Tom Petty & The Heartbreakers Free Fallin' !

MGM Grand Garden Arena, Las Vegas, NE - 10/15/99
Hollywood Bowl, Hollywood, CA - 10/16/99

reported by しげやん)


いきなりの私事で恐縮だが.自分はTom Petty & the Heartbreakers(以降トムさん達)の来日公演を実現するべく署名活動を行っている来日祈願キャンペーン・サイト「The Waiting」(http://www1.plala.or.jp/tompetty/)の共同管理人の一人である.そこまでやる位だからトムさん達には相当な思い入れがあるし,CD が悲鳴を上げるほど聴きまくっているが未だに飽きることもなくハマっている.

しかし悲しいことに,これだけ彼らに入れ込んでおきながら彼らのライブを経験したことは一度もなかった.もう10年以上来日していない,という決定的な事実ゆえに,である.確かに派手さはないし,日本のTVドラマでテーマ曲になる訳でもないし,ロッキング・オン誌の表紙を飾ることもないし,昔のヒット曲の 8 小節を安直にループさせ耳の毒とか言いようがないラップを呪文のように唱えてヒット曲を乱発する訳ではないし,マライア某のようにつまらないメロディーに合わせて巨乳をユサユサさせる訳でもないし,そもそもこの手の音楽が日本の一般大衆にウケるとは思っていない.しかし,アメリカではあらゆる雑誌でトムさん特集が組まれ,ライヴはアリーナ・クラスで1回のライブあたり万単位の観客動員数を誇り,チケットは入手困難ゆえにオークション・サイトで法外な値段で取引されているし,この差は考えれば考えるほど悲しくなる.もちろん彼らに一日もはやく来日してもらうことが至上目標であることに何の変わりもないが,そうはいっても待ち切れるものではなく,日本一のトムさん達のウェブサイト「Here Comes A Heartbreaker!!!(http://www.netpassport.or.jp/~wmayuab/) の面々計4名でアメリカへと遠征した.





▼ 99年10月15日

場所は砂漠のなかにあるギャンブルの街,ラスベガス.会場は MGM Grand Hotel という,最近ラスベガスに雨後のタケノコの如くヒョコヒョコ生えている巨大リゾートホテルの走り,とも言うべきホテル内のコンサート・ホールだ.そのためかダフ屋がいるわけでもなく,どことなく上品な感じが漂う.会場はパッと見た感じ,武道館よりやや小さい位,観客数は1〜2万人といったところだろう.そして席は...10列目,ど真ん中ではないか.おいおいおい.武道館だってこんないい席で見たことない!今までトムさん達を経験したことがないのに初対面はこんな至近距離だなんて,もうどないしましょ.かえって信じられなくてボーっとしてしまう.

前座は Clarence Fountain And The Five Blind Boys Of Alabama という面々.全く予備知識はない.いきなり皆で一列になり「電車シュッシュッポ」状態でステージに登場したときには何かと思ったが,どうやら本当に blind=盲目のようだ.で,歌うのはゴスペル.その上手さったら壮絶なものがある.特にそのうちの一番年上のオヤジ...どう贔屓目に見ても70歳にはなっているだろう.このオヤジ...というかジーチャンがシャウトし始めるや否や,これがスゴい.延々と叫ぶ吠える.ポックリ逝ってしまうのではないかとマジに心配になるが,そんな思いをよそにしつこいまでにシャウトし続ける.そのうち本当にしつこくなってきて半分呆れてしまったが.

さて,前座も終わった.しかし,未だに緊張していない.というか,実感が沸いていない.今までの思い入れがあまりにも強いためか,それとも時差ボケのためか,もともとボーっとしているせいなのか.前座が終わり,流れる BGM はThe Rolling StonesとAerosmithがそれぞれデビュー・アルバムでカバーをしたりもした "Walking The Dog",トムさん達もカバーした "Route 66" などが流れる頃になってようやく少しずつながら現実が見えてきた.そして!BGM が突然どことなくマッタリした曲(後になって J.J. Cale の曲と判明)へと変化し,その中メンバー達が登場.無造作にサウンドチェックをしながらトムさんが「お〜〜っ,べいべぇぃ!」とマイクにつぶやいた瞬間,遅れ馳せながらようやくライブが始まろうとしていることを実感するに至った.

