坂野公信先生の考えるGWT

 

この原稿は故坂野公信先生ご自身が第9回グループワークトレーニング研修交流会(1999)用にまとめられたものです。

 

1.グループワークトレーニング(GWT)とは

  • GWTは、OffJTであり、グループ・アプローチのひとつである。(注:L235)
  • GWTは、構成的Tグループである。したがってラボラトリー・トレーニングの要素をもっている。
  • GWTには価値教育の要素が含まれている。
  • GWTは、「主として対面小集団における対人関係とリーダーシップ」に関する研修技法である。対面していない複数の集団を持つ組織におけるマネジメント(ヒューマンスキル)については、いくつかのGWTがあるがまだ不十分で、研究途上である。
  • GWTはロー・マネージャー(監督者層。職長、主任、係長クラス)のリーダーシップ・トレーニングはできるが、ミドル・マネージャー(管理者層。課長補佐、課長、次長、取締役でない部長クラス)のリーダーシップ・トレーニングは、今私たちが持っているGWT財とアドバイザーの能力では無理だと思う。

 

2.グループワークトレーニング(GWT)のねらい

  • パテシペイターシップの養成をねらっている。(注:G179)
    パテシペーターシップを持つ人間とは、ソーシャル・アダルト=成熟した社会人であり、それは自分のアイデアで走るプロのサッカー選手のイメージである。(注:G158)
    高いレベルの個人技を持つ選手がすばらしいチームワークを発揮して試合に勝つ、それを実現させるためのトレーニングがGWTである。
    GWTは、自立した人間を育てたいと願っているが、集団からの「はみ出し者」を育てることは考えていない。あくまで頼れるチーム・リーダー(プレイング・マネージャー)と頼れるチーム・メイトを育てることを目指している。
  • 集団への所属感と貢献感が、アドラーのいう「共同体感覚」につながると考えている。

 

3.アドバイザーについて

  • トレーナーでもなく、ファシリテーターでもなく、アドバイザーと呼ぶ理由は、「新グループワークトレーニング」(P189)をご覧いただきたい。
  • 「共にある=Withness」ことは、アドバイザーが操作的になることにブレーキをかける倫理規定だと考えている。

 

4.気づきとズレについて、I 機能を見直す必要があるか

  • GWTが他の自己啓発セミナーと異なる点は、自分の言動が周囲にどういう影響を与えているかに気づき、効果的な行動をとるよう自己修正する点にある。
    効果的とは、無用な摩擦を避け、最小のエネルギーと時間とコストで最大の成果を挙げることである。
  • I 機能は、非効果的な言動であり、原則的には排除されるべきものと考えている。しかし、自分の信念に基づいて行動した場合、周囲から反発を受ける場合がある。この場合GWTでは、「周囲の人は傲慢だと言うだろうが、私はそれを承知で敢えて行う」ことを止めてはいない。周囲の影響に気づくことが大事だといっているのであって、気づいた後どういう人生を歩むかということまで強制するものではない。もちろん傲慢にならないでほしいという願いをアドバイザーは持ち、それを伝えることはできるが、他人の人生にまで介入をすることは許されない。
  • そこで自己像と他己像のズレに気づくことが必要となる。(注:H245)
    このステップは「解氷から再結氷へのプロセス」の解氷にあたる。(注:G184)
  • 次に「何故このような言動をするのか」その理由を考えることが必要になる。
    1977年に人間開発研究所を開設し、GWTセミナーを行ったが、たとえば非常に権威的な人にいくらリーダーシップ・トレーニングをやっても、効果的なリーダーシップがとれるようにはならない。メンバーが反発してついていかないのである。リーダーシップ・トレーニングの前に、何故そんなに権威的に振る舞うのか、「内面の心の姿勢」を点検し、修正する必要がある。権威的になる理由に気づけば、自己修正できる。すると効果的なリーダーシップが発揮できるのである。
    そこで私は他人の性格を問題にすることは余り好きでないのであるが、止むをえず1981年に「自己発見の旅」のセミナーを開始したのである。ここでは論理療法の技法を取り入れているので、協力ゲームやコンセンサスがGWTだと思っている人から「これもGWTなんですか」ときかれたことがある。(注:G189表)
  • どんな小さなこと(プラスとマイナスの両方)も見逃さないで気づいてもらうために、アドバイザーは介入するのである。(グループ・プロセスに気づかせるため、あるいは効果的な相互作用が起こるように、また無意味な葛藤をさけるために介入することもある)人間誰しも自分のマイナス面は見たくないものである。その見たくないところをきちんと見ることが重要なのである。ただし、マイナスに気づいたからといって、そういうマイナスを持っている自分はダメ人間だと考えてはならない。プラスとマイナスの両方を持った自分を肯定的に受け入れることが大事である。
  • アドバイザーは介入の仕方についての研修も必要である。

 

5.ふりかえりについて

  • 気づいたことを文字化して確認することが重要と考える。話し合うだけでは不十分である。
  • ふりかえりシートの質問項目に、そのGWTのねらいがある。
  • フィードバックの仕方については、「新グループワークトレーニング」(P190)と「人間開発の旅」(P46〜66)をご覧いただきたい。ただし、「人間開発の旅」に書いてある解説は、自分で実際に書いて見たり、指導を受けながら他人の文章を添削しないとなかなか身につかない。
  • 学校GWTのふりかえりは、成人のGWTのふりかえりとは異なるので、学校GWTの本を見て慎重にやっていただきたい。
  • ふりかえりの最後に現場適応を考えさせる。何を学んだのかふりかえりをし、現場適応を決意しないと、GWTをやった意味がなくなる。

 

6.自己発見の旅のねらい

  • 今ある自分に気づき、肯定的に受け入れる。気づきの内容は「新グループワークトレーニング」(P179)をご覧いただきたい。
  • うぬぼれ、わがまま、甘えをコントロール(幼児性格のコントロール)し、素直、思いやり、率直を実践する。ここまでを3泊4日で行う。
  • そして、自分らしさを確立する。
  • この研修は、GWTのアドバイザーになろうとする人には必修の研修と位置づけている。

 

<備考>文中の注は、G10は「新グループワークトレーニング」の10頁を意味し、L20は「リーダーのGWT」の20頁を、H30は「人間開発の旅」の30頁を意味しています。