「季節を抱きしめて」ショートストーリー
〜SCENE零 悲恋桜の下で〜

作:みー

「おはよう」

「おはよう」

彼女は桜井麻由。

主人公の幼馴染。

「どうしたの?」

「なにが?」

麻由は何を思ったのか突如聞いて来る。

「僕の顔に何かついてる?」

「………」

「?」

「ううん、別に」

「………変なの」

「ほら、早くしないと、大学に遅れちゃうよ」

「おっと、そうだった」

僕と麻由は大学まで競争した。

大学と言っても、最近の僕はたいして勉強に身が入っていない。

でも、今日は何かが違っていた………いや、違ったんだ。

その日の夕方、僕は麻由を悲恋桜の下に呼んだ。

この桜の木が何故そう呼ばれているかはわからない。

昔からそう呼ばれている

この下で出会った二人は必ず別れると………

「なに?」

「あ、あのさ………」

「?」

「………………いや、その………」

「あの、用がないなら私、帰るよ?」

「いや、そんなんじゃなくて………」

「どうしたの?」

 

 

いけない………彼女を帰しては………

「?」

「ねぇ、何か話があるから呼んだんでしょ?」

「あ、ああ」

 

 

僕は意を決した。

「ま、麻由!」

「な、なに?」

「僕と付き合ってほしいんだ」

「き、急に何を………」

「僕は麻由が好きなんだ。だから付き合ってほしい」

「でも………………」

「でも?」

「私はまだ………そういうことは………」

「………確かに、僕もそういう経験はないよ。でも、このままだと、麻由が誰かに

 持って行かれそうだったから………………その………………」

「………………」

「………」

「ありがとう。私も………あなたが好き………」

「麻由………」

「本当はね、妹に先を越されるのが嫌だったの。でも、今日はっきりと気持ちの

 整理がついたの」

「………………」

「………………これからも、よろしくね。今度は、友達じゃなくて………………

 恋人として………」

「ああ、よろしくな………………麻由」

二人は、互いに唇を重ねあった。

まだ春とはいえ、時間は既に7時になっていた。

今日は麻由の家族が旅行で出かけているし、妹の麻美は友達の家に

泊りがけで遊びにいったらしい。

しかたなく、麻由を家に連れて行く事にした。

「あら?今日は恋人連れなの?」

彼女は僕の下宿先のお姉さん。

「まぁ、そんなところ………ですかね」

「そう………頑張ってね」

「何をですか?」

麻由が不意に聞く。

「気持ちのいい事よ。ね?」

「な、何を言ってるんですかっ!」

僕はとっさに話を変えようとした。

「じゃあ、頑張ってね」

そういうと、お姉さんは出かけていった。

部屋に入ると、中は散らかっていた。

「(あ、ヤバイ)」

そこには、所謂、大人の本が散乱していた。

「(屋根裏にでも隠すか)」

僕はとっさに屋根裏に隠した。

「ん?何だこれ?」

屋根裏に妙な雑誌を発見する。

「………………………何かやばそうな気が………やめとこ」

(PS:季節を抱きしめて本編では、麻由やトモコ、お姉さんなどが雑誌の中に登場。

 最後まで見てしまうと………………オジサンの海パンバイク騎乗姿がっ!)

 

 

「わ〜お、やる〜」

「げっ!」

不覚だった。まだあったとは…。

「ふふっ、君も漢(おとこ)だね」

「あ、いや………麻由、これは違うんだよ。その、友達が………」

必死の言い訳に、麻由は。

「別に嫌いじゃないよ、こういうの」

………え?

