定年後の読書ノートより
もっと知りたい日本の近代史、吉田夏生著、ほるぷ出版
著者 吉田夏生氏は、東京目黒第十中学校当時の友人であり、戸山高校教師、NHK教育テレビ日本史担当講師でもあった。中学時代より、吉田氏は鋭い観察眼を持ち、はっきりと物事を断言し、妥協を許さない強い性格の持ち主だった。父親である 吉田秀和氏の、洗練された華麗なる雰囲気を、果たして彼はどこまで受け継いでいるのだろうか、どうもはっきり判らない。兎に角、無駄や妥協を許さず、世の中の真実を明確に簡潔に表現しようとする。

この本の書き出しにも彼の性格が、はっきりと出ている。

「15世紀から16世紀にかけての約100年あまりにおよぶ戦乱の時代を、最後に統一したのは徳川家康であった。家康は対立する石田三成らの連合軍を関ヶ原の戦で破り、1603年に征夷大将軍となった。そして江戸に幕府を開いたのである。その2年後、将軍を息子の秀忠に譲った家康は、将軍の地位を徳川氏が世襲することを明らかにした。そして1615年、大阪城を攻撃して豊臣氏を滅ぼした。」

実に簡潔な歴史記述であり、無駄な表現は一言も使われていない。お見事。

彼のNHK教育テレビ日本史講座は、実に痛快であった。歴史の権力者に対し、人民が如何に抵抗してきたか、その真実を力強く語ってくれた。当時NHKには、右勢力からの圧力が随分とかかってきたそうな。吉田氏曰く。「こちらからお願いしたのではない。NHKが頼みにきて始めた講座だ。だから自分は自分の信ずる日本史を講義する。」と言い切っていた。彼以後、彼の如く、はっきりと歴史の真実を語ってくれるNHK日本史講師にはもう出会えない。今のNHKは、もう吉田先生の如き、熱血漢を講師にもってくる勇気はなさそうだ。きっとNHK上層部からの圧力も強くなったのであろう。

明治以後、近代化を押し進める過程で、天皇制が如何に権力ピラミッドの頂上部に登場してきたか、この本で彼は明確に経過を記述する。自由民権運動もダイナミックに捉えている。田中正造もきちんと紹介している。女工哀史の真実を、横山源之助「日本之下層社会」を引用してリアルに取り上げている。北海道アイヌ差別史を、怒りをこめて書いているのがこの本の特徴。この本は、おそらく大学受験日本史の副読本という性格をおびて発行されているのであろうが、彼は世の近代史家達が触れようとしないアイヌ差別史をはっきりとこの本の中で触れている。受験生は、この本によって、受験の為の近代日本史ではなく、真実の日本近代史に近づけるのはラッキーだ。近代日本がどのようにして「極東の憲兵」になっていったか、それは朝鮮・中国への侵略という視点で歴史のストーリを辿っていくべきであり、吉田氏はその視点でストーリを通している。

吉田氏はこの本のあとがきに書いている。「近代化の実現という「光」の裏に、日本人・アイヌの人々・朝鮮や中国の人々などに筆舌に尽くし難い苦しみを与えたのである。その「影」の一端を本書から読み取り、今後の日本のあり方を考える一助としてほしい。」と。

この本が広く読まれ、多くの高校生に歴史をきちんと学ぶ姿勢を汲み取って欲しいと思う。

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