Smashing Pumpkins スマパンと私

パシフィコ横浜 - 6/20/00


自分は現在、プリンターの開発・評価・支援に関わっているのだが、その前は同じ会社の別部門であるPCスクールの運営・指導に携わっていた。携わっていた、とは言っても小さい会社なのでスタッフも少なく、現在もたまにスクールに顔を出してヘルプ要員として手助けすることもある。

しかし最近、2人しかいないスタッフの1人が、ある日忽然として姿を消してしまい、結果として退社することになってしまったのだ。そうなると当然のことながらその仕事の流れを知るものは自分を置いて他にはいないので、プリンターの仕事をフル稼働しつつ、スクールの仕事もフル稼働するというなかなかヘヴィな状態に陥っていたのが最近までの自分だった。

が、臨時のバイトを雇い、どうにかこの急場を凌げそうな雰囲気になってきていた。だから、スマパン日本公演の初日、自分は有給を取ってのんびりライヴに臨むつもりでいた・・・・・・・のだが今日。というか昨日。偶然にも、というか悲劇的にも、臨時のバイトの子が腹痛と歯痛を同時におこし、なおかつ最後の砦のスタッフが熱を出しぶっ倒れるという、突如として事態は最悪の方向に展開。「ああん??? 出られるの俺しかいねえじゃん。」・・・・電話越しの「おまえしかいねえんだよ〜〜」との珍しく慌てた社長の声に沈黙すること数秒。ボーナスの倍増を約束し・・・・・たはずもなく、文句のひとつも言わずに仕方なく無言の服従。熱を出したスタッフからの電話で「明日、○○さんのレッスンが入っているんだよ。」との言葉でどうにかちょっとはやる気を出す。(○○さんとは、まるでモデルみたいなとんでもなく綺麗な女性。21歳。この日は昼間のプライベートレッスンをご予約。) スクールは21時までの営業なので、普通に働けばライヴには行けない。

・・・が、当然のことながら仕事よりもスマパンのほうが大事。

ライヴ前夜となる昨晩、プリンターの仕事を終え、そこから1時間以上の道のりを経てスクールに到着。時間は夜の10時を回っている。そして翌日のスケジュール表と生徒さんのデータベースとを睨めっこしながら、片っ端から電話をし始めた。

「あのーーー、夜分遅く申し訳ございませんが、えーー、インストラクタの△△が突然体調を崩しまして、明日の7時からのレッスンをキャンセルということでお願いしたいんですが・・・・」

ということで夜のレッスン予約者すべてに電話を入れ、すべて授業をキャンセルさせるという荒業に出た。もちろん誰への相談も、誰の許可もなく、である。そんなこと話したら、「え、なんで? おまえ教えられるじゃん。」ってなるのがオチだから。・・・・ううむ、これってかなりすばらしいアイデア。そして我ながら強引。ほんとだけどかなりうそつき。

そして夜の11時を回った頃、6時以降のレッスンの完全キャンセルに成功。やったね。

それでも今日は、朝から、Excel入門(=データの効率的な入力方法、オートフィル、セルの結合、等)、Windows98初級後半(ファイルとフォルダの階層構造、エクスプローラの使い方、ワードパッドへの画像の貼り付け、等)、パソコンの基礎前半(CPU、ディスプレイ解像度、OSとアプリケーションソフト、等)の連続6時間のしゃべくりまくりセミナーという荒行に耐えねばならなかったが、それでもどうにか○○さんの素敵な笑顔にも支えられ、無事に17時にはすべての授業を終えた。Wordで作った「今日は都合により18時で終了です。またのご来校をお待ちしております。」という張り紙をもちろん社長には無許可で表に貼る。・・・・がそんな無許可だなんだってこたあ俺は知ったこっちゃねえや。

スーツから普段着へ着替え、電車に飛び乗り、パシフィコ横浜に着いたのはその1時間後のこと。よってこんな状態のライヴだからして、楽しまなきゃあただのバカの大嘘つきである。よりによって前から6列目の席だし。

そしてそのパシフィコの、ふかふか広々シートに座る間もなく、ジミー・チェンバレンの豪快で繊細なドラミングにもんどり打って飛び上がってしまった。今日のライヴの評価が●というのは、今ツアーの残りの日程にさらなる期待を乗せた上でのものなのだが、殊にジミーのドラムに関しては文句なく★。ジョンスペのラッセルのドラムもすごかったが、やっぱジミーのドラムもものすごい。どんなにスローな曲であろうとも、誰も知らない曲であろうとも、この人のドラムがビートを刻むだけで強烈なダンスグルーヴを産み出す。「グルーヴ」なんて言葉は世に氾濫しすぎて、どれがグルーヴでどれがそうでないかさっぱり分からない状態だけども、ジミーのドラムには間違いなくそれがある。要塞みたいなフロアタムに囲まれ、彼の姿さえもはっきり見えないが、太い腕っ節で叩くスネアを聴いているうちに、「スマパンのジミー・チェンバレンに影響を受けてドラムを始めました。」ってことにしてドラムの練習を始めたらちょっとかっこいいかな? とも思った。

ギターのジェームズ・イハも、新加入のメリッサも、ともに赤い装いで、中央の黒いフリフリ衣装のビリー・コーガンとはっきりとした対比を成している。でも、プレイ、歌、発言、共に目立っているのはやっぱりビリー・コーガンで、「日本語が下手で申し訳ない」「この男のことはどんな言葉で表現できるでしょう?」との紹介の後「Blew Away」を歌ったイハは終始、地味めなイハだったし、メリッサはメリッサで、コートニーなんか問題にならないぐらいのチチを揺らしながら、ベースを立てて立てて立てるのだけれども、それは結局ビリーのキャラをさらに立てることに他ならない。フロアに向けて花を投げていたが、ぶっとい茎の花が思いっきりすごいスピードで我が方へと飛んできて、席の上にあった自分のバッグを直撃。一瞬「これをもらっても、俺はどうやって管理すりゃいいんだ?」ってなことが頭をよぎり、結局一瞬遅れて他の人にその花を捕られてしまう。いや、でも、別に悔しくもなんともないんだけど。

