定年後の読書ノートより
IT革命と日本資本主義の課題(下)、北村洋基著、雑誌経済74号
(上巻のまとめ)産業革命は繊維産業からスタートした。英国における問屋制家内工業が、ウオータフレーム等機械の発明により、工場制機械工業として産業構造を替えていった。繊維から重化学工業、機械工業等の台頭により、企業間競争は激しくなり、その中で企業規模、資本の大きい会社が市場を占有していった。一方では大量の労働者が生まれ、生産は労働者と資本家が利害対立する構造になった。IT産業は、巨大な資本と技術力を要し、軍事産業を源流としており、情報通信産業の開発・実用化はアメリカ系多国籍企業が圧倒的に有利な地位にある。IT産業において特徴的なことは、資本は科学を創造しない。しかし資本は科学を徹底的に利用し、科学を生産過程に従属させるということである。

3−4、独占資本主義の特殊な形態としての情報資本主義

ベンチャー企業といえども、独創的な技術力をもった企業でなければ、不安定な存在にすぎない。情報資本主義の時代においてその中心になるのは、巨大な資本の絶対的な必要性と優位性である。企業間競争の政策とは、弱肉強食の新自由主義である。アメリカ主導の情報通信産業では、グローバルな規模で、寡占的大企業同士の激烈な競争が展開されている。次世代携帯電話では莫大な資金が必要であり、国際的な規模での大型合併や提携が相次いで起きている。これらの競争は自由競争とはいえ、少数寡占メーカのみが参入出来る市場である。激しい技術革新に対応できる企業はますます少数となり、大企業同士の強調関係で乗り切るほかない。情報産業業界の土台はまさに独占資本主義である。独占支配や独占利潤の源泉は巨大資本による規模の利益や市場支配力である。

3−5、IT革命と企業行動の変化

インターネットを媒介としたイントラネットとエクストラネットの構築は、情報の共有と意志決定の迅速化を目指して、今後とも発展していく。これらは合理化とコストダウン、資本の競争力強化のためであり、情報ネットワーク時代に適合的な企業システムと産業構造に向かって進化していく。

3−6、情報資本主義と労働の変化

情報資本主義の時代においては、いかに作るかということの重要性が決して失われるわけではないが、それよりも、製品の差別化や新製品の開発など何を作るかあるいはどのような「サービス」を開発し提供するかがますます重要になる。情報資本主義の進行は技術的必然として労働の多様性と階層性がいっそう広がり、労働の2極分解あるいは多極分解を進行させる傾向をもっている。デジタル・デバイトはパソコンを活用できるかどうかの技術的リテラシーのレベルにはとどまらない広がりをもっている。

4、日本のIT革命・産業構造の移行過程とその特徴

4−1、80年代末までの情報化の特徴とその評価について

80年代:産業用ロボット、NC工作機械、MCなどのメカトロニクス機器、FMS.CIM、FA,OA、LAN、VTR,IC家電製品、ワープロ、パソコン、ゲーム機

これらの情報化は容易に資金調達出来た。ME化によるコストダウンと輸出増大で、多品種化、高機能化、情報資本主義への移行がスムースに進行したかに見えた。しかし高付加価値化は高価格商品となり、バブル崩壊後、多品種大量生産システムは過剰設備と化してしまった。

90年代に入って、製造業が装置産業化したが、想定された需要が急減し、その対応システムがない。80年代のフレキシブル生産システムは「半硬直的中量生産体制」に過ぎなかった。90年代の日本は、80年代の過大投資の反動を受けた。

4−2、90年代以降の情報化の特徴とその評価について

民間設備投資に占めるIT投資の割合が、90年代末にはアメリカ50%に達しているのに対して、日本が35%程度である。日本経済の90年代は、株価と地価の暴落、不良債権の累積と金融機関等の相次ぐ破綻、景気てこ入れの為の赤字国債の乱発による財政危機の深刻化、失業率の上昇と消費の落ち込みなど、惨澹たる10年間であった。

90年代大不況の原因は複合的であるが、産業構造の転換が80年代の反動でかえってスムーズに進行できなかったこともその要因のひとつである。

4−3、日本の情報産業・産業構造の特質と課題

日本では少数の巨大メーカとそのグループ企業がコンピュータや半導体、通信機器の生産、各種情報サービスを総合的に担ってきた。良かれ悪しかれ総合電機・通信メーカやNTTなどの通信事業体の総合力で今日まで情報化を推進してきた。ただ、90年代の長期不況とダウンサイジングとインターネットの普及という環境の激変に対し、総合性の強みが逆に変化への適応を遅らせ、むしろ弱みとして現れた。

日本方式を民主化し、巨大企業と中小企業とが対等的な協力関係で、技術開発・新製品開発を図っていくというほうが、長期的な観点からすれば、競争力を維持し、日本経済のありかたとして優れているのではないか。民主的で適切な政策的な枠組を作り、また資本を誘導・規制することによって形成されるのではないか。

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