ピッコリの怒り:Piccoli in Anger

石上特派員


1900.8.29  PICCOLI isigami

1. 7月9日、TVのスポーツニュースを見ていたら、ちょっと変わった光景が映っていた。
アビスパ福岡のピッコリ監督がスタンドに近寄って、最前列近くのサポーターに向かって、大きなジェスチャーをまじえ何ごとかを怒鳴っていた。それも、すぐに例のカントナの「カンフー事件」を思い起こさせるほどただならぬ雰囲気が感じられた。これは7月8日に日本平で行われた清水エスパルス - アビスパ福岡戦の試合後の出来事である。

2. 翌日の新聞を読んで確認すると、ピッコリ監督によれば、一部の清水サポーターが、試合中からさかんに、ピッコリ監督に向かって「ハゲ、帰れ!」を繰り返していたというのだ。22歳でアルゼンチンから日本にやってきたピッコリ監督は、日本語も当然聞き取ることができる。

3. 面白いのは「これが大人なら諦めるが、子供達だから教えてやろうと思った」というコメントだ。何を教える?「サッカーというものは、(汚いことをしたり、汚い言葉を浴びせまでして)勝ちさえすれば良いのではなく、<楽しみ>であり、<喜び>なんだ、ということを」。

4. 清水という町は、誰もが知っているように、日本のなかでは飛び抜けてサッカーが普及している町だ。Jリーグの選手もいちばん多く輩出している。だがまた僕の知る限り、日本の中でも第一級の「がらの悪い」都市でもある。次郎長とかやくざの話ではない。一般市民の「がら」のことだ。だからこういうガキどもがいても、当然なのかも知れないと思う。

5. とは言っても、この「事件」は、とても情けない、つらい感じがして、簡単には忘れられなかった。何がって、ピッコリ監督に怒鳴られたガキどもはともかく、同じピッコリに「諦め」られている日本人の大人達のことが。

6. 「身体を張って」ヤジをとばしたりしているアホなおやじならまだいい。問題は、ピッコリに怒られる前にガキどもの言動を制することができなかった少年の家族や周囲にいた大人達である。見過ごしてしまえば何ということはないような、自分とは
関係の薄い清水の少年に向かって本気で怒っていたピッコリの顔と、こういう場面では(どういう場面でも?)いつも知らん顔の日本人が対照的に眼に浮かぶ。

7. ピッコリというなかなか面白いキャラをもつ監督から学ぶべきは、サッカーだけではなかったようだ。そして清水の少年や福岡の選手よりもむしろ、われわれ日本人の大人が学ぶべきことが多そうだ。

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