■ 渋谷オンエアイースト - 6/9/00 ■ ゼップトーキョー - 6/10/00 ■ 日比谷野外音楽堂 - 6/11/00 (reported by しげやん)
ご多分に漏れず,自分の Phish 初体験はフジ・ロック・フェスティヴァル99だった.思い返せばフジロック3日目.連日のはしゃぎまくりで足腰がヘロヘロとなる中,大した予備知識ないまま Field Of Heaven へ出かけたのだが,まさに heavenly な演奏でニクいオッサン4人組は自分たちの度肝を抜いてしまった.そんな彼らの単独公演だ,行かないとバチがあたる.「チケット3日間も取るなんてアホか?」という自問自答には「いや,全来日公演制覇しないだけ自制心あるよな」とミョーな説得にて自分を正当化し挑んだ次第である. ▼ 6月9日 (@渋谷オンエアイースト) この会場をご存知ない方への解説だが,この会場は渋谷ラブホテル街,円山町のど真ん中にある.どの位ど真ん中かと言うと,ライブのない日にこの会場を一人で歩くのが不可能なエリアで日が暮れてからは淫靡この上ない位だ.界隈を歩くカップルを眺めるだけでホッペがリンゴのように赤くなる. しかし,こんなにスゴい円山町を見たのは初めてだ. チケットを求めて指一本を空にかかげる西洋人圧倒的多数に日本人少数. なのに誰も相手にしてくれなくてヤケ気味にデカい声を張り上げるダフ屋オヤジ達. 見てはいけないものを見てしまったかのように,逃げるように走り去る臨戦態勢のカップル達. そんな街に秩序を与えようと必死に交通整理に励む会場整理員. 指を上げた面々の視線を痛いほどに感じながら会場に入ると...そこにはまた別の世界がある.開演前なのに異様に興奮している面々.ビーチボールや風船が空を舞い異様な煙が立ちこめる.全公演録音可のため設けられた "tapers area".これだけ熱気かつ緊張があるのに観客同士の雰囲気は平穏かつフレンドリーだ.スタンディングのライブで他人の前に入ったりぶつかったりすると大体腹立たしい思いをすることが多いが,この場では一切無縁だ.見ず知らずの人達と何度カンパイを交わすことか.何故なのだろう. いよいよメンバーたちが登場する.一応断っておくが,彼らのルックスは思いっきりダサい.ギターのトレイ (Trey Anastasio) はナブラチロワ似,ドラムのジョン (Jon Fishman) はスネたジャック・ニコルソンのような顔をしながら怪しいムームーを羽織っている.ベースのマイク (Mike Gordon) はマッチ棒のように動かないし,キーボードのペイジ (Page McConnell) は Tom Petty & the Heartbreakers のやはりキーボード担当ベンモントに頭のハゲの具合までソックリだ.彼らのライブの唯一の欠点かもしれない. しかし. 一音の重みからして圧倒的だ. そして,その都度観客が応える. どんなに長い演奏であってもその緊張感は途絶えることがない. でもすごくリラックスしていて堅苦しい雰囲気は微塵もない. 彼らにセットリストは存在しない.存在するのはその場に応じた選曲と即興演奏のみだ.それに併せてライティングも目まぐるしく変わる.同じステージは二度とない.これに従い,会場の皆が一同にトランス状態に入っていく.その一体感といったら,経験した者しか分からないだろう.このような同じ気持ち良さを共有する者の間では,誰もケツの穴の小さいことを言わない.先ほどの謎が自ずと解ける. トレイとマイクはトランポリンに乗って戯れたり,歌詞を日本語にしてコーラス&振付け大会をしたりと見せ場も多い.特に日本語コーラスではトレイが大爆笑してしまい,観客がその辺をフォローする.メンバー達も楽しんでるよなー.最後はアカペラでキッチリとしめ,会場を出たのは午後11時.電車がヤバい. 公演毎に内容が変わる Phish のライブ.今日はまだまだ始まりなのだ. ▼ 6月10日 (@ZEPP TOKYO) この日は開演時間(午後6時)の10分前に会場到着.すぐにsold out となったものの当日券も出ていたようで,昨日の異様なまでに緊迫した雰囲気はない.どことなくダラダラとリラックスした感じを受ける. この日は1曲目からいきなり20分間.スゴい.その後もややユルいジャムが延々と続く.自分は昨日のハシャギ過ぎゆえなのか疲労感激しく,まったりした選曲も相まって前半は大人しく後ろから眺めていたのでちょうど良い具合だ. トレイのギター音はクリーンなものからディストーションがかったものまで,とにかく表情豊かだ.長いジャムにおいては音をひたすらサステインさせたり,何とも言えないレロレロツルツルッとした早弾きプレイを織り交ぜ,どことなくフランク・ザッパを彷彿させる.