定年後の読書ノートより
冷戦後の世界と日本外交、枝村 純郎 著、学士会報 2001―W巻 833号
外交や国際関係の領域では、国際関係論や戦略論、国際法にみる力の均衡論とか、国際規範で分析していくのを常道としているが、自分は人の心の動き、人間臭いアプローチが外交においても大切だと考えています。

国際関係論や戦力論・国際法などをやると大いに勉強しなければならないが、人の心だと、言ってみれば人間の気持ちというものは顔をみていれば大体判りますが、楽だからそういう所に逃げたということも言えるかも知れません。

第1次世界大戦以後、戦争はイデオロギーの戦争です。文化大革命で見た中国は、毛沢東思想でした。毛沢東思想とは、人間をネチネチと、しばりつけておく手段でした。

さてソ連崩壊をどれだけの知識人が予言出来たでしょうか。バートランド・ラッセルは、「権力の集中が必ず腐敗を招く」と予言していました。ジョージ・ケナンも「人間性に即さない社会はやがて自己崩壊する」と予言していました。しかし、殆どの人はソ連の崩壊を予想していませんでした。

私自信も、「物理的な吸引力=軍事力」が国を形成したのは、冷戦までで、これからは「精神的な吸引力」が重要であると考えています。冷戦後の世界を、「歴史の終り」と見た人もいますが、中東紛争等民族紛争はますます激化しています。サミュエル・ハンチントンは「文明の衝突」と分析しています。

私は現代の物質文明の行き過ぎ対応策は、寛容・調和というアジア的価値観を体系化する必要があると考えています現在の世界に普遍的価値観とは何か、民主主義ほど素晴らしい政治体制はない。しかし、その価値観で階層化してしまう世界秩序に対し、後進国からは現状否定の声がテロとなってますます強く飛び出してきます。

問題は価値観の統一の結果起こってくる全世界的な上方志向の圧力です。グローバリゼーションもこうした価値観のひとつです。ここで思い出したいのは「成長の限界」です。事態は幾何級数的に深刻化しています。市場経済万能主義は行き詰まっています。

いたずらに欲望の充足を求めて発展していくよりも、より豊かな人生を大切にする、より奥の深い生き方を大切にする、そういう考え方が、価値の転換を押し進めていくのではないでしょうか

日本的な良さというものを理論化し体系化することは急務です。日本の政治家に海外で感動を残す演説が出来る人が果たしているでしょうか。文化の持つ精神的活力を、今こそ体系化せねば、世界に日本の存在を強くアッピール出来るものは外に何も見当たりません。アジアで発言力のある政治家はシンガポールのリー・クアンユ、その次はマレイシアのマハティールです。国の大小とは関係ないのです。必要なのはこの人が何を哲学とし、何を理念としているかだと思います。日本の政治家も外国に行ったら含蓄ある、迫力ある言葉で話をして欲しいと思います(元ロシア大使、現住友商事顧問)

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