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エイを踏んだら

 その日は、よく行っているサーフポイントに一人で行きました。
連日30度を超える猛暑で、天気もよく、水着のみのリラックスしたスタイルでのんびりサーフィンをしていました。

 セットの間隔に、ちぎれて浮かんでいる海藻を眺めたり、空を見上げたりしていて、ふと手元に浮かんでいた枯れ葉を何気なく取ろうとすると、すっと逃げます。ちいさな熱帯魚でした。
ああ、暑いから熱帯魚もこんなところまで来ているんだと思うと、なんだかうれしくなりました。

 その後、インサイドでボードから降りて、片足で地面を蹴ろうとしたとき、何かクラゲのような柔らかいものを踏んでしまいました。いや、クラゲが海底にいるわけないよな。いやな予感がし、とっさに足を引っ込めようとした瞬間、激痛が!
 いってえ!!思わず叫んでしまいました。クラゲはこんなに痛くない。ああ、エイだ、絶対エイだ。毒だ、毒がある。

 エイに刺されたのは初めてでしたが、刺された人の話は聞いた事があったし、別のビ−チでサーフィンした時にエイがいたという話も聞いた事がありました。とにかく毒がある事は知っていたので、すぐに海から上がりました。
 刺された右足の甲が少しぴりぴりしていました。応急処置はどうすればいいんだろう?一人で考えても分かりません。傷口を見ると、あまり血が出ていません。
 とにかく毒を吸い出せば効果はあると思いました。自分で吸ってみようかと思いましたが、奇妙な格好になるだけで、届きません。一人で来ていたので、そこら辺にいる知らない人に「ちょっと足の血、吸ってもらえませんか?」とは言えません。手で血を絞り出すと、激しいビリビリ感がありましたが、我慢して血を少し押し出しました。

 病院は、ちょうど昼休みだったので、診察までしばらく待っていると、痺れがだんだんひどくなり、膝から先は全体が痺れ、お腹に力をいれて我慢する時間が続きました。この痺れはじっと座っているとひどく、歩いたりして足に力を入れている方が和らぎました。
 診察を受け、血を絞り出したのは正解だったようで、本来はもっと痛いはずだと言われました。また、熱帯魚も触ると毒があるヤツもいるぞと言われ、触らなくて良かった、と思いました。
 診察をしてくれた先生は、面白くて元気のいいおじいちゃんで、なんで刺されたと聞かれたので、踏んづけたと答えたら、「かわいそうに!」(エイが)と言われました。そういえばかなり体重を乗せて踏んでしまった事を思い出し、エイも死にそうだったろうなと思うと、おかしくて元気が出ました。

 もらった薬を飲み、しばらくすると、激しい眠気(薬の副作用らしい)もあり、眠って起きた後は痛みは治まっていました。薬は数種類もらい、そのうち2種類は10日間飲み続けました。

 1ヶ月たった今では痛みは治まりましたが、刺された足の甲にはまだうっすらと跡が残っています。

 実はこの2週間後も海で何か魚を「軽めに」踏んづけました。でも刺されませんでした。それが何だったのかは分かりませんが、ひょっとしたら、エイも軽めなら怒らないのかも知れません・・・・

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