定年後の読書ノートより
吉田茂とその時代(上巻)、ジョン・ダワー著、大窪訳、中公文庫
「敗北を抱きしめて」の著者ジョン・ダワー1979年の作。第1〜7章。表紙裏の言葉より。

戦後日本の政治・経済・外交すべての基本路線を確立した吉田茂―その生涯にわたる思想と政治活動を、日米関係の研究に専念する著者が国際的な視野で分析する。生い立ち・教育環境に始まり30年に及ぶ外交官時代、その後の反戦・和平工作、1945年の逮捕までを上巻では描く

生い立ちー吉田茂の父親は土佐藩志士竹内綱と新橋芸者坂本喜代の私生児だったが、生後間もなく富豪吉田健三の養子となる。吉田健三は明治維新の新興成り金多角経営で実績をあげたが、早世。養母士子は吉田一斎の孫。漢学熟、学習院、一橋大学前身商業学校等を経て東大法学部政治学科卒業、外交官となる。牧野伸顕の娘と結婚、岳父牧野を通じて皇室主義者とる。牧野は薩摩大久保利通の息子。吉田の現実主義は大久保の思想にも通ずるものがある。吉田茂にとって皇室とは国家の本質。

外交官―一貫して中国に拠点をおく英米派外交官。その考えは、英米帝国主義と日本帝国主義の協同歩調を大切にし、あくまでソ連・中国等の共産主義勢力こそ日本帝国主義の敵であるという考え方は、第2次世界大戦前の氏の外交官生活の思想の根底にあった。上巻で一番興味深いのは、1945年1月吉田茂は近衛を動かして、天皇に戦争終決の上奏文を提出し、陸軍憲兵隊に逮捕され45日間の拘留、この出来事が戦後吉田茂をして反戦外交官という国民的英雄イメージを高めた背景出来事がある

この「第7章「吉田反戦グループ」と近衛上奏文」が、ジョン・ダワー氏お得意とするの本現代史研究の一番興味深い読みどころ

上奏文は、日本の敗戦を憂え、天皇に早急な和平工作を上奏しているが、その論理は、まず最大の重要事項は日本国体の維持であり、本件に関しては、すでにこの時点で、吉田茂はアメリカは日本の国体維持に必ず同意すると読んでいる。しかし吉田等が一番心配したのは、敗戦後の日本の共産化であり、しかもこのまま戦争を続けると、国内至るところで国民の不満は共産化という結果で噴出してしまうから早急な和平が急がれるという進言であった。そこには戦争の被害で苦しむ国民の心情等は何の考慮の対象にもなっていない。

しかし、この近衛上奏文に前後して、陸軍梅津上奏文はアメリカは日本を徹底的に破壊し尽くそうとしているから、アメリカとの講和は不可能と上奏され、天皇はこの梅津上奏文に沿って、和平はソ連を通じて行なおうという方針を出す。こうした経過から、当時の陸軍の情報のアメリカ外交を読み解く読みの誤りと吉田茂のアメリカを見る目の確かさとが際立った歴史的対照をなしているのは興味深い。

何故日本は歴史的に敗戦時期を見失ったか、かねがね疑問に思っていたことを、今回この本を読んでよく理解できた。

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