オープニング曲は "Runnin' Down A Dream".海賊盤でこの曲のライヴ・アレンジには精通しているはずなのに,ウネリが全然違う!特にベーシスト Howie Epstein の奏でるベースの迫力が壮絶で,これはどんなにCDや海賊盤を聴いても絶対分かりえないくらいに凄い.そして!トムさんおよびギタリスト Mike Campbell がお揃いで持つギブソン・ファイアーバードの生々しいギターの音が脳天を突き刺すように響いてくる!特にギター・ソロの高音たるや凄すぎる!他のメンバーたち... 強迫的なまでに他アーティストのレコーディング・セッションに参加し一体いつ寝てるのか心配になるキーボードの Benmont Tench は1本指で弾けるような簡単なフレーズの次にスゴイことを黙々と弾いたりして,これがまたイブシ銀.サポートメンバーであるドラマー Steve Ferrone は80年代後半〜90年代前半クラプトンとの共演で有名だが,その当時と比べると随分シンプルなドラムを叩いていて,そういう意味では素朴なトムさん達の音に溶けこんでいる.Scott Thurston はそつなくギターやらハーモニカやらコーラスをこなす.このような状態のもと,トムさんの唯一無二の声に Howie らのコーラスがからみ... 本当にライヴなんだ...

続くは,何と1976年発表のファーストからの "Breakdown"!以前のライブアルバムでトムさんがフルコーラスを観客に大合唱させ,「You're gonna put me out of the job!」と語っていたのが印象的だったが,まさか自分がそれを生で歌えるとは.曲の後半,トムさんは語りを入れ,そのまま叫びながらエンディングへ.これがまたかっこ良すぎ.このオヤジ,もうしばらくしたら49歳の誕生日なのだが本当なのか.


以降はただただ涙のオンパレードである.


涙その1: 最新アルバムからの "Swingin'".トムさんが4つのごく単純なギターコードを無造作に弾く.なのに何故こんなにカッコ良いのか.バンドが入り,サポート・メンバーの Scott Thurston がハーモニカを吹くが,その音が響いた瞬間,体が溶け始める.

涙その2: ベストアルバム「Greatest Hits」に収録の "Mary Jane's Last Dance".トムさんが奏でるイントロのギターだけでボロボロ.コードたった3つしか弾いてないのに!

涙その3: 弾き語り風にアレンジされた "I Won't Back Down".ホールの前方からトムさん達,後ろおよび左右から観客の大合唱が聴こえその立体感ったらもう壮絶,立っているのさえつらくなる.もっとも隣の座席の女性が「金太郎服」とでも言おうか,胸と腹以外の上半身を露出したエッチなドレスを着ていてその生肌がいちいち自分の体に触れるため,かろうじて理性を保っていられる.というか,別の意味で理性を失う.

涙その4: "Listen To Her Heart".これまた昔の曲だが,古さなんて一切感じなく,後生まで語り継がれる名曲であることを再確認する.Howie はトムさんの歌う殆どのパートにコーラスをつけるが,最後のパートを歌い終えると二人がさりげなく目を合わせニコっとはにかむ.くーー〜っ!

涙その5: "Don't Come Around Here No More".80年代をリアルタイムで経験した MTV 世代にとってはサイケなビデオが印象的な曲だろう.Mike がエレクトリック・シタールに持ち替え,ビヨビヨとした音にて奏でられるギターソロがアリーナを支配する.Benmont はムチャ細かいバッキングにもかかわらず両手を駆使して何気にこなし.... そして,曲の後半,それまでのミニマルなビートから急速にロックン・ロールへと変わる瞬間!! この上なく美しい!! 全然涙を流すべき感動シーンという曲調でないのに,もう涙はボロボロ止まるところをしらない.何故なのだろう.さらに追い討ちをかけるように派手なストロボ照明がたかれ,視覚的にもヘロヘロとなる.

