖から現れた。サポートのキーボーディストによる「Be Here Now」のイントロが、高らかに、本当に高らかに、憎らしいぐらい高らかに、武道館に響き渡り始める。黒のコートを羽織ったボーカルのLiam Gallagherがマイクの方に向かって行きタンブリンを鳴らし、長いツアーでさらにドスの効いた声を絞りあげる。ギターのNoel Gallagherはお馴染みのEphiphoneのギターを腰のあたりでがっしりと抱えて、Liamのボーカルに負けないリフを積み重ねる。ギターのBonehead、ベースのGigzy、ドラムのWhityもその2人のカリスマと並んできちんとボトムを支える。ひたすらカッティングにいそしむBoneheadは、ハゲだがTシャツはちょっと可愛いい。
2度と来ないかもしれないこの瞬間をきっちりまぶたに焼き付けようとしているのか、客の盛り上がりは思ったほどでもない。しかし2曲目の「Stand By Me」になると、少しつぶれがかったLiamのボーカルと共に大合唱。早々とコートを脱ぎ捨て、マイクを放り出し、タンブリンをステージでバウンドさせ、そのタンブリンを自分で拾いに行くLiamを、ステージ前に陣取った無数のカメラマン達が追いかける。
本当にその歌詞が胸の奥に響く「Supersonic」、そして本当にその歌詞に意味のない「Roll With It」。「これはYou Am Iに捧げる」とステージ脇を見ながらNoelが言うと、すかさず「You and I?」とボケるLiam。そして「D'You Know What I Mean?」に突入。ステージ脇ではYou Am Iのボーカルが一人踊り狂っているのが見える。ちなみにこの曲、イントロを聞いた時はてっきり「Wonderwall」だと思ってしまった私だが、なにせコード進行がまったく同じなのだから仕方がない。しかしちょっと拍子抜けしてしまったのは最初だけで、曲の後半に向けてどんどんグルーヴが高まってくるところはさすがである。
その横揺れグルーヴを受け継ぐようにブルージーなNoelのイントロから「Cigarettes & Alcohol」へ。「まるでT-Rexじゃねえか」と言って発売当初は個人的に毛嫌いしていたが、今ではなぜか最も好きな曲の一つになってしまったこのナンバー。ちょっと途中でトチったNoelだが、それが愛敬に思えるほどこの曲の、そしてこの日のNoelは素晴らしかった。このライヴを目撃した誰もがそう思ったに違いない。ギターソロは格段にうまくなっているし、さりげなく入れているオカズもなかなか効果的だ。特に圧巻だったのがNoelのボーカルによるアコースティックコーナー。「Don't Go Away」のイントロはその響きの豊かさとともに彼のアコギの上手さを見せつけてくれたし、情緒たっぷりのボーカルに涙した人も少なくはあるまい。「Help」ももしJohn Lennonが生きていたらこんな風に演っていただろうな、という感じの味わいの深いものだった。
普通のセットに戻っての「Don't Look Back In Anger」「Wonderwall」「Live Forever」ではでかい声で歌いすぎて私はもう酸欠状態。ちょっとふらふらしてきた。意識もうろうの中でLiamが「何か聴きたいのある?」と言うので思わず「Street Fighting Man」と言ってしまった。そんなことを思ったのは客の中でも恐らく3人ぐらいなものであろう。そんなリクエストは当然聞き入れられず、同じManでも「It's Getting Better(Man!!)」の方へ。アルバム「Be Here Now」の中では最も好きな曲だが、ライヴだとサビの部分のギターがいまいちでちょっとがっかり。
曲間が開いて静かになるとすかさずキーボードで遊ぶLiam。Noelがチューニングでもしているのかなかなか曲が始まらない。そしてじらされた挙げ句の「Champagne Supernova」。もうこのままコンサートが終わってしまっても悔いはない!と言えるような素晴らしいドラマティックなこの曲。ステージ後方に無数のライトが点灯され、Noelが甘美なギターフレーズを積み上げていく。もしみんなでライトを照らすことができたらきれいだったろうになあ、なんて思いも頭の中をよぎる。
ニューシングル「All Around the World」でもやるのかなあ、と思っていたらこの曲を最後にひとまずステージを降りてしまったメンバー達。すかさずアンコールを求めるオーディエンスの大歓声が...と思いきやみんな椅子に腰を下ろしてしまう。おいおい、そんなんじゃOasisは出てこないんじゃないかい? と一瞬疑うのもつかの間、じゃれあうようにしてメンバーは再登場。ほんとに最後の最後の曲となってしまった「Acquiesce」で1時間半のギグはフィナーレを迎えた。
音は最高に良かったし、Noelのギターも、Liamの声も本当に良く聞こえた(Boneheadのギターがもう少し聞こえればなあ...)。もう武道館というロケーションで考えられる最高のショーをしてくれたと思っている。でも多分この意見にはみんな同調してくれると思うのだけれど、やっぱり椅子のないフロアーでぎゅうぎゅうになりながらOasisを観たかった。曲間でオーディエンスが妙に静かになってしまうのもステージとの距離だけじゃなくて、客と客の間に距離があったせい、といえないこともあるまい。特に上から観ていると、あの人と人との空間がもったいなくてしょうがないのだ。あとさらに難癖をつければ音量も控えめということや、ニューアルバムからの曲以外は全部シングルになった有名曲ばかりを演奏したもあって、どうも全体的にきっちりしすぎといった印象も否めなかった。ちょっとこれは言い過ぎかもしれないけれど...。
あと言うの止めようかな、とも思ったのだけれどやっぱり言う。アリーナ最前のど真ん中にいた評論家のH.K.、そしてその横にいた連中、きみらFuck Offだ。あんたらのように踊れない歌えない身動きしない人達がLiamの目の前に陣取ることは許されない。椅子席でのコンサートは前にいる人が盛り上らないと、演る方も観る方もしらけてしまうのだ。チケットを取れない人がたくさんいただけにとてもやりきれない気持ちが残ってしまった。
でもとにかく歌った。うる覚えの曲でもむりやり適当に歌った。カラオケが大っ嫌いな私をあんなに歌わせるOasis。終演後、帰る客でごった返す中、黒いバンにのってわざわざ会場を出て行く彼らとともに、あの殊玉の名曲を歌える日が再びやって来るのはいつのことになるのだろう。でも結構またすぐに来てくれそうな気がしているのは私だけだろうか。だって日本でのアルバムの売れ行きを見れば、たったの3日ってのは少なすぎると思わない?
- Set List -
- Be Here Now
- Stand By Me
- Supersonic
- Roll With It
- D'You Know What I Mean?
- Cigarettes & Alcohol
- Don't Go Away
- Help
| - Fade In-Out
- Don't Look Back In Anger
- Wonderwall
- Live Forever
- It's Getting Better (Man!!)
- Champaign Supernova
- Acquiesce
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Send comments to: Katsuhiro Ishizaki Last updated: 2/ 20/ 98
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