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「ダブルキャスト」ショートストーリー
Rose letter・最後の手紙


作:芥



今年も夏が終わろうとしていた。

いつもなら何でもない季節の移り変わり。

でも、僕にとって今年の夏は、

永遠に続く物であってほしかった・・・





あれは夏休みが始まる少し前の出来事。

赤坂美月と名乗る少女と過ごした夏。

赤坂美月は僕の所属する映研で、主演女優を演じた。

彼女は僕と出会った時、記憶喪失だった。

そして撮影が始まってからも、身の回りでいろいろ不可解な事が起きるようになっ た。

でも、そんなことは関係なく、僕は彼女に惹かれていった・・・

やがて、撮影が終了し、ラッシュ映写の鑑賞をする事になった日、事件は起きた。

部室には、初め僕と部長と美月の三人がいたのだが、部長が急に二村に呼ばれ、

僕と美月の二人っきりで部室に取り残される事になった。

僕等はしばらく黙ってラッシュ映写を見ていたが、

僕はふと映像の中におかしい事があるのに気づいた。

そしてそのことを美月に伝えようとした瞬間だった―――

後頭部にものすごい衝撃を受けた。

倒れこみながらも、必死の思いで後ろを振り返ると、

鉄パイプを手にし、今まで見た事もない様な歪んだ笑顔で僕を見つめる美月がいた。

「美月・・・なぜ、僕を殴る・・・?」

美月はその問いには答えず、代わりに2撃目が僕の頭に振り下ろされた。

朦朧としていく意識の中で、美月の猟奇的ともいえる笑い声をはっきりと聞いた。

『殺・・・され・・・る・・・』

そう考えながらも、僕の意識は次第に遠ざかっていった。



目を覚ました時、僕は病院のベッドの上にいた。

側には、部長と二村が付き添ってくれていた。

目を覚ました時には、なぜ自分がここにいるのか分からなかった。

でも、二人から説明を聞くうちに、次第に思い出してきた。

「・・・そうだ!美月は!?美月はどうした!?」

僕のその問いに、二人は黙って首を横に振った。

「どういう意味ですか?!答えて下さい!部長!!」

「・・・美月ちゃんは行方不明だそうよ。」

部長はポツリとそれだけを言った。



3日後、僕は精神科の先生に呼ばれた。

殴られた頭になにか異常が見つかったのかと思ったのだが、そうではなかった。

話は美月の事だった。

森崎という名のその先生はすべてを教えてくれた。

美月は志穂さんだったという事、志穂さんのお姉さんの事、分裂した人格の事・・・

この3日間ずっと考えていた疑問が氷解していった。

話を聞き終わった後も、僕は暫くの間、何も言えずにいた。

「・・・あなた、今、志穂ちゃんの事を恨んでいる?」

「先生はどうしてこの事を僕に話したんですか?」

「え?そうね・・・あなたにはこの事は知ってもらう必要があると思ったから。

知ってもらわなければならないような気がしたから・・・」

「・・・・・・」

「それでさっきの質問だけど・・・」

「すいません。僕自身、今の自分の気持ちが分からないです。

ただ、恨んだりとか・・・そういう感情は全然ないです。

それだけは確かだと思います。」

「そう・・・実を言うとね、あなたが発見された時、

あなたの頭にはすでに包帯が巻かれていたの。」

「え!?」

「それに病院にも連絡が来ていたみたい。」

「それって・・・」

「ええ、多分そう。志穂ちゃんがやった事だと思う。」

「・・・・・・」

「あなたは良くも悪くも特別な存在だったのよ。

志穂ちゃんにとっても、美月ちゃんにとっても・・・・・・」



森崎先生の話を聞いた夜。

僕は夢を見た。

自分が意識を失った時の夢。

いや、夢じゃない。現実に起きた記憶の映像―――

あの時、不意に笑い声がやんだ。

しばらく沈黙が続いた。

そして僕を呼ぶ声が聞こえた、いつもの美月の声で。

たぶん、この時志穂さんに戻ったのだろう。

その後は包帯を巻いてくれているのだろうか・・・

表情は暗くてよく見えない・・・でも、泣いている?

その後、僕の携帯電話を取り出した美月、多分救急車を呼んだのだろう。

最後に僕の顔をゆっくりと覗きこんでいる・・・なにか言ってる?

サ・・・ヨ・・・ナ・・・ラ?

そっか・・・さよならって言ったんだ・・・

美月の顔が僕にゆっくりと近づいてくる。

唇に感触が残った。

本当に最後に交わされた、二度目の口付け・・・

美月が静かに立ちあがった。

そして、そのまま美月は部室を出ていってしまった、僕の方を降り返る事なく・・・





あれ以来、僕は美月を捜しつづけている。

でも、美月の姿を見るどころか、そういう話すら聞いたことはない。

警察には頼めない。警察に話せば事件になる。

だから、自分だけで捜すしかない。

でも、これだけ捜しても手がかり1つ見つからないということは、

美月はもうこの街にはいないのだろうか?

