The Smashing Pumpkins タダの須磨パンは美味しい

日本工学院八王子専門学校駐車場 - 6/24/98


うちのホームページでもリンクを張らせていただいているSmashing Pumpkins JPFの掲示板で知ったスマッシング・パンプキンズによるこの日のシークレット・ギグ。当初「なんで東京でばっかりやるのだ! 無料なんて論外だ!!」と憤慨していたものの、いざそのシークレット・ギグへの招待状が舞い込むとまったくもってそんな怒りはどこへやら。とにかくその招待状を融通してくださったくりさん、そしてゆかこさんらには、もう筆舌に尽くしがたいほどの感謝の念で一杯である。ほんとにほんとにありがとう!!! Invitation

まあ、前代未聞のゲリラ・ライヴということで、ショーそのもの以外の部分にもスポットを当てているため、かなり長いレポートになってしまっている。その辺は読まれる際に多少ご容赦いただきたい。

さて、そんなわけで前日のパンプキンズ公演の余韻すら冷めぬままそのシークレットギグへの会場へ向かうことになった。いつものように人でごった返す新宿駅では、その招待状を取り出し眺めているだけで、いともスマパンファンに声をかけられてしまうといった有様。なにせ武道館公演当夜にも無料の招待状が配られていたそうである。「ひょっとして近くの駅から人で溢れかえってるんちゃう?」。そんな思いも巡らしてしまうほど、このシークレットギグの存在を知り、なおかつ会場に集まる人間はどれほどの規模になるのか、全く持って予想する事すらできなかった。

さてその招待状に記載されていた会場からもっとも近いと思われた八王子のJR片倉駅というところにたどり着く。生粋の田舎ものの私が言うのもなんだが、見たことも聞いたこともない片倉っていう町はとんでもない田舎だ。なにせ当日の会場に行くには登りの道をひたすら30分、40分、もしくは50分も歩かなければならないとまで言われてしまい愕然とする我々一行。しかしチケットはタダだ。よってタクシー代ぐらいはいいだろうという結論に落ち着く。運賃は初乗り料金660円でオッケー。あっけないほど簡単にたどり着く。

その会場の入り口にたどり着いて、やや愕然とする。ゲリラ・ライヴという名にそぐわないかん高い場内整理のアナウンスが絶え間なく聞こえてくる。なおかつ入場を今か遅しと待つファンが、すでに長〜い列を作っているではないか。なんかあまりにも理路整然としたやり方にやりきれない気持ちを残す。

しかしそんな煮え切らない心の葛藤をいやす出来事が3時すぎの入場の際にやってきた。あはは!!なんと笑える会場なのだ!! そこに通う学生の皆様には誠に申し訳ないが、日本工学院八王子専門学校という学舎があれほどファンキーで笑いの要素を兼ね備えているところだとは想像だにしなかった。まず東京とはとても思えない緑と山に囲まれた環境。抱腹絶倒のキャンパスの作り。思わずだれかが「線対称!」と叫んでしまったほどの芸術的、かつおおげさな中庭の作り。校舎からUFOが出てきやしないかとはらはらどきどきさせられてしまった。

その中庭と校舎をバックにした会場となる駐車場。ここは一般にイメージする黒いアスファルトの駐車場とは異なり、ややもすれば高級なトイレのようなそんな奥ゆかしさへも感じさせるなかなか配慮の行き届いた駐車場である。ここの生徒さんはいかほどの学費を払っているのか、興味は尽きない。

しかしその駐車場も乗用車が何台か駐まれば一杯になってしまうであろうほどの小さいものであった。招待客も次から次へと来るのかと思いきや、その駐車場が約半分ぐらい一杯になったところで入場の足は急速に鈍った。客数はおよそ1,000、多く見積もっても1,500といった感じだ。ここはリキッドルームか、それともクアトロ?と勘違いしてしまうほどである。行こうと思えば最前にもすぐ届きそうな、そんな状態でみんな開演を待つ。

あいにくの曇りの天気であったが、しかしなにせ4時開演予定ということで辺りはとてつもなく明るい。そして開演前に流れるSEもなし。おまけに見渡す限りの山に囲まれているため、ライヴ空間とはとても呼びにくいとてつもない違和感が我々を襲ってくる。笑える校舎の作りも相まって、俺達騙されてるんじゃないか?という気にもならないではなかった。なにせ前方にはステージすら組まれていないのだから。

