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「ダブルキャスト」ショートストーリー
(無題)
作者・主人公
その後のダブルキャスト。
文化祭が終わり早一ヶ月。
僕と志穂はあの事件の後同棲生活に戻り嬉し楽しい生活を送っている。
「異性とかを意識して気まずい中になりたくない」
との美月の意思を尊重して、僕らの日々の生活態度は以前とあまり変わらない。
しかし完全に恋人同士になったわけで、全くいちゃついていないというわけでもないけど。
志穂は僕の行く大学の学生ではないので映画の撮影が終わった後、前のように映研に通うことはなくなった。
部長曰く志穂ほどの主演女優を手放すわけにはいかないと言うので今では準部員扱いをされている。
平日はアルバイト、休日には映研に訪れて差し入れを持ってきたりしているのだ。
「はいどうぞ」
「あっ、サンキュー」
夕飯を食い終わり志穂がお茶を入れてくれた。
可愛い恋人と過ごす午後の一時、ほんの数ヶ月前には思いもしなかった幸せな時間。
志穂もこのごろ女性らしい一面が強くなってきた。
前みたいに自分のことを「僕」ではなく「私」というようになったり。
本来彼女は多重人格になるまでは女らしい面が強い女性だったらしいけど、
美月の人格が眠りについた今、元の感覚に戻り始めているのかもしれない。
まあ、志穂は少しボーイッシュだっただけで初めて逢ったときから十分女性的だったけど。
しかしこっちも少しは意識してしまう。
以前と違った色香みたいなものが、男心をくずぐると言うか何というか・・・・・・・・・・・。
プルルルルルルルルルルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・・・・。
電話の着信音、僕が立ち上がろうとすると志穂が立ち上がり代わりに受話器を取った。
「はいこちら、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何だろう志穂、急に黙って。
「どうしたの?志穂・・・・。」
僕が彼女の元に近づくと志穂は顔を青ざめながら僕に受話器を渡した。
「はい、代わりまし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
受話器のむこうで聞こえてくる声で僕は背筋が凍る思いがした。
「おっおじさん・・・・・・・・・・・・・・・。」
おじさんとはこのマンションの部屋の本来の住人。
「おい、さっきでてきた女の子誰だ?」
おじさんの言うこともそっちのけで僕は志穂と顔を見合わせながら互いに青ざめていた。
大変だー。
僕と志穂はとにかくあわてた。
おじさん夫婦が三日後旅行から帰ってくると言うのだ。
正直言って二人の存在はここ数日間すっかり忘れてた。
おじさんたちの寝室は使わなかったとはいえ近頃は何かと志穂の生活用品なども増えてきて、
もし今おじさんたちが戻ってきたら「ここで同棲してました」なんて言った状況を
一目瞭然のもと二人にさらけ出すことになってしまう。
電話も友達が来ていたという事で何とかその場をしのいだが、後三日のうちにどうにかしなければならない。
部長に電話で以前志穂を泊めたマンションが借りれるかどうか聞いてみたが断られたし、二村には観念しろと言われた。
今から新しい住処を探すとしても時間が無さ過ぎる。
数時間経過して、僕も志穂も再度お茶をすすっていた。
十分あわてた、後は今後どうするかを考えるだけだ。
僕も志穂もいざとなったらどうにかすることができる、おじさん夫婦が戻ってきたら志穂もここに居られなくなる。
でも僕は彼女と離れるつもりはない、そのときは一緒にどっかに行くとして、
あとはおじさんたちにどうすれば同棲生活がばれないようにするかということ。
ピンポン
インターホンの音が鳴り僕は玄関へ歩いた。
「誰だよこんな時に・・・・・・・・・・。」
玄関を開け、来訪者の顔を見る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「おっおっおじおじ・・・・・・・・・・・・。」
僕の目の前に立っていたのは紛れもなくおじさんだった。
なんで、なんで、なんでー。
「なんで、おじさん帰ってくるのは三日後だって・・・・・。」
あわてふためく俺を見ておじさんはにやっと笑っている。
その表情にはいかにも「してやったり」と言った感情が見て取れる。
だましたなー!!
