定年後の読書ノートより
「文明の衝突」再読、サミュエル・ハンチントン著、集英社
  • 1890年代に共産主義世界が崩壊し、冷戦という国際関係は過去のものとなった。冷戦後の世界では、さまざまな民族のあいだの最も重要な違いは、イデオロギーや経済ではなくなった。文化が違うのだ。民族も国家も人間が直面する最も基本的な問いに答えようとしている。(23p)
  • 人間は理性のみによって生きていくものではない。彼等は自己の利益を追求する上で、計算し合理的な行動をとる前に、先ず自分を定義づけなければならない。利益追求の政治を実施するには、まず自己の存在を規定する必要がある。社会が急速に変化するとき、確立していたはずのアイデンティティは崩壊し、自己を新たに定義し直し、新しい自己像を構築しなければならなくなる。自分は何者か、自分は何処に帰属するのかといった問いへの答えを求める人々に、宗教は魅力的な答えを出してくれる。(142)
  • アイデンティティを模索し、民族性を再構築しようとしている民族にとって、敵は不可欠なのだ。そして、潜在的にきわめて危険な敵意が世界の主要な文明の境界で高まるのだ。(21)
  • 歴史上始めて国際政治が多極化し、かつ多文明化している。近代化というのは西欧化することではなく、近代化によって何か普遍的な文明が生み出されるわけでないし、非西欧社会が西欧化するわけでもない。
  • 文明間の勢力の均衡は変化している。相対的な影響力という意味では、西欧は衰えつつある。アジア文明は経済的、軍事的、政治的な力を拡大しつつある。イスラム圏では人口が爆発的に増えた結果、イスラム諸国とその近隣諸国は不安定になっている。そして、非西欧文明は全般的に自分達の文化の価値を再確認している。
  • 西欧は普遍主義的な主張の為、次第に他の文明と衝突するようになり、特にイスラム諸国や中国との衝突はきわめて深刻である。
  • 冷戦後の世界において、歴史上始めて世界政治が多極化し、多文明化した。
  • 忘れてはならないのはイスラム圏の重要な国々で、その戦略的な位置や膨大な人口、そして場合によっては石油資源のおかげで、国際問題にきわめて大きな影響力を持っている。この新しい世界で最も幅をきかせてきわめて重要かつ危険な対立は、社会の階層や貧富等を始めとする経済的な身分の異なる者同士の間で起こるのではなく、異なる文化的な統一体に属する人々の間で起こるであろう。
  • 最も危険な文化の衝突は、文明と文明の断層戦にそって起こる。
  • イスラム文化を見れば、イスラム世界で民主主義が生まれない理由がおおよそ説明出来る。
  • 冷戦後の世界の中軸をなすのは、西欧文明の力と文化、ならびに非西欧文明の力と文化の相互作用なのである。国際政治は多極化し、かつ多文明化したのである。
  • 20世紀、知的支配階級は一般に、経済と社会の近代化が進めば人類の存在のなかで占める宗教の重要性は低くなるだろうと思いこんでいた。その結果あらわれる社会は、寛容で合理的、そして実用主義的かつ進歩的で人類愛にあふれた非宗教的なものになるはずだった。
  • イスラム世界においては緊急な事態のとき、人々がみずから基本的アイデンティティと忠誠心を宗教的コミュニティに求めるという傾向が繰り返し見られる。とくに原理主義運動は、混乱や、アイデンティティ、存在意義、安定した社会構造などの喪失といった事態に対処する手段である。これらは近代的な社会、政治体制、さらに政教分離、科学至上文化、経済開発などを急速に導入したために生じたものである。
  • 彼等にとって宗教は民衆のアヘンではなく、弱者のビタミンであると表現している。
  • アジアの自信は経済の成長に基いている。一方のイスラム諸国の自信は、その可成の部分が社会の活性化と人口増から発したものである。アジアとイスラムの挑戦は、21世紀においても、世界の政治を不安定にするような影響を及ぼしつづけるであろう。
  • イスラム教の復活は、西欧の力と威信の衰退である。西欧が圧倒的な優位性を失うにつれて、その理想や制度は輝きを失った。
  • イスラム復興の原動力となっている人口増が鈍化するのは2020年代である。そのころには、戦闘的な活動家や兵士、移民の数も減り、イスラム圏内やイスラム諸国と他の国々との間での激しい対立は沈静化の方向に進むだろう。
  • 近代化に押されるかたちで、世界政治の舞台は文化の境界線にそって再構築されつつある。
  • 新しい世界では、文化的なアイデンティティが国の連合や敵対関係を形成するうえで中心的な役割をはたす。
  • 中央アジアには、歴史的に国家のアイデンティティは存在しなかった。忠誠を誓うのは部族、一族、拡大された家族に対してであり、国に対してではなかった。その対極として、人々は言語、宗教、文化、生活様式を共有し、イスラム教が人々をまとめる最も強い力であった。
  • イスラム教徒の一体感は、国家や国際機関の活動に反映され、またそれによって促進されてもいる。
  • 今や世界のほとんどの地域で軍事介入できるのは西欧だけである。アメリカが中心になり、イギリスとフランスがいくらか手をかす形で軍事介入となる。そして事実上世界のあらゆる地域を爆撃できる空軍力をもつものはアメリカだけである。これがグローバル・パワーとしてのアメリカの軍事的地位と。世界で最も力ある文明ととしての西欧の重要な要素なのだ。近い将来で見ると、西欧と他の国々の間の通常兵器の軍事力のバランスは圧倒的に西欧に有利に傾く。
  • 諸文明の間で力関係が変わる為、兵器の拡散、人権、移民などの問題で西欧が目標を達成するのは益々困難になる。出来るだけ状況を悪化させないためには、他の社会と交渉することにより、西欧はその経済的資源を飴と鞭としてうまく使い、団結を強め、連携した政策をとらねばならない。団結出来れば、他の社会が西欧社会に利害の不一致をもたらすことが出来なくなり、非西欧社会諸国間の違いは大きくなって、西欧はそれをうまく利用できるであろう。西欧諸国がこれらの戦略を実行できるか否かは、一方で挑戦する文明との紛争の性質や激しさに、他方では揺れ動く文明と一体化し共通の利害を追求出来るか否かにかかっている。

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