その答えは右前方を見ることである程度の推測がついた。そこには大きなトレーラーが数台並べられていたのだ。その一台には機材らしきものが積み上げられ、荷台の側面がオープンになっている。はは〜ん、このトレーラー上でプレーするのかな、と誰でもつきそうな予測を立てながらさらに開演を待つ。

開演予定時間の4時を30分ほど回った頃、このギグのスポンサーだかなんだか分からないが、ちょっと関係しているというニッポン放送のラジオDJ2人が、前方左手でマイクを握る。「インタビューではコーガンさんはとても気さくな方でしたが、今はちょっと険しい顔をしてましたね〜。今日のライヴは予定では20分とのことでしたが、最低1時間はやってくれるそうですよ〜!!」ってあんたナメとんの? とりあえず拍手と歓声でお返ししてあげる。ここで険悪な雰囲気になっても仕方があるまい。なにせタダなのだ。

「今日のスマパンは演奏しながら登場してくれるとのことですが・・・・・」とその中の1人が言ったとき、皆の視線はステージ右方向からゆっくりと近づいてくる一台のトレーラーの方に向けられた。あ、ダーシーだ!! お、ジェームス!! ビリーものってる!! などとそう感じたときは時すでに遅し。もうフロアー(?)は人でぐちゃぐちゃになっていた。簡単なジャムをする彼らを乗せたトラックは、時間をかけて我々の正面の位置にまでやってきた。そしてちょうどその時、空から雨が降ってきたのだった。

曲はいつもと同じ、「To Sheila」。しかしあのスマパンが目の前にいる!! それもこんなへんぴなところに!! なんかお人形さんみたいだ!! 前日、というかほんの数時間前まで、あの武道館できらびやかにショーを繰り広げていた方達である。まるで学祭のサークルバンドみたいなステージのようで、笑っていいんだか、泣いたほうがいいんだか、判断に一瞬苦しむ。

その中でもまず目を引いたのがダーシー(B)。猫の耳のようなかわいいアクセントを頭に付けて、結構きつめのメイクを顔面に施した彼女。着衣は黒のノースリーブのシースルー!! もちろん下着はなし!! 中身の放漫さに一瞬目が点になる(どうやら下着らしいが・・・)。そして誰もが気になるよしのぶ君ことジェームス・イハ(G)。服は黒でシンプルにまとめられ、ついでにギターも前日同様黒のテレキャスターで、時折白のピックガードのついたテレキャスを弾くこともあった。トリはでかハゲ男、ビリー・コーガン(Vo, G)。ジェームス同様、黒で決め、かつ黒のカウボーイハットをかぶっている。そのハットの位置をこまめに移動させるなど、またしてもお茶目なところを見せつけたりもした。ギターはフェンダーのジャガーのようなサンバーストのギターで終始一貫。アンプ類は、このクラスのミュージシャンが使うとはとうてい思えないほどの小型のものであった。

そうは言っても当たり前のことだが音はとてつもなくいい。なおかつバックメンバーが前日の4人から、キーボードとドラムの2人にシェイプアップされ、よりそれぞれの音の分離がはっきりと聞き取れる感じである。ビリーの声はマイクなしでも聞こえてきそうな、そんな勢いですらある。

2曲目は「Ava Adore」。ギターのカッティングがとてもシャープだ。例のごとく盛り上がる。この堅いコンクリの上でもダイブせんとする勇気ある若者には素直に拍手を送りたい。この盛り上がりに口の堅いイハも口を開く。「ドモアリガト」。ダーシーも負けじと「ドモアリガト」攻勢をかける。そこに「オハヨゴザイマス」で横やりを入れるビリー。「みんなに一つ言っておきたい言葉があるんだ.......。い・は・!」。笑いの渦の中で、期せずして「イハコール」が巻き起こる。「昨日こん中で武道館に行った人は?」という質問にはあんまり手が上がらなかったのが残念だったが、ビリー君、及びダーシー君。二人で漫才はやめなさい。ビリー:「ダーシー、きみ昨日ブードカンに行った?」。ダーシー:「ノー・・・ソーリー・・・」。しかしこのダーシーの「ノー」の言い方がいちいちかわいいから困ったものである。さらにダーシーは「もしこのシークレット・ショーのことそこで言ってたら、おめえさん殺してたよ。」などと可愛い顔に似合わない恐ろしい発言も・・・。しかしビリーは臆せず、「俺も。」