「お前があまりにも驚いているみたいなんでな、もしかしてと思ったんだ・・・・・・・・・・
お前、この部屋で彼女と同棲してたな。」
「なっなにを証拠に。」
僕はあがいた、とにかく無駄に何かとあがいた。
「そこにあるスリッパがその証拠よ。」
叔父の背後で口に手を当て笑っている叔母が居間の入り口にある志穂のスリッパに指さした。
しっしまったー、お揃いで買ったスリッパだー。
「ふっふっふっふ、お前もなかなかやるな・・・・・。」
そう言うと楽しそうに俺の顔をのぞき込んだ叔父は靴を脱ぎ叔母と一緒に居間へと駆け込んだ。
豪快だあまりにも豪快だ。
「初めましてお嬢さん。」
ものすごい勢いで叔父が居間の戸をあけると志穂はすでに立ち上がっており、叔父夫婦に挨拶をしていた。
この日の夜は大騒ぎだった。
おじさんに無理矢理居酒屋に引っ張り込まれすでに宴会状態に突入していた。
おじさんは俺に無理矢理酒を飲ませ、おばさんは志穂と楽しそうにおしゃべりしている。
おじさん夫婦は豪快で些細なことに動じないような心が広い優しい性格をしている。
分かりやすく言えば部長と剛田先輩が夫婦になった感じだ。
「実を言うとな・・・・・・・・・・俺たち昨日日本に戻っていたんだ。」
え、今日じゃないのか?なぜ昨日のうちに帰ってこなかったんだろう・・・・・。
「マンションの前まできてみたらベランダにお嬢ちゃんが洗濯物を干していたんでな・・・・・・・・
様子を見ていたんだよ。」
「協力者から志穂ちゃんのことも聞いていたし、お前をだますのもおもしろそうだったし。」
協力者?だれだそれ。
おじさんにそのことを聞くと、後ろからジョッキを持った手が伸びてきた。
「私よ私。」
「ぶっ部長!!」
その部長の隣には、二村!!
知らなかった、部長とおじさん面識があったのか、そう言えば家のマンションの経営者部長の所の会社・・・・・・・。
そうか全てはこの二人のたくらみだったのかー。
宴会も終わり僕も志穂も叔父より先に家路についていた。
おじさん夫婦は当分部長の用意したマンションに住むことになった。
初めは今のマンションを僕たちに譲り二人はそのマンションで暮らすことになっていたが、僕は断った。
今のマンションは元はおじさんたちのものだし、
部長が用意したマンションも部長が提供すると言った事になっていたみたいだった。
そこまで甘えるわけにはいかない。
志穂もそのつもりだったらしく、近いうちに二人でアパートを探して引っ越すことを叔父に告げた。
公園、あまりに飲み過ぎた僕は途中でダウン、公園のベンチで休むことにした。
志穂の膝枕でベンチの上で眠る僕、志穂はそんな僕を見て笑っていた。
「どうしたの?」
「ん、あなたと初めて逢ったときのこと思い出して・・・・・・。」
「そうか・・・・・。」
僕もあの時のことを思いだした。
あの時新宿で今と似た状況で志穂と出会い、そこから今の全てが始まった。
そして今、新しい二人の暮らしが始まろうとしている。
ただ住処を変えるだけのことだがそのことがすごく特別なことのように感じた。
「コーヒーでも飲みに行く?」
僕は立ち上がり志穂にそう聞くと彼女は笑いながら答えた。
「そこの支払い出世払いと言うことで・・・・・・・・。」
互いに笑いながら公園を後にした。
これからの人生何かと新たな出発みたいな事が起きるだろう。
その道を共に歩くパートナーが今自分の目の前にいる。
時たま思うが美月(姉の方ではなく記憶喪失の時の美月のこと)と初めて逢ったとき、
彼女は自分の側にいてもらいたい誰かがほしかったのではないかと思う。
結果的に彼女を家に勧めたのは僕だが美月からもそのように事を運ばせようとしているようなところが感じられた。
それがなぜ僕なのかはいまだに分からないが。
ただその結果が今のような関係を作っているわけで、世の中何が起こるかは誰にも分からない。
そんな当たり前のことがなぜかものすごく不思議に思える。
この先、志穂とどこまで同じ道を歩くことができるか分からないがとにかく行けるとこまで行こうと思う。
今は歩くことができるのだから。
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