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『なんかありましたぁ?』 『なーんもないね。』 倉庫の中の二人である。 マグライトも目一杯に拡散するとそれほど明るくないが、非常灯だけよりずいぶんマシだ。 『あ、あれは?』 『どれ? あーそうかも。』 ライトの中心が赤い十字が描かれた箱を照らしている。 がさごそ 『えーっと、包帯、オキシフル、バンソーコー、湿布.....』 『あ、こっちにありますよ、これ、鎮痛剤。』 『OK じゃ、それとこっちのひと箱持ってこうか。』 『ええ。』 その頃オレたちは壁際に座らされていた。 前には銃を持ったのが数人と、あの男がいた。 『貴様、何者だ?』 『私かね? それが解らなんほど鈍くもあるまい?』 そう、オレたちはみな解っていた。 いや、この男が何者かではなく、ヤツがどこの国の人間かということに。 ヤツらの銃がその国の兵がよく使うものだと風さんも言っていた。 『他の乗組員をどうしたんだ?』 金谷さんが硬い口調で聞く。 ヤツが笑った。 ワニが笑ったようだと言えばワニが気を悪くするだろう。 『殺しちゃいませんよ。 接舷している我々の船に移ってもらっただけです。 労働力と情報源は貴重ですからね。』 金谷さんのこめかみに血管が浮かぶのが見てとれた。 『さて、もっといたはずですが、他の人間はどうしたんです?』 オレたちが答えるはずもない。 『まぁ、まだあの部屋にいるんでしょう。』 そう言って、後ろの兵に合図すると、一人を残してオレたちが来た通路に消えていった。 ヤツがにやつきながら金谷さんの前に座る。 懐から出したタバコをくわえる。 『あなた方の作戦はとうにお見通しだったんですよ。 兵を送り込むつもりが逆に送り込まれていたわけですな。 そもそも日本の自衛隊が...』 タバコをくゆらせながら自慢げにしゃべっている。 好きになれないタイプだ。 その間にオレはあることを思いだして小声で天野さんに聞いてみた。 「天野さん、最近ぐっすり寝てます?」 天野さんはオレの言わんとしていることをすぐに理解した。 『悪いけど、アレはまだ完成してないんだ。』 すまなそうに言うが、実際あの技があれば目の前の二人など簡単にのしてしまえるだけに残念だ。 そうこうするうちに兵隊たちが戻ってきた。 ここは他の通路より少し広いが、それでもオレたちとヤツらで一杯になる。 『ずいぶんいますね、見せしめに2,3人減ってもらいましょうか。』 ヤツが脅しとも本気ともつかない声で言うと、銃を抜いてこっちに来る。 『誰がいいでしょう? そうだ、私を陥れようとしてくれた、あなた。』 銃口がオレを向いた。 なぜか恐怖よりくやしさが先に立つ。 ヤツを睨みつけた。 そんなオレの反応に満足したのか、ふいに銃口を後ろに向ける。 『それとも、あなた。』 銃口はタカヒロ・Iさんをさしていた。 『やめろ!』 金谷さんが怒鳴る。 『じゃぁ、あなたですね。』 そう言うや、金谷さんに狙いを移してトリガーを引き絞る! 弾は出なかった。 『おや、これはあの時の芝居のですか。』 ヤツも少し驚きながらも納得する。 たぶん、あの水島さん(軍服)から奪ったのだろう。 『ふん、ま、いいでしょう。』 興醒めしたのか、弾の出ない拳銃をポイとほかると、兵に前進を命じた。 オレたちは前後を数人の兵に挟まれて通路を歩き始めた。 しかし、みな目配せして確認しあっていた。 オレたちが元々三人足りないことを。 ≪つづく≫ |