そして涙その6: アンコールの "Free Fallin'".トムさんの最大ヒット曲でもあり,永遠の名曲である.リッケンバッカー・ギターから例のイントロのコードが流れると,とうとうフラツキ始めた.隣の金太郎姉ちゃんはアンコールを前にして帰ったため自分の理性を保つ術がなくなり,脳ミソがただただ溶けていく.その中,トムさん,Mike,Scott の3人が揃ってチェリーのギブソン ES-335 に持ち替え,60年代のヒット曲 "Gloria" のカバーにて最高のコール&レスポンスを行い,もう十分だと思いきや,デビューアルバムから不朽の名作,"American Girl"が始まる.涙を流しながらも大合唱し,顔面だけでなくノドもボロボロになっていく.こんなスゴイ曲がデビュー作に入っているなんて,どうしてなのか....

フタを開けてみれば,デビューして20年強のうち全ての年代からまんべんなく選ばれた非の打ち所のない選曲でもうお腹いっぱい.数えてみると,トムさん,マイクともに10本ずつのギターを使い分けていた.こんなにライブで感動しながら,涙をボロボロ流しながら,それでもどの曲でいちいち何のギターを使っていたか覚えている自分のオタクぶりに半ば呆れる.そして来日祈願キャンペーン・サイト「The Waiting」 にはその詳細が!

これだけあったら楽器屋さんが出来るくらい贅沢極まりなく「一本くらいちょうだい」とダダをこねたくなるが,自分が弾いてもこんなに良い音は出ないだろう.はい.





▼ 99年10月16日

16日,飛行機にてラスベガスからロサンゼルス(以下LA)へ飛ぶ.会場のハリウッド・ボウルといえば,何てったってビートルズが伝説になったライブが伝説になるほど悪い音質のライヴアルバムにて発表された野外のコンサート・ホールである.さらに約20年前,自分がロサンゼルス在住時,クラシック好きの父親にムリヤリ連れてこられ,退屈ななか猛烈な寒さにオシッコが近くなり,でも皆は静かに聞いているため身動きが出来ず,拷問のような体験をしたあの会場である.

席はステージからは相当遠い.東京ドームの2階席よりはるかに遠い.モノの本によるとキャパは1万7千人とのことだが,とてもそうとは思えないほどのスゴイ人の数である.野外でむちゃくちゃ寒くて低体温になりそうな位なのにビールを求める列は長蛇の列,さらにワインまで売っていてフルボトルで買っている輩もいる.そんな人に限って T シャツ一枚だったりする.

昨日同様 BGM は J.J. Cale のまったり曲で,続いて地元のラジオ局の DJ が登場.トムさん達に対する賛辞を送った後,いよいよ彼らが登場する.昨日と違いステージから相当の距離があるゆえに彼らの表情は到底分からないが,放たれるオーラはただただスゴいものがある.音をチェックしながら色々とマイクで語りを入れた後,昨日と同じセットリスト... と思いきや... いきなり "Jammin' Me" が始まるよ,おいおいおい!!

このライブはツアーの最終日程であり,彼らが LA 在住であることも考え併せると,何かやらかしてくれるのでは,と思っていた.ライブ前は皆で LA 在住のアーティストを片っ端から挙げ,勝手ながら夢の共演なんかも想像していた.実際以前に Guns 'N Roses の Axl Rose まで共演したこともあった... 残念ながら今回それは叶わなかった.しかし!まさかオープニング曲が変わるとは!! まあ確かに前ツアーまではセットリストを日替わりでいじくっていたし,レパートリーは鬼のようにある彼らのことだから驚くほどではないかもしれない.しかし,1曲目の重要性はあらゆる方面で指摘されており,いざそれをやられた日にはアタマの中が真っ白になるだけである!

ハリウッド・ボウルは野外の会場ゆえに照明は昨日のそれとは全く異なり,黄や緑を色調に加えた感動的かつ幻想的なもので,創り出すムードがもう言葉に出来ない.さらに,アメリカのライブにはつきもののマリファナの香り以外に何故かスカンクの臭いが漂ってきて,そのクサさたるや言葉に出来ない.会場が山の中にあるゆえなのか?それとも誰かがペットとして持ちこんだのか?そんな中で観客は元気である.背後から "Tom Petty for President!" なんちゅう,いかにも脳天気なアメリカ人らしい叫び声が繰り返し聴こえる.実際にそうなった場合の組閣メンバーを思わず想像し,一人でニヤニヤしてしまう自分が我ながらアホらしくなる.昨日の座席で叫んだらトムさん達に聴こえただろうに,今日は全然届きようがないのが残念である.