ペイジはディナーショーのようなムーディーな雰囲気で前に出てきて歌う.マイクはカントリーっぽい曲調で活き活きとリードヴォーカルをとる.ジョンは相も変わらずミョーな衣装を着て,グルーヴたっぷりのドラムとはあまりにもミスマッチだ. 休憩時間をはさんで後半は体力も復活し最前ブロックへと移動.やたらとアメリカ人が多く,トランス状態も相まって自分が一体全体どこで何をしてるか,見失ってしまうような異次元空間だ. 長めのジャムでダンスし続け,しこたま飲んだビールも手伝いヘロヘロになったアンコールにはトドメを刺す必殺技が用意されている.ミラーボール.あーイジワルー. この人達の網羅する音楽ジャンル,ただただスゴい.ロックンロールやカントリーはお手のものだが,さらにはブルーズ,ラテン,サンバ,ジャズ,何でもありの方向性.それがコロコロと万華鏡の如く変化する.でも,それを全てまとめて "Phish" としか形容しえないだけのオリジナリティ.そういえば,昨日と同じ曲,一曲もなかったような気がする. 明日は晴れるといいな. ▼ 6月11日 (@日比谷野外音楽堂) どうしてこの世界には理論や定理では説明しえないことが起きるのだろう.サンタナではないが "supernatural(超自然的)" だ.ポリスではないが "synchronicity(偶然に見えるが実は必然的な一致性)" だ. 野外コンサートながらこの日は前日から雨.オープニングアクトの Big Frog は見逃してしまい,会場に入ったのは丁度セットチェンジの合間.残念ながら雨は続き,フジロック99に備えて買った1000円のレインコートが堂々とデビューを果たす. いよいよメンバーが出てくると異様なまでの大歓声. そして,雨が上がる. どうしてだ? メンバー達の表情は明らかに変貌を来しており,中でもトレイ!普段はやる気あるのかないのか良く分からん表情をしているが,この日は(まあ若干ではあるが)違う.そんな彼らの気合ゆえか,この日のセットリストはアップテンポでノリ易いものが中心だ.当然ながら前2日とかぶる曲は殆どない.すでに2日間踊りまくっているにもかかわらず,この日もひたすらトリップする. この日の席は前2日とは違い指定席,しかも5列目だ.でも,座席は単なる荷物置き場と化している.皆,通路の踊りたいところで踊っている.ボーっと突っ立って見ている人がいる.ギタープレイのチェックをしながらセットリストをメモっている人がいる.お酒を見ず知らずの隣人に回している.仲間同士で独自の踊りを創る人達もいる.おっと,目の前のアメリカ人がいきなりズボンを脱ぎ始める.下着の色はグレイ.銘柄は「Victoria's Secrets」.関係ないか. 音の七変化は前2日にも増してとにかくスゴい.トレイは気合を入れてチョーキングしまくり,ビブラートが魂を直撃する.小刻みに足を震わせてワウペダルを踏みながら歌うトレイには愛しさすら感じられる.リズムの2人はただただウネる.ペイジはピアノを叩き,やたらと観客側をウォッチングしてアーティスト−観客間の相互作用を期待する.そんな彼らに対して,観客は皆各自のペースで楽しみながらも五感を研ぎ澄まし逐一反応する.そして,その反応は表現しがたいくらいの歓声として響くのだ.畏しすぎる. 休憩時間の間,自分の同伴者は「すごい,コクがあるのにキレがある」としきりに繰り返す.どっかのビールのキャッチコピーみたいだが,なかなか上手い表現だ.もしかしてビールを飲み過ぎなのかもしれない. そして,第2部も行くよ来るよ.第1部以上の演奏のテンションが繰り広げられ,Phish 初心者の自分がかろうじて知っている "Free" は異様なまでに美しい.長いジャムがあるが入魂の具合は前日とは全く異質のもので,ふと観客席を見渡すと誰もが至福の表情を浮かべている.そういう光景を見る自分は涙が出そうになる. そんな彼らが演奏を終わり,やたらとニコニコしながらステージを後にする. アンコールで出てくる彼らに奇跡としか言えない出来事が起きる. アンコール曲 "Character Zero" . 虹が出る. しかもサビが「Rainbow〜」と繰り返される. 涙があふれる.そして止まらない. 奇跡の一曲が終わり彼らはステージから去る.マイクやアンプが片付けられ,どう見てもライヴ終了以外にありえないのだが,誰もそれを信じられずアンコールを求めたり呆然と立ち尽くす.再びメンバー達が出てくる奇跡を信じて... やっぱ全公演制覇するべきだったかな. | Back | Home |
・・・併せてsuzukiくんのフィッシュ@野音レポも読んでみてください。 next report: Beck (5/29/99)
Last updated: 6/ 18/ 00 |