Rage Against The Machine うそだろおい・・・

Blockbuster-Sony Entertainment Theatre, Camden, NJ - 8/16/97

with Wu-Tang Clan + Atari Teenage Riot


期待が過剰すぎたのだろうか。それともロックにそんなに期待してはいけないのだろうか。今地球上で恐らく私一人であろう、こんな事を言うのは。「レイジのコンサートはまったくつまらなかった。」


話を会場入りのところから始めよう。何せ入場の際のボディチェックが厳しかった。バッグを持っている人は、異彩構わず中身を空けさせられ、小物に至るまで厳しくそれがなんであるか質問される。その上金属探知器を使ったボディチェックが2回。ポケットの中身はすべて出すように言われる。何も危険なものは持っていないのになぜか緊張してしまった。

会場は椅子席と芝生席がある、これまで何度かみてきたタイプと同じ。1万5千人は入りそうである。今回のレイジは、Atari Teenage Riot、そしてWu-Tang Clanとのジョイントツアーで話題を呼んでいる。それを反映してか、かなりの黒人オーディエンスの数もみえた。

まず先陣を切ってAtari Teenage Riotが開演時間よりも数分早く登場。アメリカでの知名度はゼロに等しい彼ら、やっぱり客の受けはよくない。そのうえ音が異常に悪い。悪いためになおさら音量を下げているような感じで、まったく音圧が感じられない。最初は拍手をしていた客も、あまりに単調にみえるのノイジーなステージングにやがてブーイングまでおこるようになる。ヴォーカルの一人がペットボトルで水をぶちまけ、空になったペットボトルを投げるが、客の誰も拾おうとせずモッシュピットの中に転がっただけ。そして曲が終わるたびに客席から起こるWu-Tangコール。かなり無残な形でAtari Teenage Riotの約30分のステージは終わった。

そしてWu-Tang Clan。申し訳ないが彼らのことは何も知らない。ただ言えることはやっぱり会場の音響設備のせいか、音が良くない。そしてステージングもあまり印象的ではなかった。半月程前にLollapaloozaでSnoopy Doggy Doggの洗練されたステージを経験していたせいか、Wu-Tangのそれが非常に弛緩したもののように感じられてならなかった。ステージにはかなり数のメンバーが上がっているが、一体彼らの役割は何だったのか。MCでは各人がそれぞれ別々のことを同時に言ったりするため、何を言わんとしているのかさっぱり分からないこともしばしば。リズムの単調さはラップだから当然仕方のないこととしても、その音の悪さゆえ曲の区別がつかない。これは必ずしも彼らのせいではないが、あまり楽しめなかったのは事実だ。もちろん私自身の予習不足も否めない。

さてレイジである。例の彼らのセカンドアルバムの出来は素晴らしすぎた。何せ今のアメリカのバンドの中では、頭完全に一つ、いや五つぐらい抜けているグループである。今世界最高のバンドは、と聞かれれば、「Rage Against The Machine」と答えてもなんら異論はあるまい。その油の最高に乗り切った現在の彼らのライヴが目の前に迫っている。各方面で絶賛されているのも何度となく耳にしてきたこともあって、期待しない方が無理というものであった。

しかしその期待はやはりまずそのひどい音響設備によって裏切られてしまった。一曲目の「People Of The Sun」が始まるも、何か開演前に会場に流れる音楽のように、まったく音に迫力がない。ギターも良く聞こえないし、会場全体を包み込むような、あのライヴ独特の空気が微塵も感じられないのだ。ノイズバリバリでもいいからもっと迫力のある音を聴きたかった。

そして、このスカスカの客席は何なのだ。入場前に聞いたソールドアウトの話とはだいぶ違うぞ。私の席はステージ向かって隅の方だったとはいえ、横20席ぐらいが空席。前後も似たような状態である。とても皆が皆、本当は前の席の人以外入ってはいけないモッシュピットになだれ込んだとは思えない。何せこの日の警備は厳しくて、そんな前も後ろも入り乱れたような様子は見られなかったからだ。自分の不満を他人のせいにはできないけれども、やはりガラガラな場所でボーっと立ち尽くす客を目にしながら自分だけ興奮せよ、というのはなかなか無理な話である。

そして細かい所では、曲間がやたら長く感じられたこと。一曲終わって大歓声が上がるも、その興奮が冷め、シーンと鎮まりかえっても曲が始まらないなんてことも少なくなかった。ノリが寸断されるようで、あまり気分のいいものではない。ストーンズなら許されるこういった弛緩した場面も、緊張感を生み出す洗練されたステージングを見せるレイジにははっきり言ってそぐわないように思う。

そのレイジ、一曲一曲の完成度はやはり本物で、特にTomはバカテクでありながら、それでいてあのシャープな動きは何なのだ。どうやったらこんなフレーズ考え付くんだ、という人間業を超えたプレイの連続で、私はもうほとんど彼のギターにしか目が行ってなかった。ダブルネックのギタープレイも、その手のギタリストに在りがちなある種のいやらしさなどは微塵も見せずに、「繊細なパワー」で押し切ってしまう。この人やっぱ天才である。天才ということを感じさせないからやっぱ本当の天才だ。

この日のセットリストは正直良く覚えていないのだけれど、「People Of The Sun」「Know Your Enemy」「Vietnow」「Fistful Of Steel」「Tire Me」「Down Rodeo」「Without A Face」「Bulls On Parade」「Bullet In The Head」「Bombtrack」「Killing In The Name」「Freedom」プラス、3曲ぐらい演ったと記憶している。自分が冷めていたせいか、思ったほど観客も盛り上がっていた様子はなく、シングル曲を覗いては席に座ってしまう人達も目に付いた。 モッシュは前方でも芝生席でも起こっていたが、今時のロックコンサートでこれを見ないことはないから、これが良いコンサートだったかどうかの指針にはならない。とにかく、帰りの駐車場の混雑を予想していたこともあって、アンコールのときは正直早く終わって欲しいとも思っていた。こんなこと考えるなんて2時間前の自分からは想像もつかなかったことだけれども。

Zackも爆発的にはじけていたし、バンドの演奏も良く見えた。絶対俺の好きなタイプの曲を擁したダイナミズムのあるステージングには違いないのである。でも全然満足いかなかった。だから今回の不満はやはりあの醜悪な音響設備のせいにしたい。そうしないと期待があまりにも大きかったせいで、心の整理がつかないからだ。彼らが世界一かどうかの判断は、次に彼らに会う時まで持ち越しにしよう。その時が来るまで私に出来ることは、これまでのように毎日彼らのアルバムを聴き狂い、彼らのメッセージに耳を傾けることだけである。


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Last updated: 8/ 25/ 97