定年後の読書ノートより
天山を越えて、胡桃沢 耕史 著、埼玉福祉会
先ず題名が気に入った。「天山山脈を越えて」と言えば、我が愛するシルクロードではないか。胡桃沢耕史氏の作品は、直木賞作品「黒パン俘虜記」を読んだことがある。 氏の作品は読み終えて、気分が軽くなる。この話も、波乱万丈、自由奔放、物語は密度濃く展開し、最後は気分すっきりする。

話はこんなストーリで進んでいく。

都営住宅に主の如く永年住みついているひとりの老人が、ウルムチに行くと書き残して消えた。誰も老人疾走の原因がすぐには思い当たらない。

話は突然50年前の満州奉天に飛ぶ。日本娘由利は、国策に殉じてウルムチの僻地に嫁として身売りされる。衛藤上等兵はひょんなことから護衛兵として同行させられる。中国奥地。そこは軍閥入り乱れ、領土拡大を目論むロシアの手も伸びてきている。到着後は殺される段取りになっていた衛藤上等兵、そんな段取りを耳にした由利は、衛藤のベッドにもぐりこんで最後の夜に自らの純潔を与える。翌日衛藤は段取り通りに殺されたのか、2発の銃声が聞こえた。

話は突然飛んで、アメリカマサチューセット。由利の恋人はアメリカ国務省の秘密指令を帯びて、中央アジアに潜入。青年は幾つかの困難を経て、今や軍閥将軍夫人となっている由利に再会。由利は砂漠を駆け巡り、多くの激戦を勝利してきた。青年と一夜を共にした由利。青年はアメリカ国務省に任された武器一式を由利の夫軍閥将軍に与える。その後由利は軍閥将軍と共に戦場を駆け巡り、中国奥地の首領となる。

数年が過ぎ、部下の裏切りにあった軍閥将軍と由利は、中央アジアを追い出される。しかし国境でじっと待っていてくれたのはアメリカ青年。部下の裏切りに絶望した軍閥将軍は、失意の中でピストル自殺。青年と由利は、アメリカへ。2人はアメリカで恵まれた生涯を送った。

そして話は再び現在に戻る。都営住宅の住民老人こそ、中央アジアを駆け回って生死を境を潜ぐり抜けてきた衛藤その人。その衛藤をウルムチに誘ったのは、今は一人身の由利。

由利はがん進行でもう寿命わずか。どうかこの地で初めての男、衛藤に抱かれて生涯を終えたいという。衛藤はもう老境に達していたが、由利をしっかり抱きしめ、お前が死ぬまでしっかり抱きしめていてやるからなと堅い約束をする

実に単純にして、痛快なお話。しかし読みおえると、何かこちらの気分まで、明るく、軽く、すっきりしてくるから、気持ちが良い。

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