「(どういう意味ですかぁ!それはOKって事なのか!?麻由!)」

その日は麻由の手料理が食べられたのでよしとしよう。

麻由を先に風呂に入らせて、僕は洗いものをした。

「♪」

「だ、だめだ、漢は我慢あるのみ!」

麻由が風呂から上がる。

「きもちよかったぁ」

「それはよかったね」

「?」

「………」

「ま、いっか」

麻由は徐にベランダへとでる。

「お、おい、そんな格好で………」

麻由はカッターシャツを取ると、それを着た。

「似合う?」

ぼーっと見つめる僕。

「ま、まあ」

「ありがと」

その日は、麻由が背中を流そうか?と聞いたが僕は遠慮した。

何せ、付き合いだしたばかりなのに………

なんて大胆なんだ………麻由は………

翌日。その日は大雨だった。

その日、思わぬ事件が起きてしまう。

麻由は買出しへと出かけた。

ついて行こうか?と言ったが、麻由は一人でいくと言って

近くのスーパーへと行った。

「暇だな………………麻由、早く帰ってこないかな?」

ピンポーン

「は〜い」

「やっほ〜」

「げっ!何しにきたんだよ!?」

このハイテンションで自分勝手なのが、友達のトモコ。

「何しにはないでしょ?一人暮らしだって言うもんだから………心配

したんじゃないの」

「言っとくが、僕は君を彼女にした覚えはない!」

「そんな、またまたぁ」

冗談半分に言う。

「(この女には何を言っても無駄なのか?)」

この際は、無駄だとはっきりさせておこう。

「きゃっ!」

近くにあった箱につまづき、僕の上にのしかかる。

「ぐはぁっ!」

肘が鳩尾にクリーンヒットした。

「は、早くどいてくれないか」

「このままでもいいんじゃない?」

「あのなぁ、勝手に僕を君の彼氏にされても困るんだけど」

「彼女でもできたの?」

「まぁ、そんなところ」

「うっそだ〜。どうせ、『なんてうっそ〜』とか言うんでしょ?」

「言わない」

「素直に白状しなさい!」

「ただい………ま………」

「!!」

「?」

「ま、麻由!」

「この人………誰なの?」

「ただのともだ………」

と、言いかけた瞬間。

「彼女で〜す」

「(何を言ってるんだ!てめぇは!)」

「え?冗談でしょ?」

「嘘じゃないわよ。既に付き合いだってあるし」

「ないよ!何勝手な事を言ってるん………………」

「酷い………私だけを好きだって言ってくれたのは………なんだったの?」

「だから僕は………」

「いやああああああああああああああ!」

「ま、麻由!?」

麻由は家を飛び出した。

「あ、あら………本当に彼女?………嘘じゃなかったの?」

「トモコ!」

「!」

「君のせいで麻由が誤解したじゃないか!」

「なっ!………あんたが私の気持ちに気づかないからでしょ!」

「君がどう思うは勝手だ!だけど、僕と麻由は既に恋人同士なんだ!」

僕は雨の中、麻由を探しに出た………傘もささずに………

「………バカ」

暫く走っていくと…

「こ、工事中!?こっちじゃないのか!」

とっさに来た道を引き返した。

暫く走ると、T字路に差し掛かった。

「右だ!」

暫く走ると、麻由が見えた。

「麻由!」

でも、麻由は振り向く事なく走り続ける。

「ま、待てよ!」

それでもなお麻由は止まる事なく走った。

麻由は雨で濡れた地面に足をとられ、その場に転倒する。

「来ないで!」

「何で逃げるんだよ?」

「私だけを好きだって言ったのに………………私だけを愛してるって言ったのに

 ただ私を利用したいだけだったのね………………」

「違う!僕は麻由を………」

「じゃあ、あの人は何なのよ!?」

「彼女はただ、僕を彼氏だと決め付けているだけで、僕にはそんな付き合いはない!」

「嘘!」

「………!」

「じゃあ、さっき玄関先で抱き合っていたのはどういうこと!?」

「ただ、彼女が箱に躓いてこけただけだ!」

「………あなたは信用できるって………………信じてたのに………………」

「麻由!」

麻由は再び走り出した。

着いた先は波止場。

「麻由っ!」

「来ないで!」

「!!」

「それ以上近づいたら………………私………」

「(そこから落ちるとでもいうのか?)」

「ここから飛び降りるから!」

「な、何を言うんだよ!?そんな事したら、凍え死ぬだけだ!」

「………………」

「そんなに僕が信用できないのか!!?僕がそんなに嫌いなのか!!?」

「………」

「ただあれだけの事で、麻由は僕から離れるのか!?僕を遠ざけるのか!?」

「え?」

「僕に………………たった一つの結晶を失わせるのか!?」

「たった一つの………結晶………」

「そうだよ。麻由は僕にとって、壊すのできない大切な結晶なんだ!」

「私が………大切な………」

「そうだよ」

既に二人の服は雨で濡れていた。

「………………」

「確かに、あんな状況を見せられたらそうなるのも無理はない。けど、例えどんな

 状況でも、僕は麻由を愛してる。どんなときでも麻由を守りたいんだ!

 守らなきゃいけないんだよ!」

「………………」

麻由はその場に、力が抜けたかのように座りこんだ。

僕は麻由に近づいた。

「麻由………」

そっと、肩に手をやった。

「ごめんなさい………私………私………」

「もういいよ。麻由は………ただ、やきもちを焼いただけなんだよね?」

麻由は頷く。

「ごめん。僕がもっとしっかりしないから………………」

「そんなことないよ!」

「………」

「悪いのは私なのに………こんな大雨の中………傘もささずに………」

「だって、傘なんてさす暇がなかったから………」

「え?」

「傘なんてさしてたら、絶対に見失ってたよ。風で傘ごと飛ばされるかもしれないけど

 そのままなら、風をうけるだけだし」

「ありがと………………こんな大雨の中………私………を………………」

「麻由!?」

麻由は気絶してしまった。

「ごめん………麻由………」

僕は麻由を抱いて、家に帰った。

家には既にトモコの姿はなかった。

………………………………

「………うっ………あ」

「気がついた?」

「私………」

「雨の中、走り続けたせいで、熱が出ただけだよ」

「あっ」

麻由は起こした体を支えられずに後ろへと倒れる。

「っと」

僕は麻由を支えた。

「………」

「なに?」

「………」

麻由は僕の顔に手をやると、顔を近づけた………

「………………」

熱のせいもあったのか、麻由の唇は少し熱かった。

「ちょっと待って、今お粥作るから」

「あっ!!」

「?」

「………服、脱がせたの?」

「まぁ………そのままじゃ風邪が酷くなると思って………その………下着も………」

「………」

互いに赤面した。まぁ、無理もない。

「じゃあ、お粥と雑炊、どっちがいい?」

「好きなほうでいいよ」

僕は台所で雑炊をつくった。

そして………

「はい」

「ありがと。………これは」

「麻由の好きな肉じゃがだよ」

「覚えててくれたの?」

「だって、麻由はいつもそれを作ってたもん」

「ありがと………」

円らな瞳から、雨ではない………………綺麗な雫が流れ落ちた………

 

