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風が辺りを駆け抜ける……
花びらが舞う……
暖かい日の光……
春の訪れ……
「……。」
私は見上げる……
木漏れ日に目を細めながら……
「姉さん……。」
思い出桜は美しい花を咲かせていた。
「季節を抱きしめて」ショートストーリー
「思い出桜に願いを込めて……」
掲載許可番号raln0005
作:ERICA.A
1
「『桜井 麻美』です。みなさんよろしくお願いします。」
「ヨロシク!」
「こちらこそよろしくね、麻美ちゃん。」
新たなる仲間に沸き上がる部員達……。
そこに生まれる数々の会話……。
ボクはその様子を遠巻きに見ていたのだが……、
「先輩! お久しぶりです!」
麻美はボクに気付くと駆け寄ってきた。
「やあ麻美ちゃん、久しぶり。元気してた?」
「はい。先輩は……なんかお疲れの様ですね。」
麻美の笑顔が彼女と重なる……。
(……麻由……。)
「? 先輩、大丈夫ですか?」
(心配性なのは麻由と似てるな……。)
ボクはそう思った。
「いや、一年前のことを思い出してね……。」
一年前、そう、ちょうど今のように桜が咲く頃……、
ボクは麻由に出会った。
二人で過ごした記憶探しの日々……。
突然の別れと、思いがけない真実……。
悲恋桜の精として魂を縛り付けられた『桜井 麻由』……。
そしてまた、悲恋桜の呪縛に飲み込まれようとしている妹『麻美』……。
悲恋桜の怨霊伝説……。
それは真実ではなかった。
呪いの椿伝説……。
これが全ての元凶……、呪縛……。
ボクは悲恋桜……いや、思い出桜の呪縛を解くことが出来た。
そして麻由と約束した……。
「ありがとう……その真実をこれからも伝えて下さい……。」
今年、ボクは悲恋桜に詳しい教授の力を借り、『思い出桜研究会』というサークルを作った。
そして春……。
ボクと同じ大学に入学した麻美がこのサークルにやってきた。
「やっぱり姉さんの事、忘れられないんですか?」
「……あっ、ごめん。聞いてなかった……。」
ボーっとしていたボクは、麻美の話を聞いてなかった。
「いえ、ただ疲れているみたいだから大丈夫ですかって……。」
「ありがとう、うん大丈夫!」
麻美の気遣いがとても嬉しかった。
「や、やばいっ!」
時計を見るとバイトの時間が迫っていた。
「みんなゴメン! バイトだ〜!」
ボクは慌てて身支度を始める。
「え〜!」
「また〜?」
「部長のくせして活動サボるな〜!」
部員からの非難の声。
「頼む〜。今日、原稿〆切なんだ。
今、編集長と話を付けていて、うまくいけば次のタウン誌に思い出桜のページが取れそうなんだ……。
だから今日、原稿上げないと話がパ〜に……。」
ボクの悲痛の叫び。
だが、実はこの話には若干嘘も含まれる……。
タウン誌は無料配布なので、大学からの広告料が取れれば……との条件付きでもあるが……。
「先輩のアルバイトって何ですか?」
麻美は部員の一人に聞いた。
「部長のバイト? 彼ね、タウン誌の記者してんだって。なんでも叔父さんが編集長とかで……。
ここ連日なのよね……。徹夜らしいし……。」
「そうなんですか……。」
「それじゃあ!」
ボクは部室を出るとバイト先に向かった。
2
「はぁ……。私、先輩のこと好きなのにな……。」
私は思い出桜を見上げていた。
「姉さん……、死んでから未練がましく告白なんかしないでよ……。」
私の魂を悲恋桜の呪縛から助けようと姉さんが融合した事は、私もよく知っている。
そして、先輩と麻由の過ごした日々も……。
「好きです……か……。」
姉さんがまだ生きている時、アルバムを見せてもらった。
あの時から……あの時からだ……。
先輩を見つけてあこがれを抱いたのは……。
「姉さんに……どうしたら勝てるかな……。」
私は思い出桜を後にした。
3
「せんぱ〜い!」
廊下の向こうから麻美が走ってくる。
「あっ、麻美ちゃん! 走ったら危な……。」
「キャッ!」
ボクが言い終わる前に麻美は足を滑らせた。
間一髪、ボクが抱き留めたので転ぶことはなかったのだが……。
「ふぅ。大丈夫、麻美ちゃん?」
「……。」
麻美は無言のままボクにしがみついていた。
「あの……、そろそろ放してもらえるかな……。」
「……あ、す、すみません先輩。」
慌てて麻美はボクから離れた。
「この大学ってさ、雨の降った日は廊下が凄く滑りやすいからね……。気をつけた方がいいよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「ところで何か用があったんじゃないの?」
ボクは麻美に聞いた。
「そうだ、先輩! 教授、何処にいるか知りません?」
