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新宿厚生年金会館 - 2/10/00 (reported by しげやん)
▼ まずメンバーとご対面! そもそもコンサートというのは非日常の極み以外の何物でもない.「つかの間の夢」と言い換えててもいいだろう.日本人のアーティストならまだしも,海外アーティストとなるとその程度たるや相当なものがある.だいたい,日頃から聴いている CD の,その曲を書き演奏しレコーディングした人たちが,はるか彼方の日本の地まで飛行機に乗ってコンサートをしに来るわけだ.そして,ライブの間,観客たちは日常のシガラミなど面倒くさいことはアタマの中からすっ飛び,終了後は程好い余韻かつ高揚感を感じ,日常とのテンションのギャップのあまり普段の生活へ戻るまで時間を要する...と,まあこれは誰しもが感じるところだろう. しかし.今回のコンサートは,そんな非日常すら比較にならない位のものを味わうものとなったのだ. 自分の同伴者がプロモーター主催のギター・プレゼントに当選してしまい,コンサートの前日にそれを知らせる電話が入ったのだった.開演前にメンバー達が直に Peavey のギターを手渡してくれる,という途轍もないこの企画...実現するまではどうしてもそれが信じられなかった. 実のところ,自分が生まれて初めて買ったLPレコードは Styx の1980年発表のアルバム『Paradise Theatre』だった.最高のアートワークに包まれたこの LP レコードはさすがに現在は時々聴く程度だが,聴く度に当時まで遡って情景・感情・空気までが甦ってくるようだ.何せ,このアルバムが出た当時の Styx といえば超ビッグネームで,現在に例えるならば Oasis 以上といっても過言ではないだろう.そういえば自分が生まれて初めてプロモーション・ビデオを体験したのも本アルバム収録の「Too Much Time On My Hands」だったし,高校のときにギターを弾き始めたときにもこのアルバムのバンドスコアを真っ先に買ったし.そういう意味では,ギター&ボーカル担当のトミー・ショウ(Tommy Shaw)は長年の憧れの人だった. しかし,Styx ときたら,『Paradise Theatre』の次がいけなかった.バンドの実質的なリーダー,デニス (Dennis De Young) は独断と偏見に基づいたコンセプト・アルバムを作りたがり,出来たのは♪ドモ・アリガト・ミスター・ロボット♪ なんちゅうふざけた迷曲「Mr. Roboto」が収録されたどうしようもないアルバムだった.結局バンド内で意見が分裂し80年代半ばに自然消滅したが,その後トミーは Damn Yankees というスーパー・プロジェクトを組んでこれがまた大ヒットした.Styx は 90年代になりデニスを中心に再結成,97年にようやくトミーが復帰した.『Brave New World』というアルバムを出したもののその後にデニスはトミーと意見が食い違い...結局デニスは脱退.どうやら最近はオーケストラ・アレンジに仕立てた「一人 Styx 状態」でツアーをしているらしい.そんなデニスを尻目に,トミーを中心とした面々が18年ぶりに日本にやってきた. 開演前の緊張する瞬間.スタッフに案内されてステージ裏へ忍び込んだその瞬間. トミーはうがいしていた.ごろごろごろごろ. その姿に笑い出しそうになりながら興奮していると,楽屋に案内されて...そして,いるではないか!メンバー達が! 30年近いバンドの歴史のなかで唯一のオリジナル・メンバー,ジェームス (James Young) は「いや〜,当たって良かったね」と,こちらの喜びを満面の笑みで受けとめてくれる.新加入のメンバー達... トッド(Todd Zucherman, dr),ローレンス(Lawrence Gowan, key),グレン(Glen Burtnik, b)については全く予備知識がなかったが,皆いずれもフレンドリーに「今日のショー,最高のものになるよ」「楽しんでいってよ」と声をかけてくれる.いい人達だ〜. しかし,自分にとっては何といってもトミーが本命中の本命だ.だいたい『Paradise Theatre』を知ることがなければロックンロールを聴くことがなかったかもしれない.ハードロックでもバラードでも来るもの拒まずの美声,オーソドックスではあるが耳をとらえるギター,そして何といってもルックスがカッコイイ!その昔は金髪でオカッパでまるでフランス人形のようだったが(ホントか?)