しかし,昨日と全く同じシーンでバーっと涙が流れるのはどうしてなのか.昨日とは比べ物にならないほどの座席の遠さなのに,そんなことは関係ないくらい音楽の説得力が強すぎる.特に "Swingin'" の素晴らしさったるや,思い出すだけであの場の鳥肌と涙が再現される.トムさんのルーズかつシャープなリズム・ギター,Uni-vibe というエフェクターを用いてこれがまた涙を誘う Mike のギター・ソロ,Howie の コーラス,Benmont のさりげないピアノ... 最後は皆ユニゾンで8部音符を刻み,感動のエンディングへと突入する.

ギターバトルが長く続く "Good To Be King" では Mike がダブルネック・ギターを用いて,オーケストラを用いた原曲のアレンジを別の次元にまで持ち上げる.さらに,曲が静かになったところを見計らって音色を変えたりするものだから,もう鳥肌もいいところ.続いては Mike のギターソロのお時間,"Penetration" (元曲は The Ventures) .トムさんは休憩に入り,それと並行して観客も皆椅子に座りビールなどを買い求めに出かける.演奏が素晴らし過ぎるゆえに「もったいないな〜」と思うが,まあその分前方の視界が良くなるので文句は言うまい.未だに周囲の面々は半袖だったりするが "Penetration" の最中,ビキニ姿で踊り狂う女性の観客が大画面スクリーンにアップされ,改めて欧米人の温度感覚は日本人のそれと異なることを確信する.ビキニ効果のためか? Mike は相当盛り上がっているようで,他のメンバー達に合図をしながら昨日は演奏しなかったオールディズ・ナンバー,"Secret Agent Man" "007 のテーマ" などの曲を続けて演奏する.これ,絶対あの場で構成決めてるんだろうな...

"Don't Come Around〜","Walls" と続いてさんざん涙を流した後に "You Got Lucky" のイントロが始まるやいなや,会場に得体の知れないウネリが出現した.これは一体何なのか?!そのためか完全無欠なセッション侍 Benmont が珍しくトチるがこれはご愛嬌.スタジオ盤よりも数百倍説得力のあるボーカルにただただ打ちのめされる.

しかし!"Free Fallin'" はそれを上回る感動的なものとなる.再び観客一同のウネリが会場の中を走り,大・大・大合唱へと突入する.歌詞のなかに出てくる「Reseda」「Ventura Boulevard」「Mulholland」などの LA の地名で LAっ子たちは大喜びし,皆そこで叫びまくる.気がついたら,両脇の同行者達とボロボロ涙を流しながら抱き合っていた.この瞬間がいつまでも続いてほしい... しかし,そういう感動に浸っているヒマもなく"Gloria",そして必殺の "American Girl"へと続く.これまた大合唱でまたまた抱き合いながら歌いまくる.ツアーの最後だからか,ステージから去る際,昨日以上に繰り返し観客にお礼をしていたような気がするが正直なところ全然覚えていない.

理性が回復し出したのは哀愁の漂う「グリーンスリーブス」が会場に流れ始めた頃だ.

だめだ,寂し過ぎる.




















もう終わりなんだ...




















でも... スゴかった.




















素晴らしかった.




















トムさん達,ありがとう!




















しばらく同行者たちと抱き合いながらも立ち尽くし,現実を受け入れるのに相当の時間を要した.

ライブにおいて今回のこれを超える瞬間を味わったことは未だかつてない.もし今後ありえるとしたら,それは彼らが来日してライブをやる日のことであろう.



  1. Jammin' Me (10/16)
  2. Runnin' Down A Dream
  3. Breakdown
  4. Swingin'
  5. Don't Do Me Like That
  6. I Don't Wanna Fight
  7. Mary Jane's Last Dance
  8. I Won't Back Down
  9. Listen To Her Heart
  10. Good To Be King
  1. You Don't Know How It Feels
  2. Penetration - Apache
    (+ Secret Agent Man - Theme from 007 : 10/16)
  3. Don't Come Around Here No More
  4. Walls
  5. You Got Lucky
  6. Free Girl Now
  7. You Wreck Me

  8. Free Fallin'
  9. Gloria
  10. American Girl




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Last updated: 11/ 6/ 99