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「ダブルキャスト」ショートストーリー

止まった時間〜別章〜

作者・TOM
「なあ、二人で行きたい場所があるんだけど付き合ってくれないか?」。

真剣な顔で、そんな事を俺が言い出したのは、彼女との結婚式があと数週間に押し迫ったある日の夕方だった。

「いいわよ。別にこれと言った用事も無いし…。そーだ!!、ついでに夕食も食べてきちゃいましょうよ」。

いいアイディアを思い付いたとばかりに笑顔でそんな事を言う彼女。

これから歩む、彼女との人生の為にも…このケジメだけは、はっきりとつけなければ…。




大学の近くの花屋で、白いユリを1輪買う。

何年ぶりだろう、ここに来たのは…。

まして自分の婚約者と、二人でここに来るなんて…当時では予想も出来なかった事だ。

今も、ここの噂は大学で語り継がれているのだろうか…。

ここで起きた真実は、どんな噂にも負けないほど衝撃的な出来事だった。

そう、どんな噂もこの真実にはかなわない。

進入禁止の立て札を脇へどかし、俺と彼女は運命の屋上へと登っていく。



当時の事が、走馬灯の様に頭の中に蘇る。



俺は、今まさにバランスを失い屋上の手すりから落ちようとする美月を確かに捕まえた。

助けたと思った。助けなければいけなかった。助けを求める美月、そしてあの時、美月を助けられるのは自分だけだった。

しかし、美月は俺の手から離れていった。助けを求めながら、そして助けられない俺を嘲笑いながら…。

俺はただ呆然とするだけだった。




その時から、私の時間は止まったままだった。

しかし今は違う。美月、君を追い掛けるためでは無く、君とのお別れを言いに来たんだ。



階段を上り終えると、忘れ様も無い風景が目の前に広がる。

あの時の蒼い月の代わりに今は真っ赤な夕焼けが俺達を迎えてくれた。

私は、ゆっくりと足を進めた。そして手すりから下を覗き込む。

そう、まるで落とし物を探すかのように、忘れ物を探すかのように…。

真っ赤な夕日が、向かいの校舎のガラスに反射してよく見えなかった、しかし俺はどうしても探し出さなければいけなかった。

それを見つけなければ、きっと俺の時間は動き出さないだろう。

気がつくと俺の体は手すりを乗り越え校舎の縁に立っていた。心配そうにこちらに駆け寄ってくる彼女が目に入った。

「大丈夫だよ」と目で語り、また下を覗く。さっきよりもよく見える気がする。

さっきよりも近づいた様な気がする。もっと近づけば、何か見つかるかもしれない。

彼女の声が聞けるかもしれない。

その時、風が俺の背中を押した。

いや、風ではなく美月の思いが背中を押したのかもしれない。

「あっ!!」。

悲鳴と共に差し出された、彼女の腕が無ければ落ちていただろう。そのときの俺は、全く体に力が入っていなかった。

ちょうどそのとき、忘れもしないあの美月の声が聞こえてきた。

「もう大丈夫そうね、あなたの時間は動き出したわ。そして、わたしの時間も…」。

そう、あの時の俺とは違う。

これからはこれからは待っている人がいる、帰るべき場所もある。

俺は、そんな声に答えるかのように真っ赤な空に真っ白なユリを捧げた。




「ありがとう…。これからもよろしく」。













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