今は程よく年季が加わっている.もし自分が女性だったら砂糖を鬼のように加えた甘〜〜〜い手作りチョコを夜鍋して作り手渡ししたい位だ(帰宅後調べてみると47歳らしいがとてもそうは見えなかった).実際に話してみると,これがまた誠実な人.こちらの質問にも逐一丁寧に答えてくれるし, 「日本に18年も来なかった理由?それは...デニスがツアーを嫌がっていたから.今は最高のメンバーたちでツアーが楽しくて仕方がない,これからは沢山来る,これは約束する」 など,バンドの内情に踏み込んだ質問にまでキチンと教えてくれる. で,トミーから 「ところで.新アルバムは買ってくれた?」 と聞かれて, 「いいえ,レコード屋さんで試聴したんだけどピンと来なかったし,特にデニスの曲がつまらなかったので買う気にはなれませんでした.中古屋で安く売ってたら買うかも」 なんて思わず正直に答えそうになったが思い止まり,とっさに「いや,うちの近くでは売ってなかったんです」と答えたが,後になってこれも随分と失礼な返事だったと思う.ごめんなさい.とりあえず会場で買うことを約束して一見落着?! ま,こんな感じでメンバー達からギターを直にプレゼントされ,握手をし,記念写真を撮らせてもらい,会話し...さらには,後生大事に抱えていた『Paradise Theatre』のレコード・ジャケットにサインしてもらい,一体,これ以上に何を期待したらいいのだろうか.もうコンサートがなくてもいい位だ...とはさすがに思わないが. ▼ さて肝心のライヴの方は? メンバー達に会った後スタッフ達に繰り返しお礼を伝えた後,客席へ戻る.しかし現実感は全くなく,開演前にして放心状態に至っている.しかし,ライブは容赦なく始まり,つい先程言葉を交わしたばかりの面々がステージに上がった.何か不思議...というか,やっぱ非現実的だ.さっき握手したあの手がギターを握っているんだ. 彼らの30年近いバンド歴のなかで代表曲はいくらでもある.そういうなかで「過去の名曲」をオープニングにすれば,昔の曲のみを観にに来たファン達が喜ぶことは必至だ.もちろん,自分もそういうイヤラシイ根性は多少なりとも持っていた.しかし,彼らはあえてそれを行わなかった.オープニングは,自分が試聴したものの買わなかった新アルバムからの曲だ.いかんせん試聴しかしてないから馴染みはない. しかし!何てカッコ良いのか! さっきまでニコニコしていたメンバーたちは思いっきり真顔,特にジェームスに至っては恐い位の気迫がある.ジェームスおよびトミーのギター(それぞれ Kramer と Fender テレキャスター)から空ピックがマシンガンのように響き,トミーの高音シャウトが決まり,そして皆がコーラスでキメる.トッドのドラムはあまりにもシャープで,バスドラムの連打が地震のように迫る.そして... 曲の展開が変わり,ふっとテンポが下がり,そこにトミーが歌い込むその瞬間.ようやく気がつくのだ. この瞬間を.この10数年間.いかに待っていたことか. その後は70年代の名曲が続くなかにも新曲が良い具合で加えられ,その出来がまた素晴らしい.デニス作の「Grand Illusion」では違和感があるのかなと事前に懸念していたが,ローレンスの歌声はそんな危惧をものともしない程ぶっとんでいる.鍵盤を中心としてグルグル回るステージ仕掛けのため,お尻を観客に向けたり盤に飛びのって児童公園の如く回りまくるなどステージングも最高に楽しい.一見ロッド・スチュワート的な動きをするガニ股のスティーブ・ペリーという感じだが(何のこっちゃ),見てる方が恥ずかしくなりそうなアクションもひたすら徹底するとカッコ良さへと昇華されることを発見する.こんなもんだから,70年代の曲は全く異なった印象を与えるほどの重圧感がある.トミー不在時のナンバー「Edge Of The Century」がグレンのボーカルで演奏されるがこの人もまたカッコ良く,重低音をビシバシ響かせながらもステージ上で動き回る...このようにメンバー各自の見せ場がその都度用意してあるのだ.この曲の間奏で「Mr. Roboto」がサクッと挿入されるが,これがロックンロール調でなかなかカッコイイ.デニスがいたら絶対この曲をフルで演っていただろうに.そしてシラケただろうに. そして... トミーが Taylor の12弦ギターを手にする. 「この曲を書いたときには,まさか自分が将来日本で演奏するとは思ってもいなかった.