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「ダブルキャスト」ショートストーリー
〜SCENE零 ラセンノヤサシサ〜

作:芥



「それじゃあ、お大事にね。志穂ちゃん」

「はい・・・ありがとうございました・・・・・・」

パタン

診察室から志穂とよばれた患者が出ていく

そしてそれと入れ替わりに一人の看護婦が診察室の中に入ってきた

「・・・・・・ふう」

「大変な患者さんですね、森崎先生」

近くにいた看護婦が話しかける

「ええ、でも何とかしてあげないと、今のままじゃ志穂ちゃん、あまりにも可哀相だわ」

「あの・・・」

こんどは今入って来た看護婦が尋ねてくる

「今の患者さん、そんなに大変なんですか?」

「ああ、あなたはまだ来たばっかりだものね、よく知らないのも無理ないわ。」

「はい、なんでも人格が分裂してしまったという事ぐらいしか・・・」

「そう、今の患者さん、赤坂志穂ちゃんは元の志穂ちゃんの人格と、

姉の美月ちゃんの人格とにわかれてしまっているの」

「お姉さんの人格に・・・ですか?」

「そうよ、姉の美月ちゃんは生前、ひどい男に裏切られて男性不信になってしまった の。

そして、美月ちゃんは志穂ちゃんに同じ思いをさせまいと、

志穂ちゃんが男の子と話たりするのを見かけるたびに、暴力的行為を行うようになっ た。

でも、志穂ちゃんも年頃の女の子ですもの。男の子とのお付き合いを止めたりできな かったのね。

その結果、美月ちゃんは最愛の妹にも裏切られたと思い、自ら命を絶ってしまった の」

「・・・・・・」

「その美月ちゃんの遺体の第一発見者が志穂ちゃん。

そして志穂ちゃんは、姉の死と、その姉から受けた肉体的虐待によって、人格が分裂 してしまった・・・」

「そんな事があったんですか・・・」

「ええ、でも・・・」

「・・・?なにか?」

「私が思うには、美月ちゃんが志穂ちゃんを男に近寄らせなかった訳は、

もちろん自分と同じ目に遭わせたくないという気持ちはあっただろうけど、それだけ じゃないと思うの」

「と、おっしゃいますと?」

「美月ちゃん怖かったんだと思う。男に裏切られ自分は男というもの信じれなくなっ ていた。

そして唯一信頼できる志穂ちゃんが男と付き合う事で、自分はいよいよ一人になって しまう・・・

男という存在が自分から志穂ちゃんまでも奪っていく。

その恐怖感と孤独感、恐らくそういうものも入り交じっていたと思うの」

「そして、その恐怖感と孤独感に耐えられなくなり自殺した・・・・・・」

「ええ、大体そんなところね・・・・・・ただ」

「?ほかにもまだ・・・何か?」

「・・・ねえ、あなたは志穂ちゃんを見ていてまるで美月ちゃんが憑依しているよう だと思った事はないかしら?」

ずっと黙って話を聞いていた看護婦のほうに振り返って尋ねる

「憑依・・・ですか?私にはよく・・・・・・先生は憑依をしている、とおっしゃる んですか?」

「いいえ、そうは言わないわ。ただ、美月ちゃんは意図的に志穂ちゃんの心の中に 残ったんじゃないか、

最近志穂ちゃんを見ていてそう思えてきたの」

「意図的に?・・・どういう事ですか?」

「志穂ちゃんと美月ちゃんは幼い頃に両親を亡くし、お互い助け合うように生きてき た。

暴力的行為をうけたりはしたけれど、

志穂ちゃんにとっても美月ちゃんっていうのはかけがえの無い存在だった思うの。

その大事な姉の死体を見たときの志穂ちゃんの心境・・・・・・どれほどショック だったかしらね

でも、美月ちゃんは逆に志穂ちゃんの心に傷をつける事によって、自分の存在を残そ うとした」

「そんなことって・・・・・・」

「もちろんこれは私の推測に過ぎないし、今となっては確かめることもできないわ。

でもね・・・・・・いいえ、いいわやめましょう。」

「・・・?」

「ともかく、志穂ちゃんはあの日以来、3つの夢を見るようになったらしいわ」

「3つの夢・・・どんな夢なんですか?」

「ひとつは美月ちゃんと楽しく過ごしていた頃の思い出の夢、

ふたつめは男に騙されてからの美月ちゃんに虐待を受けたときの記憶の夢、

みっつめが美月ちゃんの遺体を発見した時の夢。志穂ちゃんはこれらの夢のどれかを 毎晩繰り返し見るそうよ。」

「つまりは・・・どういうことなんですか?」