「教授って……、あ、うちのサークルの特別顧問の?」
「はい。だって先輩が今度の研究発表会の日程を伝えてくれって言ったじゃないですか。だから……。」
ボクは腕時計に目をやった。
「5時を過ぎてるか……。それじゃあ大学内にはいないな……。」
「え〜!」
麻美は相当大学内を探し回ったらしい。
「ごめん。ボクが麻美ちゃんにそのこと言うの忘れてたせいで……。」
「本当ですよ。でも先輩? 先輩は教授のいる場所、知ってるみたいですね。」
(す、するどい……。)
「ま、まあ……。」
「何ですか、その『ま、まあ……。』って?」
ボクとしてはまさか……、
「教授は『喫茶匹季』にいるよ!」
……とはさすがに言えない。
「もう、先輩! 知ってるんでしょ! じゃあ行きましょう。」
麻美がボクの腕を引っ張っていく。
「あっ、ボクがちゃんと伝えておくから麻美ちゃんはいいよ……。」
「同じことがこの先あるといけないので教えてもらいます!」
ボクはこの時、麻美のトモコ並の迫力に負けた。
ボロロロ……ババババババ……
「先輩! どこ行くんですか?」
後ろから麻美が聞く。
「……。」
女の子とバイクの二人乗りしているのは非常に嬉しいのだが……。
(これから匹季に行くんだよな……。)
ボクの苦悩が果てしなく続く。
「どこ行くんですか?」
麻美が執拗に聞いてくるのでボクは仕方なく答えた。
「……喫茶店。」
(どこ行くんですか?……か……。)
「その制服だよ……。」
ボクはその言葉を口にしていた……。
4
「……あっ、先輩だ……。」
私は姉さんのアルバムを見ていた。
姉さんと先輩……、二人して仲良く写っている……。
(いつからだっけ? 先輩を好きになったの……。)
あまりよく覚えていない。
だって……、今はいつもそばに……。
「ずるいよ……姉さん……。」
気がつくと外からの月明かりが辺りを包んでいた。
「……あれっ!」
時計の針はいつの間にか10時を回っていた。
「あ〜あ、いつの間にか寝ちゃった。」
(夕食は友達と外で食べたから……。)
私は立ち上がるとバスルームに向かった。
「んー、気持ちよかった!」
タオルで髪を拭きながらバスルームを出る。
「パジャマ、パジャマ……。」
クローゼットの引き出しからスウェットの上下を取り出すとそれを着る。
「……あ……。まだ出したままだった。」
クローゼットの中の服に目がいった。
「……先輩、これ見たら何て言うかな……。」
私は一人、そんなことを考えていた。
5
「ここって……?」
案の定、麻美は動揺の色を伺わせた。
「四季……?」
「いや、匹季……。」
さすがに女の子が来る所じゃ……ないよなと思う。
「多分この中にいる……と思うけど、どうする? 外で待ってる?」
「待ってるのもちょっと……。」
麻美の顔が少しひきつっている。
「……思いっきり裏通りだもんな……。」
ボクは腕時計を見た。
6:30 PM
まだ時間的には早いが危なそうだ。
「……じゃ、行きますか……。」
ボクと麻美は店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ! ご注文は?」
「とりあえず、ミックスサンドにストロベリーシェイクを2つずつ。」
「はい、ミックスにストロベリー2つずつお願いしまーす!」
ゴクッ! ゴクッ! ゴクッ! ……
「はー、疲れた〜!」
ボクは出された水を一気に飲み干した。
「もう! 本当ですよ! 先輩、もうあそこには二度と行っちゃ駄目ですよ!」
麻美が言うのも頷ける。
二人で匹季に乗り込んだまでは良かったのだが……。
完全に出来上がっていた教授に絡まれるは、知り合いのお姉さんに捕まるは……。
何とか隙をついて脱出した僕たちは『喫茶四季』に逃げてきた。
「随分と遅くなっちゃったね……。」
時計は10時を刻もうとしている。
「本当ですね。」
遅い夕食を過ごし、僕たちは帰路についた……。
「今日は大変な1日だったね……。」
「私は二度とごめんです。」
「まったくだ……。」
小さな笑いが夜の中に溶けて消える。
「送ってくれてありがとうございます、先輩。」
「別にいいよ、これくらい。」
「そうだ! 先輩に見せたかった物があるんですけど……。上がっていく時間あります?」
麻美が突然そんなことを言うのでボクはビックリした。
「えっ! こんな時間に女の子の家に? それも一人暮らしじゃ……。」
戸惑う。
「構いませんよ。さ、どうぞ!」
結局ボクは流されるまま、麻美の家にお邪魔した……。
6
「先輩、適当にくつろいでて下さい。私、ちょっとシャワー浴びて、着替えてきますから……。」
「え、あ、ま、麻美ちゃん?」
一人取り残されたボクは……。
「何をしていればいいの?」
仕方なくテレビを失敬してチャンネルを回すが……。
……ビッ!