こうやって皆さんの前で演奏出来るのが嬉しい」などの MC を交えて,トミーが Styx のために初めて書いたという「Crystal Ball」が始まる. 12弦ギターの音色. そしてトミーの歌声. もう涙で何も見えなくなる. 彼らは「見せる」というショー的な要素を忘れることがない.リッキー・マーティンの曲を余興で演奏したり,「ミナサン・タノシンデ」「キンパツノ・ガイジン・トミー」「トミー・ワ・バカ」などの日本語を自由自在かつ巧みに用い,1分たりとも観客を飽きさせることがない.2年おきに来日してるのに未だに「ドーモ」しか言えないクラプトンにその技を伝授してほしいものだ.ただただ泣いたり笑ったり,もう大変ったらありゃしない. さて,コンサートは中盤.アコースティック・コーナーへと突入するがこれがまた素晴らしい.哀愁が漂うメロディにマンドリンがよく似合う「Boat On The River」で皆を涙に誘った後は,グレンが作曲したという(全然知らなかった)Patty Smyth による92年の大ヒット曲「Sometimes Love Just Ain't Enough」,トミーが Damn Yankees 時代につくったこれまた大ヒット曲「High Enough」と百戦錬磨の曲が続き,曲の美しさ,力強さを痛感する.特にグレン!ハイトーンの歌声を響かせながらも同時進行でベースを泣かせるのは一体どういったことか.そして!ローレンス のポンプ・オルガンから繰り出された「The Best Of Times」.永遠に輝き続ける価値を持つ,といっても過言ではないこの曲...アレンジは原曲と全然違うしボーカリストも違う,でもそんなことは関係なく,歌のメッセージが原曲以上に,痛いくらいに伝わってくる. その後,ローレンス以外は一旦ステージを後にしキーボード・ソロが始まる.そして,そのまま『Paradise Theatre』の幕切れにて用いられている,あまりにも哀愁の漂う「State Street Sadie」にて導かれたのは...同アルバムの1発目,「Rockin' The Paradise」だ! 曲名の通り大ロックンロール大会へと突入し,自分はサインしてもらった LP レコードを天高く持ち上げ参戦するとトミーがそのレコードに指を指しながら見てニヤッと笑う.あーーー〜〜〜! その後はもう書ききれない.どれもこれも名曲過ぎて逐一語る気を失うくらいだ.トッドは恐ろしいくらいにドラムを鳴り響かせ,グレンは重くもビシバシ切れるリズムをかき鳴らし,ジェームスは「Miss America」で吠えまくり,弦楽器一同はステージ上を飛びまわり,ローレンスは鍵盤の周りをグルグル回る.そして!いよいよ!来ました... 「Come Sail Away」.これもデニスの曲だが,ローレンスはそんなことはお構いなしに,まるで彼が作ったかの如く歌い上げる.皆がコーラスを加え,ジェームスのギター・カッティングがシャープに決まり,トミーがソロを加え,もうこれ以上何も言うことはない!放心状態のなか,メンバー達はステージを後にする. で,出て来た出て来た.アンコールは何と ZZ Top の「Tush」!99年フジロッカーズの有終の美を飾るあの曲だ.フッとブレイクして静かになった瞬間,トミーが「Renegade」を歌い上げる...だめだ,その不意打ちたるや「暗闇でドッキリ」という感じだ.その美声がメンバー全員のアカペラコーラスへとなり,迫力がアップしたところで大爆音へと移る.大感動にて放心状態のもと新作のオーラス曲が BGM として流れ始め,メンバー達は繰り返し観客に感謝の言葉を述べ... ライブは終わった. 現在の Styx は決して過去の遺産を食らって延命を計るようなバンドではない.デニスなんかいなくてもいい.もし仮にいたとしても過去を遡るつまらないバンドに成り下がって「Styx の夕べ」なんちゅう音楽会をやっていたであろう.もちろん,今回のライブでデニスの曲は沢山演奏されたが,それはデニスの歌声をなぞるものではなく,今現在のメンバーによるアレンジで,最高のロックン・ロールへと生き返らせるだけに留まらず,新たな生命体へと進化していたのだ. とにかく,Styx の現ラインアップは無敵だ.現在進行形にある史上最強のロックン・ロール・バンドだ.そんな彼らに過去を振り返る時間なんかはただただムダだ. Music lives. こういう諺がある.今回のライブを通じて改めて感じたことだ. そうだ,音楽は生きている.
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Last updated: 2/ 23/ 00 |