定年後の読書ノート
かわかない心の旅―般若心経に導かれー松原哲明著、NHKライブラリー
目次裏に、2ページの開きで、三蔵法師玄奘さまの中国から中央アジアを通り、シルクロードを経て、インドに修行された、16年間の行脚の地図が載っている。玄奘さまは27歳、中国の掟を破り、ひとりタクラマカン砂漠をとぼとぼとインド=天竺に向けて歩き続け、43歳、般若心経を始め、数多くの原典を学び、これを中国に持ち帰り、仏教の普及に尽くされた歴史を読むのは、何度接しても心暖まる思いです。

般若心経は全部で262文字からなるお経で、釈迦の教えが圧縮されているそうです。この教えを求めて、日本からも、最澄、空海、円仁、栄西、道元等、実に多くの僧が中国に留学しました。釈迦の教えの根底になっているのは、般若心経だそうで、これを読むことによって、釈迦の教えの真髄に接することが出来るそうです。

貴い教えを紹介する本はいつもそうですが、ずばり、般若心経がどういうものか、262文字の紹介はどこにも書いてありません。話は次々と別の話題に広がっていき、この厚い1冊を読み終えると、著者松原さんという人は、やはり巷の坊さんの一人だなあという失望に似た印象だけが残ります。

もっときつい言葉を使うと、あちこちでの講演も、こうして般若心経の真髄をチラリズムで聴衆に聞かせているのではないかと勘繰りたくなる。

自分がこの本から得た般若心経とは、この世は、死を目前に苦しみの中にあり、苦しみは避けて通れない。だから人々は釈迦を信じなさい、僧が仏を信じさせるには、説法をする当人の心がいつもかわかない潤いある心でなければならないという、一つの伝導術だけでした。

これは般若心経の奥深い教えからは随分離れているように思います。もっと貴い教えがあるはずなのに、それは軽々しく口にできないのかも知れない。要するに、262文字と短いが、簡単には皆さんに紹介出来ない難しい教えなのだと想像します。

思わず笑いだしてしまう、面白いことが書いてありました。

座禅をする。座禅問答する。空になれと問われたとき、「クウ」と応えるのが、正解らしい。「犬になってご覧なさい」との問いには、「ワンワン」と応えればよいのと同じく、無になってごらんなさいと言われたとき、「ムウーゥ」と応えるのが正解らしい。無心になっていないと座禅はできないそうです。「無とは」と禅問答受けて、「ムウーゥ」と応える自分を想像すると笑いだして来ました。きっと不謹慎といって叱られるでしょう。

でも、松原先生シルクロードが大好きで、すでに何十回とシルクロードを訪問されておられる。この人の世界は、そうした意味でとても興味があり、空になれと問われたとき、「クウ」と応える座禅奥義を教わった話の語りの中にも、何となく暖かい、包容力みたいなものを実感して、実に微笑ましくなりましたし、やはりシルクロードオタクはいいなあと実感しました。

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