定年後の読書ノート
高齢化社会の設計、古川 敏之著、中公新書
ボーヴォワールは「老い」の中で、迫り来る老いに対し、哲学者らしからぬ恐怖の感情を露わにしている。読むほどに気が滅入る作品となっている。ところで楽しい老後など可能だろうか。もしも、暗黒の老後しかないのなら、いっそ早く死ぬ努力をするのも一案である、と著者はまえがきで書く。著者は東大医学部教授。実に冷徹な老後観で貫く。

身体機能は加齢変化により確実に低下する。象は老衰で死ぬというよりは、歯が擦り減り食物を採ることが出来なくなって餓死する。知的機能はどうだろう。人間知能60歳までは減退しない。しかし85歳以上では、30%は痴呆になる。感性はどうか。高齢化に伴い、超自然現象への関心が減って、現実しか信じなくなる。心の冷えのようなものが現れる。

高齢者の病気と死亡、死因1位は悪性腫瘍、2位心臓疾患、3位脳卒中。しかし最近、医学への信頼が過熱して、人は必ず死ぬものだという当たり前の事実さえも忘れられている。癌死亡が増えたのは癌が発生するまで長生きする人の割合が増えたということである。

生物は何故老化するか、ワイブル分布はヒトの寿命現象と正確に合致する。初期故障モード、偶発故障モード、摩耗故障モード等、機械部品寿命の理論と、人間の寿命は同じ曲線上にある。

歴史上人物の寿命。夏目漱石49歳、江藤新平40歳、坂本竜馬32歳、樋口一葉24歳、滝連太郎24歳、石川啄木26歳、正岡子規35歳、芥川龍之介35歳、二葉亭四迷45歳、こうして無数に挙げるまでもなく、ごく最近まで、日本人は極めて短命だった。

長寿の為の安全因子とは、血圧が低いこと、若干太り気味であること、たばこを吸わないこと、そして外的世界に積極的関心をもつことである。

種族保存の義務を果たした後も、生き長らえるのは人間だけである。

最後に著者古川先生のまとめととしての、老後観。

人間には競争心と独占欲という卑しい性質がある。これを防ぐには、社会の構成員が痛みを分かち合って調整するしかない。高齢化社会では、世代交代のための調整を皆で守り、競争心を飼い慣らす訓練が必要だ。定年以後の人生に上昇気流など見つからない。その為には厳しい思想改革が必要である。まだまだ若い者に負けないなどという考え方は払拭することである。別の天地で出直すのでなければ、すべからく、優雅に遊びを楽しむべきである。その遊びとは、文化の創造である。長寿によってうける長い自由時間を利用して、文化育成に貢献し、生きとし生きた証しを残すべきである。これが、著者の結論である。

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