ヨコハマ買い出し紀行ロゴ(小橙) そのひとコマに ロゴ
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     << D-DAY マイナス7 >>
 
 「はよー。」
 
 ロッカールームに入ると、ココネが着替え終わるところだった。
 
 「おはようシバちゃん。」
 
 「あ、ねぇココネ、この、」
 
 言いながら、けさ掛けのカバンから葉書を取り出す。
 
 「この、”カフェ・アルファ”って前にココネが言ってたとこ?」
 
 「あっ、それシバちゃんももらったんだ。」
 
 「ココネも?」
 
 「うん。一週間後だよね、一緒に行こ。」
 
 
<< D-DAY マイナス6 >>
 
 買い物袋をかかえた女性が、ポストから葉書を取りつつ家に入る。
 
 「あぁん? なにこれ?
『下記の通り来られたし』って、...半島じゃん、遠いなぁ!
しかも何するのか書いてない。
...どうするかな?」
 
 腕組みしてちょっと考える。
 
 「ま、いっか。なんか新しいインスピレーションがあるかもしれないし。」
 
 そう言いながら、紅い髪をかきあげる。
 
 
<< D-DAY マイナス3 >>
 
 − カロン −
 
 「アルファ、これって何なの?」
 
 ドアを開けるなりタカヒロとマッキが葉書をひらひらさせながらアルファに駆け寄る。
 
 「あぁそれ私じゃないよ。 私ももらったんだけど、何だろね?」
 
 「えー!?」
 
 「だからあたしが言ったじゃないかー、アルファさんならこんな書き方しないって!」
 
 「ちっちっち、こういうときゃ、あらゆるかのうせいっていうものをだな、...」
 
 そんな光景を微笑んで見ているアルファであった。
 
 
<< 同日 >>
 
 「あ! 見つけたっ!」
 
 そう指差す先には、一人の男性がいる。
 
 その人が肩から掛けるカバンからはゴーグルをした生き物がのぞいている。
 
 「いやよかった、二日も探しましたよー。」
 
 「あぁ、あんたこないだの。 あに、ターポンは見れたかよ?」
 
 「いえ、それはまだ。
でも、おかげでラインはわかりましたよ。
それで今日はこれをお渡ししようと思いまして。」
 
 葉書を渡す。
 
 「では、私は急ぎますのでこれで。 あ、きっと来て下さいね。」
 
 それだけ言うと、スーツ姿の男は来た方向に走り去っていった。
 
 それをしばらく目で追うも、すぐに見えなくなる。
 
 葉書に眼を移す。
 
 「.....西の岬か...。 ってこっから三日で行けっかぁ?」
 
 そこは初夏にしては涼しい山の中であった。
 
 
<< D-DAY マイナス1 >>
 
 事務机が整然とならべられているが、その上は雑然としている薄暗い部屋。
 
 「いよいよ明日だが、準備はできてるか?」
 
 「バッチリっす、チーフ。」
 
 「行ったら”誰もいない”とかはないだろうな?」
 
 「大丈夫ですって、この葉書をみなさんに送っときましたから。」
 
 例の葉書を見せる。
 
 「いやぁ、この時代、電話のないとこばっかで大変ですわ。
一人は住所不定だし。」
 
 しかし、葉書から顔をあげたチーフが震えた声で言う。
 
 「俺の気のせいかな?
目的が書いてないように見えるんだが?」
 
 「え?」
 
 「.....」
 
 「書き直しましょうか?」
 
 『ぷっつん』
 
 
<< D-DAY 07:46 >>
 
 店を開けたばかりのカフェ・アルファ。
 
 「こ、ここか。」
 
 − カロ〜ン −
 
 ドアベルの音にも疲れを表現させて男が入ってくる。
 
 「いらっしゃ、あっアヤセさん!」
 
 「よ〜う。」
 
 「来てくれたんですね。」
 
 「へえよ、こんなのもらっちまってよ。」
 
 「あ、それ、アヤセさんもですか?」
 
 「! じゃ、あにすっか知ってんか?」
 
 「いえ、ぜんぜん。」
 
 「んじゃ、なんかあるまで寝かせてけーねーかな?
丸二日寝てねえんだ。 ふあぁ」
 
 いかにも眠そうにあくびをかみころす。
 
 「じゃ母屋の私のベッド使ってください。」
 
 「だから、ちっとは警戒しろって。」
 
 「?」
 
 「いや、その奥のテーブルでいいわ。」
 
 ふらふらと店の奥に進むが、立ち止まって振り向く。
 
 「あ、商売のじゃまんなんねーか?」
 
 「いえ、お客さんめったに来ませんから。」
 
 「そ−かー。」
 
 どうやら既に半分寝ているようだ。
 
 イスにもたれて腕を組むとすぐに寝息を立て始める。
 
 そんなアヤセをちょっと見ていたアルファだが、  