新曲として紹介した「Perfect」は前日とは異なりエレクトリックでのハードな演奏だ。しかしそのハードな演奏の裏で、堂々とステージ上にレンズを向けていたカメラ小僧達が相当数御用となったのを多くの人が目撃したに違いない。白昼堂々そういうことをする神経を疑ってしまう。そしてあまりの盛り上がりに業を煮やしたのか、それともはじめから決まっていたのか、曲の途中にも関わらずフロアーを左右に分けるためのロープが張られてしまった。この様子を見たビリーの表情が一瞬ちょっと冷めたように思えたのは私だけだろうか。

「Tear」は前日同様深みのある演奏。ビリーはピックだけでなく、ミネラルウォーター入りのペットボトルもフロアーに投げ入れる。ことあるごとに「今日のギグは、スペシャル・シークレット・ショーだから・・・・」と言うビリー。この中の「シークレット」の部分を特に声を押し殺して発音し、その「秘密」の度合いを言葉で示す。ビリー、あんたいい英会話の先生になれるよ。

またしてもニューアルバムから「Once Upon A Time」と来て、未発表の曲として紹介された「Let Me Give The World To You」。シンプルでなかなか味のある佳曲である。この感じで「Shame」へとなだれ込む。予想はしていたが、このショーはニューアルバムの曲ばかりで構成されていたのだ。

「今日は来てくれてどうもありがとう。これが最後の曲なんだけど・・・」。とうぜんブーイング。そこで何を思ったかビリーはまるで三三七拍子のような手拍子を打ち始めた。これに「よ!!」というかけ声を加えて盛んに答える客。ビリーも調子に乗って笑いながら手拍子し続ける。彼の顔がだんだん赤くなってくる。やめるタイミングを失う。イハもギターで参加する。そして本当に最後の曲となってしまったジョイ・ディヴィジョンのカヴァー「Transmission」がスタートした。うわさには聞いていたがこの曲は長かった。インプロビゼーションを交えて20分はゆうに越える演奏。でも前日演奏してくれなかったので土壇場での登場にちょっと嬉しい。ビリーはジミヘンばりのギターソロで彼の独壇場を作ったかと思うと、ギターのブラッシングストロークを交えてあっという間に客をダイブ状態にまで持っていってしまう。キーボーディストも負けじとジャジーなフィルを入れ、「Watch your ears.」と言ったかと思うと、突然大音量で再びギターを弾きまくるビリー。突然宇宙論を語り始めたかと思うと、「I wonder if they're watching Japanese TV.」などと言って笑いを取ることも忘れない。そんなこんなで、20分という時間を全く感じさせない、スマパンの圧倒的力量を見せつけられたナンバーだった。(とは言っても何度かは時計の針を見てしまったけれど。)

このままトレーラーごとゆっくりと元の位置に戻っていくのかと思いきや、ステージをすたこらさっさと降りていき、隣接していた結婚式場のような建物の方に消え去ってしまったメンバー達。ひとり最後までピック投げに従事してビリーだが、やがて彼も残りのメンバーを追いかけるようにしてステージを去っていった。

クルーの機材の撤収作業を見届けて、この日の1時間15分に渡ったシークレット・ギグはこれでおしまい。しかしこれを書いている現在を持ってしても、いまだにあれがなんだったのか飲み込めないでしまっている自分がいる。何せあまりにも現実離れした空間で、現実離れしたアーティストを、現実離れした距離で観てしまったからだ。現実ではとてもあり得ないと思っていたスマッシング・パンプキンズという全世界レベルでのスタジアム級のバンドによる、この日の無料シークレット・ライヴ。タダより高いものはないというが、その言葉の通り今日は、今後いくらお金を出しても決して買うことが出来ないような、本当に貴重な経験をさせてもらったと思っている。うん、タダの須磨パンはなかなかおいしかった。

  1. To Sheila
  2. Ava Adore
  3. Perfect
  4. Tear
  1. Once Upon A Time
  2. Let Me Give The World To You
  3. Shame
  4. Transmission
    (Joy Division Cover)


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Last updated: 6/ 25/ 98