定年後の読書ノートより
子どもと教育、子どもと出会う、東大名誉教授 吉田 章宏 著、岩波書店
我々が読書に求めるのは、常に「如何に生きるべきか」という、基本的なテーマである。本書は「子どもと出会う」というタイトルの向こうに、人間は如何に生きるべきかという考察がある。著者は読者に期待する。あなたがこの本を読み終わった時、あなた自身の生きていらしゃる世界全体がいっそう豊かになること願っていますと

著者は読者を、厳密な思考順序を踏みながら、子どもの世界へと案内される。先ず一緒に擬似現実の世界に旅立ちましょうと誘われる。最初に案内されるのは凡の世界、ここで平凡な一人の子どもの写真から、子どもとは、子ども時代を生きている一人の人間であるという大切なことに気づかされる。そして、同時に自分は大人時代を生きている人間だとも。

無限に続く人間という歴史の中で、出会いとは極めて稀な、それだけに尊い奇跡。だからお互いの出会いを大切にしたい。幼少の記憶の中に、子どもは大人の誠実さを鋭くとらえ自らの人生の重要な心眼として密かに育っていく。生きることは素晴らしい。子どもから大人へ、その人生途上にはいろいろな有り、ある時は自分を隠す必要も多々あるが、美しく老いることとは如何に「内なる子ども」を保ち続けるかである。子どもとの出会いは、人生を通じて美しく老いることを助けてくれる。

人生「明の世界」に対し「暗の世界」もある。要領よく変身する大人たちを鋭く見つめる子ども達の目。革命、体制崩壊、戦争、大人達は子ども達の目前でなんと残酷な側面を見せてきたか。しかし子ども達はじっと大人達を見抜いている。退廃した資本主義の世界で、子ども達は商品とされ、傷つき、汚されている。我々の周囲に、暗の世界の残酷さは止めども無く隠されている。

どうすれば、子どもとの出会いを豊かに出来るのか。この世に暗をもたらすのも、明をもたらすのも、我々の生きかたそのものにある。如何に生きるべきか。著者はふたたび強く訴える。「子どもに対する尊敬の念」「子どもへの敬意」を持つとき、人間の出会いは豊かになる。何と素晴らしきもの人間、この喜びを実感する時、我々の心には、子どもを一人の人間として大切にしたいという願いが必ず沸いてくる。そして、この喜びを胸にする時、我々はあらためて現実の世界が輝かしく、豊かに見渡せるではないか。

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