ジブリの森美術館


 

 井の頭公園の一画に宮崎駿が三鷹の森ジブリ美術館をつくった。もしかするとテーマパークを作るのだろうかと半ば心配していたけれど、行ってみると、かつて宮崎制作高畠監督で作られた「柳川堀割物語」を思いだした。「となりのトトロ」のヒットを世の中に還元したのが「柳川堀割物語」だったように、きっと「もののけ姫」の結果をこどもたちに返そうとしたのがジブリ美術館だったのだと思ったからだった。

「柳川堀割物語」は、行政組織に属する個人がどれほどの人を動かし、力を集められるのかということを描いたドキュメンタリーだった。
 福岡県柳川市の水路を地下に埋設してしまおうという計画が進められて国の補助金まで決まっていたのだが、市の課長がそれに疑問を感じて市長に中止を提案すると、市長は、6ヶ月の時間をやるから人を説得できるだけの計画を作ってみろという。課長は、その間に住民の中に賛同者を増やしてゆき資料をつくりあげた。それに対して市長は補助金を返上し計画を見直すことでこたえ、市民は自ら参加して定期的に堀を点検、監理するシステムを復活させる--という物語だ。東京をはじめとする大部分のまちは、川や堀を埋めつくして道路をつくり、あるいは高速道路を走らせて町を台無しにして、二度と回復できないようにしたけれど、柳川 では堀が生きたものとして残された。この近くでも、飯田橋では東京都の手で江戸城の外堀が埋められ、あとにはマンションがつくられた。

 柳川のひとたちと彼らの成し遂げたことを伝えるために大ヒットの成果を使ったのと同じ志で、ジブリ美術館は作られている成果を誇るためではなくアニメーションと映画の楽しさを、ひたすら伝えようとしている。ジブリのすべての作品の絵コンテが各作品10冊ほど置いてあって、手にとって自由に見られる。下書きのスケッチを書いた紙が、画鋲で壁の上に無造作に止めてある。さわらないで、持っていかないでとも書いていない。営業的にはむずかしいという短編専用の小さな映画館をつくった。屋上にはラピュタの巨大なロボットがいる。立体のネコバスが何十匹も、連続動作をして回転しているのを点滅するライトで照らして、立体アニメーションにしてみせる。

 アニメアーションそのものは単なるメディアに過ぎないことはいうまでもないが、アニメーションも映画も、実はそれ自体がたのしいだろ、とこの美術館は言っている。だから、ここではネコバスやトトロは実のところアニメーションの手伝いをしているにすぎない。建築は容れものに過ぎないのだと理解したうえで、それでも建築そのものに面白さと力が潜んでいるはずだと勇気づけられもした。

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