で、ビリー・タイガーマスク・コーガン。歌っている最中にピックを後ろ手に回して、そのピックを空中に放り投げて再びキャッチするという業に挑戦したがうまくいかず、歌いながら苦笑い。ビデオクリップで見せていた変な踊りも無理なくステージ上で再現。左右のフロアだけでなく、奥の2階席の客までも煽るおまけ付き。最後の方にはスマパンの公式サイト、http://www.smashingpumpkins.com/用にということで、「嬉しそうな顔をしてくれよー。そうすりゃみんなが楽しんでいるように見えるからさ。」と言った後、会場内をビデオ撮影。

いや、でもそういうことは結構どうでもよいのだ。そんなことよりもむしろ自分が気になったことのひとつに、ビリーがしきりに「This is the fifth tour of Japan.(これが5回目の日本ツアーなんだよ。)」と言っていたことがある。しかし当然のことながら、みんなの頭の中には「5回目の日本ツアー」ではなく「最後の日本ツアー」ということが大きくある。 いや、もちろんバンド側にもその「最後の日本ツアー」ということは頭にあるはずなのだが、それにも関わらず、あえて「5回目の日本ツアー」と言うビリーの心境を察してみる。いや、確かにフロアをしんみりとさせないための彼なりの工夫なのかもしれないし、「最後のツアー」ということを彼自身忘れようと、そして我々にも忘れさせようとさせているのかもしれない。でもどうして「5回目のツアー」と何度も言わなければならないのか? 自分にはその深い気持ちが理解できそうで理解できなかった。(書いてみたが、全然つじつまが合わなくてやめた。)

そしてこれまた話は重なるが、珍しくバンドのメンバー紹介をしていたことにちょっとした引っ掛かかりを覚えた。間もなく解散するバンドが今更ながらにメンバー紹介を行う、その裏に隠されたビリーの心境とは? これまた理解できそうで理解できなかった。(書いてみたが、全然つじつまが合わなくてやめた。)

自ら、「我々は2000年で終了します。」という突然の張り紙を残して部屋を去っていくスマッシング・パンプキンズ。 しかし「終了しますんで」という電話はビリー・コーガンの口から直接には聞かれず、そしてそんな前フリの欠片も見せず、突然の張り紙を目の前にして相変わらず立ち竦む、というか逆に踊るしかなかった自分。しつこいまでのシャウトと、気を殺ぐかのように振りまかれる笑顔とに一喜一憂することなくビリーの顔色を窺ってみたが、解散直前の憂いもやる気のなさも何もかも覆い尽くすほど圧倒的なジミー・チェンバレンのドラミングが、すべての憂鬱光線をステージ上で打ち砕いているように感じた。そしてそれはビリーの憂鬱をも覆い隠していた。メランコリーな悲しみを敢えて忘れさせてくれるような刹那的な響きを持っていたジミーの、バンドへのカムバックの本当の狙いがここでちょっとだけ分かったような気がした。

10日後の武道館公演の時は、会社の金で飲める呑み会をぶっ飛ばして行くぜスマッシング・パンプキンズ。この数日の間に日本を巡り、彼らはどう変化してどう変わらないのか。今から楽しみである。



- 覚えている演奏曲(順不同)-


    Age of Innocence 
    (ビリーはさっそくステージを右・左へと移動。)

    Rock On
    (ジミーのドラムがすごい!)

    The Everlasting Gaze 
    (最初の沸点はここに。赤いスポット
    が途中のブレイクで光りつづける)

    Blue Skies Bring Tears 

    Blew Away (vo. James) 
    (イハのヘタウマボーカルが聴ける。
    しかしビリーのギタープレイの方が目立った気も)

    Standing Inside Your Love 

    I Of The Morning

    To Sheila 
    (オリジナルとは全く異なるアコースティックアレンジ。
    イハはスライドギターを弾く)

    Muzzle 
    (ビリーによる弾き語り。
    でもバンドでやってほしかった気も。)

    Try, Try, Try 
    (バンドメンバーと横並びでドラムを叩くジミー。
    ビリーとバカな話ばっかりしていた。)

    Zero
    (イントロではこれだと気が付かなかった人が多かった。
    わざとメロディーを崩して歌うビリー。)

    Heavy Metal Machine 
    (本日のライヴのハイライト。この曲の
    素晴らしさを再認識。壮大なヘビメタ機械)

    Cherub Rock 
    (待ってましたこの曲を。イントロ前の
    ジミーのフィルインですべてが明らかに。)

    Blank Page 
    (テープと思われる伴奏に合わせて
    ビリーが1人でマイクを持って歌う。 でも前の客と
    握手してまわる様はまるでエルヴィス・オン・ステージ)

    Bullet With Butterfly Wings 
    (アドアツアーの時のドンドコ太鼓アレンジと、
    オリジナルアレンジとの中間を行くような感じ。)

    Once In A Lifetime 
    (BWBWから途切れることなくこの曲へ。メリッサが超真剣。)

    Drown 
    (「1992年を覚えているかい?」という言葉で
    始まったこの曲はみんなを驚かせた。)




| Back | Home |



next report: Phish (6/9-11/00)



Send comments to: Katsuhiro Ishizaki

Last updated: 6/ 21/ 00