面白い番組は一つもなく、電源は消された。
「さて、ボクはどうしたらよろしいのかな……あれ?」
テーブルの上にあったアルバムに気が付き、手に取ってみた。
「……あ、ボクだ……。」
1枚の写真に目がいく。
(……麻由とのツーショット……。いつのだっけな……。)
「せんぱーい、見せたい物があるから隣の部屋に来て下さーい!」
麻美の声に少し驚いたが、ボクは立ち上がり隣の部屋に向かった。
……トントン
ドアが閉まっていたので、一応礼儀としてノックする。
「しつれ……!」
ボクの胸が高鳴るのがわかる。
手の汗を感じる。
見覚えのあるあのクリーム色のブレザー。
紺色のスカート。
そして……、そして桜の花のエンブレム……。
「……麻由!」
ボクはその名を叫んでいた。
いるはずのない、彼女の名前を……。
「……やっぱり……、やっぱり姉さんの事……忘れられないんですか?」
そこには制服を着た麻美が立っていた。
「……麻美……ちゃん?」
薄明かりの中に麻美はいた。
「先輩、私、先輩のこと好きです。ずっと……ずっと前から……。なのに先輩、姉さんのこと、まだ……。」
麻美は泣いていた。
いや、泣き続けてきたのだろう。今の、今まで……。
「麻美ちゃん……。」
「先輩、私じゃいけないんですか? 私を好きになってくれないんですか?」
麻美の気持ち……それはずっと前から知っていた。
『麻美……妹ね、あなたのこと好きみたいなの……。』
麻由との思い出の最後の1ページ……。
永遠の別れ……。
悲しみに潰れていた日々……。
そして出会い……。
別れ……。
……麻由……。
「先輩が……私を助けてくれたの……すごく嬉しかった……。でも……でも、もしそれが姉さんのため……だと……。」
ボクは麻由を助けたかった。そして麻美も助けたかった。
呪縛に捕らわれた姉妹を……助けたかった……。
「私、先輩とずっと一緒にいたい……。」
あの雨の夜、ボクは麻由に告白した。
「ボクは……ボクは麻由が好きなんだっ! 麻由が大好きなんだっ!」
今はもう麻由はいない。
いや、もとに戻っただけ……永遠の別れに……。
でも……でも、前とは違う何かがある。悲しみに潰れた日々とは違う何かが……。
「……麻美ちゃん……、確かにボクは麻由が好きだった。いや、これからも好きでいるかもしれない……。」
麻美は黙って聞いていた。
「実はさ……麻由が事故で死んだ時、ボクはさ……はっきり言って『生きる屍』やってたんだ……。
あまりにも悲しくて……。」
麻美は何も言わない。
「事故の直前まで一緒にいたんだ……。もし、あの時1分1秒でも長く麻由と一緒にいたら……ってね……。
そんな悲しみがどれくらい続いたかな……。よく覚えてないけど……あの時、ボクは親友に助けられた……。」
二人の視線が交差する。
「そして麻由はまた……二度と会えない所に行ってしまった……。
でもさ……前とは違うんだ……。今は……。麻美……君がそばにいるんだ……。麻由が……そばにいる気がするんだ……。」
「私は……姉さんの……姉さんの代わりじゃない!」
「……わかってる……。麻美の気持ちも知ってた……。ずっと前から……。」
「それなら……なんで私を見てくれないんですか?」
「……ボクは怖かったのかもしれない……。あの悲しみに満ちた日々に戻るかもしれない恐怖に……。
それを……それを……認めたくなかった。麻由が……いてそばにいてほしかった……。
だけど……そう、だけど麻由はもういない。『桜井 麻由』はもういない。
ここにいるのは……ボクの目の前にいるのは『桜井 麻美』だ。麻由じゃない。」
ボクは麻美を抱きしめた。
「いつか……いつか必ず……ボクの本心を麻美に伝えるよ……必ず。だから……待っていてくれないか?」
「私……姉さんに負けませんからね……。だから、先輩も負けちゃ駄目ですよ。臆病な自分に……。」
「約束するよ……。必ず……。」
7
「せんぱーい!」
麻美の声が聞こえる。
「先輩! 遅れちゃいますよ、集合時間!」
「……ん。あ……あぁ。思い出桜の下って、寝心地がいいんだよな……」
眠い目をこすりながら大きな欠伸をする。
「そんなこと言ってないで、早く、早く!」
「……ふぅ。」
「もう! のんきなんだから!」
いつもと同じように過ぎる日々……。
やがて変わる新しい季節……。
そして思い出……。
「ほら、先輩! 急いで!」
麻美が向こうで呼んでいる。
ボクは……まだ一歩を歩み始めたに過ぎない……。
「行くか!」
ボクは立ち上がった。
そう、あの子との新しい一歩のために……。
……思い出の桜の樹の下から……。
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