「志穂ちゃんは美月ちゃんから肉体的虐待を受けてうらんでいる。

そして、それと同時に姉の心の傷も知り、哀れんでもいる。

それに、今までずっと一緒に暮らしてきた姉だから、愛してもいる。

そんな姉を助けてあげられなかったことを後悔している・・・・・・

そんな心の葛藤がこの夢に現れてるんじゃないかしら・・・」

「それって・・・・・・患者さん、大丈夫なんでしょうか?」

「ええ、私もそう思って前に入院することをすすめたんだけど、志穂ちゃん断った の。

今日きた時、様子が少しおかしい気がしたから、今日もすすめたんだけど、やっぱり イヤダって・・・

無理にでもって思ったんだけど・・・本人がどうしても嫌だって言うから、仕方が無 くて・・・

心配だわ・・・志穂ちゃん、一人暮らしでしょう。せめて誰かそばにいてあげれれば ね・・・・・・

志穂ちゃんの心の傷を癒せる誰かが・・・・・・・・・」





志穂は一人たたずんでいた。

誰もいない屋上。強い風が吹きぬけている。

紅い夕焼けが沈んでいくのが綺麗に見える屋上。

だが、志穂の目は光を映していない。

「お姉ちゃん・・・私・・・・・・辛いよ、もう・・・・・・」

そういって一歩足を踏み出す。あと三歩も歩けばもう地面は・・・無い。

「ごめんね、お姉ちゃん・・・お姉ちゃんも辛かったんだよね」

さらにもう一方の足を踏み出す。

「私が・・・私が助けてあげなくちゃいけなかったんだよね・・・・・・」

さらにもう一歩・・・・・・

「ずっと・・・ずっと一緒にいたんだものね・・・一人じゃさみしいよね・・・・・ ・

私も・・・私もいくね・・・・・・お姉ちゃんのところに・・・・・・・・・」

そして、両足をそろえ、静かに体を前に傾けていく・・・『待ちなさい!!』

「うっ?!な・・・なに?お・・・お姉ちゃん?うっ・・・・・・いゃあああああ! !!」

張り裂けそうなほどの声で叫んだ、そして、次の瞬間糸が切れた人形のようにその場 に崩れ落ちた。

ほんの一瞬の出来事だった・・・

『志穂・・・・・・私のかわいい志穂・・・・・・

私は一人じゃない・・・私はあなたの中で生きている・・・・・・

だからあなたは死んでは駄目・・・私と生きていくの・・・・・・私とだけ生きてい くのよ、志穂

うふふふふふふ・・・

そうだわ・・・・・・あなた、一度男と付き合ってみるといいわ

そうしたら、男っていうのがどんなにくだらない生き物かわかるわ

可哀相ね、志穂・・・男なんかと付き合ったらさぞ傷つくでしょうね・・・でも大丈 夫よ・・・・・・

あなたは一人になんかならない・・・・・・私がいるわ、志穂・・・・・・

私は志穂の味方・・・・・・私だけが志穂の味方よ・・・・・・

うふふふふふふ・・・・・・

さあ、今は眠りましょう・・・・・・私と一緒に・・・・・・

あとは男がどんな酷い生き物か見てればいいわ・・・

男だったら誰でもいい・・・・・・男なんてみんな一緒なんだから・・・・・・

志穂・・・・・・男に裏切られるけど気にすること無いわ・・・・・・

その時こそ、二人だけで生きていけるんだから・・・・・・あなたは私だけのものに なるんだから・・・・・・・

私だけの愛しい志穂・・・・・・うふふふふふふ・・・・・・うふふふふふふ・・・ ・・・』





「・・・うん・・・・・・ん?あれ?」

気がつくと志穂は、見たことも無い街のなかに一人たたずんでいた。

「ボク・・・一体なんでこんなところに?そもそも・・・ここってどこなの?

それよりも・・・ボクは・・・・・・誰?

思い出せない・・・なにもかも・・・」

「・・・・・・・・・」

「でも、まあいっか!」

そういって志穂は元気よく歩き始めた

「そのうち何とかなるでしょ。ボクの記憶が無くても、ボクはここに存在するんだし !

・・・でも、ここがどこなのかぐらい誰かに聞いてみないとな、

ええと・・・誰か適当なやつは、と・・・・・・あれ」

ふと志穂の視線がごみの山に、いや、正確にはそこの上で寝ている一人の男に釘付け になる

「あ〜あ、あんなところで寝ちゃってるよ。

しょうがない奴だなあ、まったく。

仕方が無い、助けてやるとしますか!」


ダブルキャストが幕を開ける・・・・・・





















あとがき-芥-

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