だったらもう捜すことなど無意味ではないか?

心のどこかでそう諦めている自分には気づいている。

でも、更に心のどこかでは諦めきれていない自分も確かにいる。

だから捜しつづける。

理屈じゃない。

美月に会いたい、そういう衝動に突き動かされる。

会って何を言うかなんて決めてない。

会えればいい。

一目会えれば、それだけでも・・・・・・



夏休みが終わった。

それでも、毎日何のあてもないまま美月を捜す日々を繰り返す。

そんなある日―――

僕がいつもの様に美月を捜し街を歩いていた。

そして結局何の成果も得られず帰路についた。

その途中の出来事だった。

道路を挟んで向かい側に美月らしき人影を見た。

今まで何度も人違いだった事はある。

けれど、今回こそは・・・

そんな思いにかられて、その人影を追いかけようと走りはじめた次の瞬間だった。

僕は眩しいヘッドライトに照らされた。

その後にはものすごい衝撃。



気がつくと僕はまた病院のベッドの上にいた。

ぼんやり天井を眺めながら記憶を整理する。

僕は美月らしき人影を見かけて、追いかけようとして道路に出た瞬間、車に跳ねられ た・・・

・・・そうだ!美月らしき人影はどうしたんだ!?

そう思い出し、立ちあがろうとした瞬間、体中に痛みがはしった。

その時になって初めて、自分の体がとても動ける状態でない事に気づいた。

「クソッ!」

こんな時に動かない自分の体がはがゆかった。

無理矢理にでも体を起こそうともがいていると、不意にドアが開いた。

「あ、目が覚めたのかい。」

「二村・・・どうしてここに?」

「君が事故にあったって聞いてさ、体の方は大丈夫かい?」

「そんな事より・・・二村!美月がいたんだ!

僕のことはいいから美月を捜しに行ってくれないか!?

まだ、そう遠くには行ってないと思うんだ!」

「その・・・志穂さんのことだけど・・・」

「!なにか知ってるのか!?」

「実は、志穂さんから手紙を預かってる。」

「え!?それで、美月は今どこに!?」

「わからない・・・ここの病室の前で会って、手紙を渡した後すぐに走って行ってし まって、

僕も必死に追いかけたんだけど・・・・・・ごめん。」

「そんな・・・美月・・・どうして・・・?」

「これが、その・・・手紙だよ。」

僕は無言で手紙を受け取り、何とか自由のきく右手だけで封筒を開け、

中から手紙を取り出した。


『お久しぶりです。

あの時は、本当に申し訳ありませんでした。

あの日・・・私が君を殺そうとしてしまった日、

殴られた君を見て、私は初めて姉さんを許せないと思いました。

それまでは、心のどこかで姉さんをかばってたし、

姉さんを助けてあげられなかった罪悪感もありました。

でも、君が殺される―――そう思った瞬間

本気で姉さんを止める覚悟が出来ました。

そして、私の中から姉さんが姿を消し、

私は君と出会う前の記憶と、君と出会ってからの記憶を取り戻しました。

もう少し早く私が姉さんを止めていたなら、

君とこれからも一緒にいられたのでしょうか・・・


私はこの街からいなくなります。

君が私を捜してくれていた事は知っていました。

嬉しかった・・・でも、辛かった。

これ以上、君によりかかっちゃいけないから。

だから、これで本当に最後のさよならをいいます。

今までありがとう。

そして、ごめんなさい・・・

                                                                赤坂 志穂 』




いつのまにか涙が出ていた。

人前なのに何の関係も涙があふれてくる。

涙と一緒に、美月とすごした夏の日の記憶があふれ出てきた。

二村はそんな僕の様子を、何も言えず、ただ黙って見つめていた。

「あのさ・・・二村・・・」

「・・・なんだい?」

「・・・僕の願い事・・・かなわなかったよ。」

「願い事・・・?」

「島での撮影が終了した夜、楽しそうに笑う美月を見て思ったんだ。

『この笑顔はいつまで見られるだろう

僕はいつまで美月の笑顔を見ていられるだろう

願わくば、いつの日か美月の記憶がもどる時にも

その今の笑顔と同じままに・・・』って。」

「・・・・・・」

「美月に記憶は戻ったみたいだけれど、もう、同じ笑顔は見れないみたいだ・・・」

「君・・・」

「あの夏が永遠に続けばよかったのにな・・・・・・」

涙でぼやけた視界の中に美月の笑顔が見えた気がした・・・





















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