 足元のカバンに気が付くと、ひざをついてカマスと目を合わせる。
 
 「君はどうするの?」
 
 と、カマスもカバンの中に潜り込む。
 
 「ふふっ」
 
 いつもと違う一日の始まりに自然と笑みをこぼしていた。
 
 
<< 13:02 >>
 
 「アヤセさん! 起きてくださいってば!」
 
 「う?」
 
 「アヤセさん!」
 
 「おお、もう時間かぁ?」
 
 「えぇ、もうみんな来てますよ。」
 
 聞きながら、タオルケットを取ってベッドから足をおろす。
 
 「へ???...こ、ここは?」
 
 ようやく気づいて”母屋の私のベッド”のまわりを見まわす。
 
 「みんなで運んだんですよ。ちょっと大変でしたけど。」
 
 『ど、どうやって運ばれたんだ?』
 
 と思うが口には出さず、代わりに、
 
 「わりぃなぁ。おかげでよぅ寝れたわ。」
 
 「いいえぇ。タカヒロたちが来てうるさくなっちゃたんで。
でも、アヤセさん、タカヒロがつねっても気がつかなかったんですよ。」
 
 そのシーンを思い出して含み笑いするアルファ。
 
 そして、そんな彼女を見て汗をかくアヤセであった。
 
 
<< 13:28 >>
 
 カフェ・アルファから1Kmほど歩いた原っぱである。
 
 アヤセが店に戻ると、待っていたスーツ姿たちに連れられてきたのだ。
 
 「それじゃぁみなさん並んでくださーい。」
 
 左目のまわりに青あざがあるアシスタントが言う。
 
 なんだかよくわからないが、記念撮影だというのでみな並ぶ。
 
 今日初めて会った者も多いのに、何の記念なのかの疑問はわかない。
 
 こんな事はめったにないからだ。
 
 それに”はじめまして”は店で済ませた。
 
 
 左から丸子、先生、おじさん、アヤセ、アルファ、ココネ、シバちゃん、
 前列中央にお子様二人。
 
 「あーすいません、アルファさんとココネさん! 真ん中にお願いします。」
 
 カメラマンがフレームと社から送られてきたカンプを気にしながら言う。
 
 で、並び替え。
 
 後列に丸子、先生、アヤセ、シバちゃん、
 前列におじさん、アルファ、ココネ、タカヒロ、マッキ。
 
 ちょっと不満気なお子様に『ゴメンネ』なんて言う御指名の二人。
 
 そんな並びの調整が行われるのを見ながらチーフがアシスタントに小声で確認する。
 
 「おい、例の彼女は来るんだろうな?」
 
 「大丈夫っすよ、彼女のテリトリーは確認済みです。
ここらでワイワイやってれば絶対見に来ますって。」
 
 「だが、ターポンとタイミングあわなかったらどーするんだ?」
 
 「...あぁ、そこまで考えてませんでしたね。」
 
 げしっ
 
 「だいたい全員が収まったショットなんては無茶言いやがる。」
 
 アシスタントを蹴飛ばしただけではおさまらないチーフが愚痴る。
 
 
 みんなの準備は出来たようだが、ターポンが来るまでまだある。
 
 「すいません、みなさん。その場で後3分ほどお待ち下さい。」
 
 その3分が待てるマッキではない。いきなり前に座り込んでアルファたちとお喋りを始める。
 
 「あのぅ、ホントにあたしも写るんでしょうか?」
 
 シバちゃんも今日何度目かの疑問を口にする。
 
 「来た!」
 
 アシスタントがターポンが来たことを告げると同時にカメラマンがスタンバイする。
 
 「彼女も来てますよ、正面!」
 
 カメラマンがフレーム奥の森の上にみさごの姿を認める。
 
 そして、ターポンがほどよくフレームに収まるタイミングで、
 
 「じゃ、みなさんいきますよー!」
 
 その声でみなカメラのほうを向く。
 
 − カシャ −
 
 カメラマンが『もう一枚』と思ったときには既にターポンはフレームから外れ、みさごの姿もなかった。
 
 しょうがないので一枚きりでおしまい。
 
 「はーい、みなさんお疲れさまでしたー。」
 
 「ふぅ、なんだか緊張しちゃったわ。」
 
 先生が何年ぶりかの写真の感想を述べる。
 
 「撮られる側っていうのもテレますね。」
 
 と、アルファ。
 
 大人たちが帰ろうかとする間もマッキが、
 
 「ねぇねぇもう一枚もういちまーい!」
 
 と、ダダをこねていた。
 
 
 その後、一枚どころか三十枚ほども撮らされたことを付記しておこう。
 
      

 
     − あとがき −
 
 ホントは初対面のシーンとかあったんだけど長くなりすぎたのでカット。
 
 にしてもこれって本編に影響するのかな? つまり今後彼らの「はじめまして」が描かれることはないのか?
    


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