 

今、僕と麻由は………………

一つになれた。

綺麗な季節を………抱きしめるように………

その日以来、麻由は元気に大学に来ている。

麻由の両親も僕らの関係を認めてくれた。

何せ、あの豪雨の中、麻由を探したとなれば、それだけの愛がある証拠だと

麻由の父親に言われた。まぁ、恥ずかしさ200%をオーバーするような事を

言われてしまったので、言葉が出なかったのも事実。

でも、その代償として、僕は風邪を引いてしまったのだが………

「大丈夫?」

「平気だよ。どうせ、今日はそんなに授業無いしね」

「ねえねえ、この本見た事ある?」

「何これ?『悲恋桜‐その伝承と変還』」

「悲恋桜はね、本当は『思い出桜』って名前なんだって」

「でも、それが何で?」

「時代の変わり目のせいかな、いつの間にか………そういう噂に」

「じゃあ、思い出桜の噂を流せば、今より、遥かに大勢の人があの桜に

 近寄るよ」

それ以来、編集部でも思い出桜の情報を記載し、以来、あの桜には

大勢の人が殺到した。

この桜の下で告白したカップルは必ず結ばれる………と

何せ、僕と麻由がそうだったのだから。

麻由と麻由の両親にも証人として雑誌に載ってもらった。

「桜、そろそろ散っちゃうね」

「しょうがないよ、そんなに桜の花びらは寿命が長くないしね」

「来年も、綺麗な桜を咲かせるのかな?」

「そうだね」

そう言って、僕と麻由はその場を後にした。

?「来年もまた、桜を咲かせに来ますね」

そして1年後、僕達の卒業式。

卒業と同時に、この桜との別れもある………………はずが………

「はぁ!?預かってくれ?」

理事長のとんでもない頼みが舞い込んだ。

「あの場所に、小屋を建てたいんだけど、桜の木が真ん中にたってるでしょ?」

「まぁ、そうですけど」

「そこで、思い出桜実行委員長のあなたに、あの桜を家で育ててほしいのよ」

「確かに僕の家には庭がありますけど………」

「私の家なら、広いし、庭だって、あの桜が入っても十分な広さがあるから

大丈夫です」

「そう?助かるわ」

「まぁ、いいか」

そして卒業式が終了する。

同級生達と最後の記念写真を撮影している。

「ほら、卒業証書もっててあげるから」

「そうか?ごめんな」

僕は仲間に加わり、思い出桜の下に行く

「麻由も入れば?」

「じゃあ、そうしようっかな」

「いいか?ポチッとな」

セルフタイマーをセットすると、急いで先生は走る。

「先生!早く早く!」

「セーフ!」

パシャッ!

 

 

1年後、麻由の家には思い出桜の姿があった。

運ぶのも大変だったが、植えるのも更に大変だ。

でも、麻由は大喜びだった。

その年に、僕と麻由は結婚する事になった。

待合室で。

「麻由、とうとう来てしまったな」

麻由の父が話しかける。

「え?」

「しかし、運命とは面白いものだ。桜が舞えば、出会いが生まれる」

「?」

「あ、いや、麻由には難しい話だったかな」

「………」

「母さんは、会場の準備と受付があるから、麻由の花嫁姿は、式が始まってから

  見る事になるな」

麻由は白いドレスに身を包んでいた。

ガチャッ

「あ、すいません、お話中ですか」

「おっと、ここからは、第3者の進入できない世界だな」

「はぁ?」

「はっはっは!まぁ、頑張りたまえ」

「はぁ」

笑いながら、麻由の父は出て行く。

「………………」

「………………」

「まぁ、これからもよろしくな」

「………う、うん」

そして式が始まる。

「何時にも、互いに信じ、くじけず、負けず、互いに愛し、互いに協力し………

 永遠の愛を貫く事を………誓いますか?」

「はい、誓います」

「はい」

「では………誓いの口づけを………」

聖書のような本を持った神父が言い終わる。

「麻由………」

僕は麻由のヴェールをめくり、後ろに流す。

「………………」

そして二人はキスをする。

かくして、青春の時代が終了し、新たな人生の幕開けとなった。

今度は、運命に翻弄されない人生に………………

 

 

桜、大事に咲かせてくださいね

「え?」

「どうしたの?」

「………今、何か言った?」

「いや、何も言わないよ」

「………気のせいかな」

「式で緊張したの?」

「そうかも」

 

 

春は人と人とが巡り合い、新たな人生を作っていく………………

そんな季節です………………………

私は春の精………………

春を告げにくる、春の精です………

 

 

Fin


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