定年後の読書ノートより
カラマーゾフの兄弟、第6編、ロシアの僧侶、ドストエフスキー著、河出書房
ゾシマ長老は最後の時間を庵室で迎えた。主教達は最後の長老を囲んで話を聴いた。長老は兄の思い出から語り始めた。兄は17の春を迎えた時、ある思想犯と親しくなり、それからというもの何故か教会に赴くようになった。しかし兄はしばらくして、肺病の為、病の床についた。母は居間に閉じこもって泣いた。兄は言った「お母さん、泣くのはお止めなさい。人生は楽園です。ただ僕達がそれを知ろうとしなかっただけです」。「私は生活を祝福したい」「私は美にも栄光にも気が付かず今まで過ごしてきました」。兄はじっと僕を見つめながら、「僕の代りに生きてくれ」と言って死んだ。

自分はペテルブルクの幼年学校に入り、将校になった。ある若くて美しい令嬢と近づきになった。意外にも令嬢は、ある男と結婚してしまった。自分はひたすら復讐の念に燃えた。ささいなことから自分はその男に決闘を申込んだ。その夜、自分は従卒に腹を立て力任せにぶん殴った。決闘の朝が来た。暖かい、美しい景色が広がった。小鳥が鳴き出した。突然心の奥で自己を取り戻し、従卒をなぐった自分を恥じた。兄が臨終の前言った言葉を思い出した。

約束通り、決闘場には向かった。決闘は相手が最初に撃ってきて弾は頬をかすっただけだった。次は自分が打つ番だ。自分は銃を捨てた。経験したことのない幸福感が満ち溢れてきた。人々はあきれた奴だと笑いながらも、自分を愛してくれた。決闘を申込んだ男の妻からも感謝の涙を流して喜ばれた。そうした周囲の人々中に、自分に執拗に接近してくる一人の男がいた。

男は何度も我が家にやってきた。男には何かある。自分はかえって男に好奇心を持った。

男は言った。人間は不平なしに財産や権利を分配することは出来ない。常に自分の分け前の不足を訴え、互いにうらんで滅ぼしあいます。現代人はすべて分子に別れてしまって、だれもかれも自分の穴の中に隠れています。「実は私は人を殺したことがあるのです」男は突然、14年前の恨みからのある未亡人を殺した完全殺人を告白した。この14年間自分は妻を持ち、子供を持った。隠し通せると思った。しかし貴方の決闘放棄を聞いて、自分は自分の心に大きな衝撃を受け、以後心の平安を失い、もうどうすることも出来ません。私は言った。「告白しなさい」。

男は告白の決意をしながら、実行できずにその後も毎晩のように我が家にやってきた。男はすっかり正常心を無くし、身体はやつれ果てていた。しかし彼は告白の決断は実行出来なかった。ある夜、男は最後の決断を促してくれとやって来た。そして男は翌日皆の前で、殺人を告白した。しかし人々は彼の告白を信用しなかった。男は気が狂ったとされた。事実、男はもう正常ではなかった。しかし男は死の前に、告白して言った。「実はあの前夜、私は貴方を殺すつもりでした。」家族を始め、親しかった周囲の誰も彼の完全犯罪を信じようとはしなかった。自分はそれ以後、この男の真実は絶対に口にしたことがない。

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